高校代表コーチ陣は2年連続で同じ顔触れ 異例の布陣でW杯に挑む理由

今年9月、第28回U-18ワールドカップがカナダ・サンダーベイで開催される。前回(第27回)のW杯で開催国だった日本は準優勝。昨年はアジア選手権(台湾)で優勝したが、まだ世界の頂点に立っていない。

昨年行われたアジア選手権でも日本代表監督を務めた小枝守氏【写真:Getty Images】

今秋のW杯で初の世界一へ、高校日本代表の強みとなる首脳陣の存在

 今年9月、第28回U-18ワールドカップがカナダ・サンダーベイで開催される。前回(第27回)のW杯で開催国だった日本は準優勝。昨年はアジア選手権(台湾)で優勝したが、まだ世界の頂点に立っていない。

 今年の大会は昨年、堅実な試合運びでアジアの頂点に立った小枝守・日本代表監督が続投。代表コーチもヘッドコーチに中京大中京(愛知)の元監督、大藤敏行氏、コーチに関東一(東京)の米澤貴光監督、敦賀気比(福井)の東哲平監督が選ばれた。

 悲願の世界一へ、まずは土台を整えた。代表チームの監督やコーチはこれまで夏の甲子園を戦った学校の監督が務めるのが通例だった。代表コーチも、各校のスケジュールの問題、また、自分の学校の新チーム始動が遅れることなどから2年続けて務めることはほとんどなかった。しかし、拓大紅陵の元監督で日本高野連のスタッフだった小枝氏の場合は状況が違った。

 すでに高校の監督ではなかった小枝氏は、アジア選手権の1年近く前から明治神宮大会など時間をかけて視察。各都道府県の地方大会、春、夏の甲子園を見た上で選手を見極めた。「早い段階から候補に入れていた」と秀岳館(熊本)の九鬼隆平(ソフトバンク)を正捕手、またチームのリーダーになれる存在と見極めてリストアップ。その九鬼はアジア選手権で「4番・捕手」を任され、チームを引っ張り、指揮官の期待に応えた。

 大藤コーチも甲子園常連の監督で野球観、人脈も豊富。小枝氏同様に東海地区を中心に選手を見て回った。昨年の日本代表メンバーの大半は夏の甲子園に出場していたが、3番を務めた静岡・鈴木将平外野手(西武)、遊撃手でチームに不可欠だった中京大中京・佐藤勇基内野手(法政大進学予定)は昨夏未出場。それでも推薦し、結果的には2人とも不動のレギュラーで大会ベストナインに選ばれた。適材適所のメンバー構成は、監督、ヘッドコーチが早くから選手を視察できたことも影響している。

監督とコーチの信頼深めた印象的な出来事

 履正社・寺島成輝(ヤクルト)や横浜・藤平尚真(楽天)、作新学院・今井達也(西武)、花咲徳栄・高橋昂也(広島)、広島新庄・堀瑞輝(日本ハム)ら投手陣の状態を見極め、起用したのが東コーチだった。「自分は何もしていない」と多くを語らないが、偵察部隊が多く来ていると判断し、外のグラウンドのブルペンで調整させなかったり、格下相手への調整登板をさせなかったりと細かな配慮をしていた。野手を担当した米澤コーチは三塁コーチャーを務め、相手投手のクセを研究。対戦相手の過去の代表戦の成績なども細かくチェックした。打撃の指示だけでなく、守備隊形の指示も徹底。小枝監督は大会後に「コーチやスタッフのおかげで優勝ができた」と頭を下げるほど、信頼をしていた。

 監督とコーチの間で印象的な出来事があった。

 ある試合の偵察に小枝監督が行こうとした時、同じように球場へ出かけようとしていた東、米澤両コーチと宿舎でバッタリと会った。するとコーチは「監督、休んでいてください。僕らが行ってきます」と言った。お互いが尊重し合い、小枝監督は試合をテレビ観戦することにした。小枝監督は「2人が戻ってきたら、色々な特徴を出し合った。僕の思っていたことが、彼らの報告と同じだった。みんなそれぞれが意見を言い合ったし、その判断は間違いないなと思いました」と信頼が厚くなった。

 ベンチの中でも同じだった。ある試合で1死二、三塁のピンチを迎えた。前進守備にするか、後ろの位置にするか判断が迷う展開。そこで米沢コーチが監督に言った。

「後ろでよろしいですか?」

 最終的に判断を下すのは監督だ。コーチはその材料をあげる。小枝監督が感銘を受けたのは、その言い方だった。

コーチが見せた気遣い、「監督をやっている人だからできた配慮」

「自分が言おうと思っていることを先に言われると監督というのは迷いが生まれるものです。なので、最終的に私に決断をさせるように(言葉を)持ってきてくれた。これは普段、監督をやっている人だからできた配慮だと思います。そういうタイミングは気が合っていないと合わないと思います」

 もし、この場面で「監督、後ろにします」や「後ろでいきましょう」とはっきり言われると、指揮する人間は反対のシチュエーションを考えたくなるという。大藤コーチや米澤コーチも甲子園に何度も出場している名将。自分の中で采配の自信もあるだろう。それでも、監督が判断しやすい状況を作るため、言葉を選んでいた。小さな気遣いが大きなファインプレーとなった。その展開は無失点で切り抜けた。

 昨年の国際大会では選手への端的な助言、1点を取りに行く野球の徹底など、小枝監督のタクトは冴え、アジアの頂点に立った。しかし、指揮官は「選手のチームワーク、スタッフのチームワークもすごく大事だったし、大きかった」と優勝後に語った。30代の東コーチ、40代の米澤コーチ、50代の大藤ヘッドコーチ、そして60代の小枝監督。各世代から首脳陣を選出した裏には、次世代に国際大会の経験を伝えていきたいという小枝監督の考えもあった。

 W杯に向け、2年連続で同じコーチ布陣としたのは異例。初制覇のために、日本高野連も首脳陣の呼吸の良さを大切に考えたからだろう。そのほか、勝てるチームを作るために、第1次候補選手の発表時期をセンバツ直後ではなく、6月に変更するなど、これまでの高校日本代表とは異なる動きが出てきている。

 今秋、若き侍たちは栄冠を手にすることできるか――。最善を尽くして、世界一を目指していく。

© 株式会社Creative2