【中部地区大手特殊鋼流通・三悦 創業100周年】特殊鋼の普及目指し創業 大同特殊鋼と二人三脚、〝三者互悦〟で発展

中部地区大手特殊鋼流通、三悦(本社・名古屋市港区十一屋1―12―3)が今月、創業から100年の大きな節目を迎えた。時代の潮流を捉えた事業戦略を展開するとともに、諸口商いを中心とするきめ細かなサービスを提供。主要取り扱いメーカー・大同特殊鋼との強固な協力、信頼関係の下で安定供給体制を構築し、1世紀にわたって地域、需要家に愛され続けてきた。自然災害をはじめとする数々の苦難を乗り越え、加工分野へのいち早い進出、地区同業とのアライアンスなど先駆的な取り組みを通じて継続的な成長遂げた、三悦の100年間の軌跡をひも解く。(佐野雄紀)

三悦商会時代の集合写真%

三悦は1917年(大6)、名古屋市熱田区金山近辺で樋田勇氏など3氏が個人商店「三悦鋼材商会」を創業したことに端を発する。社名には「三人が悦び繁栄できる」ような事業を進める、という願いが込められた。

当時「電気製鋼所」を設立した主要取り扱いメーカー、大同特殊鋼とは創業年がわずか1年違い。特約店として、創成期から二人三脚で当時なじみの薄かった特殊鋼の普及、販売拡大に尽力した。

38年には合名会社三悦商会へと改称、法人化して樋田耕平氏が代表に就任した。40年に本社を名古屋市瑞穂区へ移転し業容拡大を図るものの、戦災に遭い事業は一時停滞を余儀なくされる。

時代、ニーズを切り拓き成長

新築時の旧本社社屋内

戦後の混乱が続く47年(昭22)、瑞穂区牛巻町に本社を新築、移転し心機一転新たなスタートを切る。樋田浩三現社長の父である2代目・耕平氏が強い開拓者精神を持ち、手押し車で構造用鋼、高速度鋼を地道に売り歩いた。耕平氏による粘り強い販路拡大の努力が、三悦の盤石な礎を築き上げたといっても過言ではない。なお、生き字引であるこの手押し車は、今も三悦本社工場で大切に保管されている。

60年には三悦特殊鋼株式会社へ改組。鋼材のさらなる販売数量アップに向けたエリア拡大に踏み切り、64年富山県に営業所を新設したことに続いて、77年には長野出張所(現営業所)を開設した。

各種特殊鋼の定尺品販売を通じて年々売り上げ規模を拡大する一方、耕平氏は引き続き新規事業を思案していた。顧客目線を心掛け需要家の声に熱心に耳を傾け続けると、エンドユーザーの望む形状、サイズでの納品ニーズが高まっていることが分かった。

市営地下鉄構内に掲示された広告看板

そこで現本社所在地に本拠を移した69年、切断など加工に特化したサンエツ鋼機を瑞穂区牛巻町に設け、全国の在庫問屋に先駆けて加工分野に進出した。素材販売先の加工業者と競合関係となるケースもありながら、逆境を超えてその後も加工機能を強化。富山営業所でも機械加工を手掛けることとなる。

品目拡大、協業加速で発展

時代が平成に移り、89年に社名を現在の三悦に変更。特殊鋼の名を取り去ったのはエリア拡大、加工への参入に続き、特殊鋼以外の取り扱いを始め、さらなる経営拡大につなげたいという思いが込められている。99年には樋田浩三氏が社長に就任、需要家、仕入れ先、社員の三者心をつかみ、感動を与える経営を目指す「三者互悦」をモットーに新たなスタートを切った。

品ぞろえ拡充のみならず、2000年には大同特殊鋼系の地区流通、佐久間特殊鋼(佐久間貞介社長)、サハシ特殊鋼(佐橋健一郎社長)と3社の頭文字を名称の由来とする「スリーエス会」を発足。店売り向け構造用鋼をサイズに応じて各社が在庫し、共同運用する業務提携関係を結んだ。

03年からメタル便東海と運送事業におけるタイアップも果たし、販売力強化とコスト削減を推進。サンエツ鋼機合併や富山営業所の譲渡、東海豪雨による大府営業所の閉鎖といった拠点再編も経ながら、徐々に現在の業容を作り上げてきた。

次の100年に向けて

永続的な成長へ、中長期的にはM&Aも視野に入れながら加工領域の拡大を目指していく考えだが、今後はまず現在の機能に磨きをかける方針。その根幹にあるのは、創業当時からの〝ユーザー目線〟だ。

経営方針にある「正確、奉仕、迅速」をモットーとする販売力、協力会社のネットワークも活用したニーズに応える幅広い加工対応力、安心感や信頼感を提供する人材の育成――流通としての基本的な役割を着実に果たすことに最も重きを置くことは変わらない。

その結果、三悦は今後も工作機械メーカーなどの需要家、大同特殊鋼や新日鉄住金をはじめとする仕入れ先、社員の「三者」がともに手を取り合い、悦び合い、繁栄するという創業当初からの目標を達成し続け「愛され選ばれる流通」として、今後も成長し続けていくだろう。

三悦・100年沿革

【樋田浩三社長インタビュー】「ユーザー目線徹底〝感動与える営業〟展開」

三悦・樋口社長

――創業100周年の節目を迎えました。

「創業者である祖父・勇氏の代から続く当社が、私の代で無事100年目を迎えることとなり、安心しているのが率直な思いだ」

――経営理念をお聞かせ下さい。

「経営理念は、会社に関係する皆様の心をつかむ経営を実践する『三者互悦』の精神。お客様には安心感を、仕入れ先様には信頼感を、そして社員には達成感や充実感を提供し、お互いが手を結んで悦び合い、繁栄する企業文化の構築を狙いとしている。お客様に感動を与えられる営業を展開することがこれまでも、そしてこれからも経営のキーポイントとなるだろう」

――1世紀にわたる持続的成長を実現した要因、ターニングポイントは。

「常にお客様、仕入れ先様の目線で事業を展開し続けたことに尽きるだろう。特に2代目の父・耕平氏が戦後、弟の盛平氏とともに創業者の遺志を継ぎ、開拓者精神をもって事業拡大に注力した点が大きい」

「また全国の特殊鋼流通の先駆けとして昭和40年代からフライス、旋盤などを置き機械加工をスタートしたことも転機と言えるだろう。当時材料問屋が加工を手掛けるということが先進的だったことから、加工業者と業務が重なるなど苦戦も多かったようだが…」

「平成元年ごろからアマダ製切断機の導入を本格化し、本社工場と加工に特化した別会社、サンエツ鋼機で切断加工を始めたことも転換点だ。富山営業所でも機械加工を再開し、定尺販売が伸び悩む中でも加工分野にシフトして販路を広げた」

――逆境も決して少なくないと思います。印象に残る出来事はありますか。

「98年にサンエツ鋼機を吸収合併する際、人員整理の必要に迫られたことが辛い思い出として強く残っている。専務という立場で合理化を進める大変さを実感した」

「社長就任後は2000年の東海豪雨被害が甚大だった。当時、主に工具鋼を扱い、加工を行う大府工場(愛知県大府市)を保有していたが、事務所棟1階部分の天井まで浸水。什器類がすべて使用不能となったため同所を閉鎖し、本社への機能集約を余儀なくされた」

「最も苦労したのは富山営業所のカムス(本社・群馬県太田市)への合併だ。当初業務ごとの協業を模索していたが、待遇面などで当社社員に不利益が生じる恐れがあったことから全面譲渡に踏み切った。元メンバーは転籍後も定着し、現在も第一線で活躍していると聞き、大変喜ばしく感じている」

――改めて現在の事業内容を。

「本社と長野営業所(長野県岡谷市)を拠点に大同特殊鋼、新日鉄住金などのSC材などを常時在庫し、店売りユーザー向けを中心に定尺品・切断品を販売している。商社機能を担い出荷する製品も多く、向け先は工作機械、設備関連がメーンだ。特殊鋼以外の品ぞろえ拡充も進めており、普通鋼や連鋳棒、加工部品も取り扱う」

――足元の課題は。

「近年若手社員が増えてきたこともあり、営業力を一段と高め、ユーザーとの関わりを深めて情報力を高めることが今後の課題だ。昨年11月の新日鉄住金・和歌山製鉄所見学会も需要家との関係強化を狙ったものだが、大同特殊鋼・知多工場を見るイベントも企画している」

機能強化、事業拡大へM&Aも検討

――次の10年への方向性、ビジョンを伺いたい。

「内需縮減で定尺品需要の将来的な伸びが期待し難く、販売競争の発生でじり貧となる恐れが強い。やはり根強いニーズが残る加工分野の深掘りが不可欠となるだろう。事業領域拡大に向けて、M&Aも選択肢の一つとして視野に入れている」

「これに加え、販売力といった基本的な機能を強化し、さらに地力を付けることも肝要。毎年6月に行う全社教育会、外部研修プログラムを通じた社員教育を一段と強化する」

「機能強化や社員のレベルアップは、あくまでも『お客様のニーズをきめ細かく捕捉し、着実に実行する』ための方策。1世紀にわたって第一に考えてきた〝ユーザー目線〟を徹底し、さらなる飛躍を遂げていきたい」

【特殊鋼業界から祝辞】

きめ細かいサービスに感謝 石黒武氏(大同特殊鋼社長)

この度、株式会社三悦殿が創業100周年を迎えられましたことを心よりお祝い申し上げます。貴社が1世紀という長い時間を歩んでこられた歴史に改めて敬意を表します。

大正6年に先々代の樋田勇社長が特殊鋼鋼材を販売する事業を始められました。以来、先の大戦による戦災、幾度にも及ぶ自然災害や景気減退等の困難を乗り越えられ、戦後復興、高度成長、生活大国への発展という、日本の近現代史の様々な局面において、ここ東海地方の産業を支えてこられました功績は多大なるものがございます。

創業以来、社員の皆様におかれましては、常に「三者互悦」の精神をもって商売にあたられ、時には様々な困難に直面しながらも、特殊鋼業界の発展に大きな役割を果たしてこられました。歴代社長をはじめとするご関係各位のご努力に敬意を表するとともに、加工や流通分野において、高度な技術と地の利を活かして顧客ニーズにきめ細かく応える行き届いたサービスを提供する体制を整えて頂いていることに対し、一特殊鋼メーカーとして深く感謝する次第であります。

弊社も昨年創業100周年を迎え、三悦殿とはおよそ100年に渡り、お互いに成長させて頂きました。これからもお客様、仕入先に信頼される特殊鋼流通の要として、益々発展されることをご祈念申し上げ、お祝いの言葉とさせて頂きます。

【特殊鋼業界から祝辞】

業界への多大なる貢献を尊敬 佐久間貞介氏(佐久間特殊鋼社長)

本年、三悦殿が創業から100年という大きな節目を迎えられましたことを、心よりお祝い申し上げます。

今日まで、社名の由来である「三者互悦」の基本理念をぶれることなく貫きながら、店売りを主体とする特殊鋼販売で成長を続けられ、業界で確固たる地位を築かれました。又、特殊鋼業界を始め様々な団体活動にも積極的に参加され、社業と併せて社会の発展に寄与されたことに対して尊敬の念に堪えません。

樋田浩三社長は誰に対してもにこやかな笑顔で接する穏やかなイメージがありますが、心の内にはだれにも負けない強い信念をお持ちだと感じています。両立が難しいこれらを自然に体現され、あふれ出る人間的魅力も大きな武器となり、会社が繁栄されたのだと確信しています。

近年ではお客様のニーズ、マーケットが目まぐるしく移り変わっており、今後10年で起こり得る変化が、過去100年間にあった変化以上となることも予想されます。

これまで培った良さを生かしながら、これからの環境の変化に今まで以上に素早く、柔軟な対応をされ、次の100年に向かって一層の飛躍を遂げられることを祈念し、お祝いの言葉と致します。

【特殊鋼業界から祝辞】

堅実な事業推進に敬意 佐橋健一郎氏(サハシ特殊鋼社長)

三悦殿が創業100周年を迎えられましたことを、心よりお祝い申し上げます。

御社におかれましては創業以来、工作機械関連を中心とするユーザー様との緊密な関係を構築し、構造用鋼の加工販売を中心に堅実な事業を推進され且つ業界に大きく貢献され続けたことに対し、改めて深い敬意を表するところです。

100年間にわたり成長し続けられているのは、盤石な経営方針のみならず樋田浩三社長の温厚、誠実なお人柄が多くのファンを生み、商売の幅を広げられたものと推察しております。

創業者樋田勇様と弊社2代目・佐橋忠雄が遠戚関係にあったこともあり、現在に至るまで公私にわたって交流させて頂いており、これからもお互い協力し合いながら、末永くお付き合い頂ければ幸いです。

最後に、次の100年に向けて御社がさらなる成長、発展を遂げられることを心よりお祈り申し上げます。

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