「完全な責任能力」地検 相模原殺傷、職員起訴

 相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が刺殺され27人が重軽傷を負った事件で、横浜地検は24日、殺人や殺人未遂などの罪で、元施設職員植松聖容疑者(27)を起訴した。20日まで行われた精神鑑定も踏まえ、地検は完全な刑事責任能力があると判断。平成以降で最悪の犠牲者数となった殺人事件は大きな節目を迎え、真相解明の場は法廷へと移ることになった。

 片岡敏晃次席検事は「鑑定結果も含め、収集された証拠を総合的にみて完全責任能力が問えると判断した」と説明。今後の裁判に向けては、「事案の真相を明らかにし、適切な処罰を得られるよう立証活動を行っていく」と述べた。

 捜査関係者によると、5カ月に及んだ精神鑑定の結果、植松被告は人格障害の一種とされる「自己愛性パーソナリティー障害」と診断された。ただ同障害は妄想や幻覚などを伴う精神病とは区別され、刑事責任能力に問題はないとする見方が一般的になっている。

 今後は裁判員裁判で審理される見込み。事実関係を争う余地が少ないとみられる中、裁判では植松被告の刑事責任能力の有無が最大の争点となる可能性が高い。弁護側が再鑑定を要請する場合もあり、公判前整理手続きが長期化することも想定される。

 起訴状によると、植松被告は昨年7月26日未明、通用口からやまゆり園敷地内に侵入。用意した柳刃包丁などで入所者を次々と襲って19人を殺害し、24人に重軽傷を負わせたほか、職員5人を結束バンドで縛って身動きできないようにし、うち2人にけがをさせた、とされる。軽傷だった職員1人への傷害行為については立件されなかった。

 植松被告は逮捕後の調べに、「障害者なんていなくなればいい」と障害者への偏見や憎悪を口にしていた。大麻の陽性反応も検出された。また事件前の昨年2月には「障害者470人を抹殺できる」などとする襲撃予告の手紙を衆院議長公邸に持参。その後の措置入院では「大麻精神病」などと診断された。

 植松被告のこうした言動から、地検は事件当時の精神状態を解明する必要があると判断。昨年9月から鑑定留置を始めたが、鑑定医からの要請もあり当初の約4カ月の予定を4週間延長した。◆刑事責任能力 善悪を判断する能力と、その判断に基づいて自身の行動を制御する能力とされている。刑法は、そうした能力が完全に損なわれている「心神喪失」の場合は刑罰を科せず、著しく低下している「心神耗弱」の場合は刑を減じると規定している。大量殺人事件の裁判では責任能力が争点となるケースも多く、大阪・児童殺傷事件(2001年)や東京・秋葉原無差別殺傷事件(08年)でも起訴前の精神鑑定が実施された。〈おことわり〉カナロコでは相模原殺傷事件の容疑者の男を匿名としてきましたが、起訴に合わせて今後は実名で報じます。事件の重大性を考慮した対応です。

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