【新潟県の農業水利施設保全計画関連鉄鋼需要を探る】護岸用鋼矢板など補修、更新へ 鉄鋼業界からも新商品提案

国や自治体は個性と活力のある豊かな農業・農村の実現を目指し、新たな土地改良長期計画に取り組んでいる。その政策目標の一つが農業水利施設の戦略的な保全管理と機能強化だ。

新潟県は農業水利施設の健全度評価に基づいた施設の保全管理の効率性の向上に向け、計画に則った点検、補修などストックマネジメントに注力。県の取り組みと併せ鉄鋼業界からの新工法や更新需要への対応を紹介する。

鋼矢板の更新や補修

新潟県内の農地にはかつて低平地の排水改良を実施する際に、仮設水替えなどを必要とせず、施工性や経済性の点で優れていたため、特に軽量鋼矢板を打設した護岸が多い。

しかし、近年、補修、補強、更新需要を迎えつつある。補修工法選定にはコスト、耐久年数、工期などさまざまな課題がある。全国で2番目に農業水利施設の多い新潟県の取り組み、鉄鋼業界からの提案をレポートする。

土地改良、長期計画

2016年夏、農水省は新たな土地改良長期計画をまとめた。期間は16~20年度の5カ年。政策目標の一つが農業水利施設の戦略的な保全管理と機能強化だ。

農業水利施設の現状

CABA工法の構造イメージ図

新潟県は低平地が多く、海抜0メートル地帯を乾田化することで全国2位の耕作面積を誇る。越後平野約10万ヘクタールの内、約6割が機械排水に頼る。

基幹的農業水利施設はダム、頭首工、排水機場が653カ所、用排水路が1106カ所で合計1759カ所。再建設費(08年ベース)は約1兆5500億円となり全国2位、約1割のシェアを占める。

この施設の内、16年度末までに46%、21年度末までに59%が標準耐用年数を超過する見込みだ。

機能保全計画を策定

新潟県は県営造成施設を対象に02~03年度にかけ、「農業水利施設保全対策事業」により既設の機能診断と予防保全計画策定に着手し、08年度から機能診断と予防保全計画を引き継ぐ「機能保全計画」の策定を行い、健全度に応じ(1)対策不要(2)要観察(3)補修(4)補強(5)更新と評価。18年度までに県営造成施設の策定率(点検完了)を100%達成する目標だ。

現時点で点検を終えた分の健全度評価の結果は補修が48%、要観察が34%、対策不要が8%、補強が7%、更新が3%。

老朽化対策の実施

護岸のメンテナンスは農業農村工学会で産学官連携により優秀技術賞を受賞したのは2例。鉄筋コンクリート二次製品(プレキャストパネル)を水路側に設置するストパネ工法が実用に問題ないと判断され、新潟市内で発注された複数の工事で実施している。

もう一つは既設鋼矢板の腐食部分を切断し、健全部を接合し打設し直す「継ぎ矢板工法」が新潟市内で実証試験を行っている。

北陸農政局では鋼矢板の補修、補強に関するマニュアル策定の検討もある。それには事例の蓄積が必要。健全度など、さまざまな指標から検証される。

鉄鋼業界からの提案

高炉メーカー、建材メーカー各社は従来から用いられている軽量鋼矢板やU形鋼矢板に加え、より大断面のハット形鋼矢板などを提案する。

新日鉄住金グループは補修・更新に加え、耐震や水田の大規模化など機能強化による新設需要にも多様な提案商品で臨む。

ハット形鋼矢板は従来のU形鋼矢板に対し、工期短縮やトータルコストの低減が期待でき、かつ新サイズ(45H、50H)を加えた豊富なサイズラインアップで状況に合わせた提案が可能としている。

日鉄住金建材が開発したCABA工法は新日鉄住金ステンレスのステンレス鋼板(高耐食・低クロム高純度フェライト系ステンレス鋼NSSCRFW1)を採用した画期的な老朽化補修工法だ。

16年春、新潟市西蒲区の西蒲原土地改良区が施主となり、試験施工を実施した。既存施設の上に、軽量なステンレス鋼のパネルを設置する工法だ。化粧型枠と表面保護を兼ね備えるパネルと既設鋼矢板の間にコンクリートを充填し、延命・補修する新工法。

メリットはパネル自体が軽量で人力で搬入が可能な点。トータルコストも軽減できる。17年度プロジェクトでの採用を目指している。

同社はその他水路関連でステンレスU字フリューム、ステンレス軽量鋼矢板の活用など、さまざまな商品の提案活動を行っている。

JFE建材は12~13年度にかけて新潟県発注の亀田郷へ軽量鋼矢板を供給した。更新需要によるもので、技術担当、営業担当幹部両面から需要家へのヒアリングや現地調査を地元特約店、有力重仮設業者を交えて実施した結果、農業水利施設の維持補修の最大の課題はライフサイクルコストと認識した。従来の軽量鋼矢板の素材変更による耐食性向上、耐食性に優れたJFEスチールのSUS443シリーズ(フェライト系)を活用した新商品の開発、既存の土木商品を活用した工法の提案などを重点テーマとしてJFEスチールとともに連携しながら取り組んでいくことにしている。

市民への広報活動

新潟県では児童や地域住民向けに農業水利施設の機能や役割を紹介する広報活動を行っている。16年度は親松排水機場、白根排水機場、大島頭首工などの施設見学会や教育機関に向けた出前授業、公共施設でのパネル展などを開催した。

市民や次世代を担う小学生向けに、用水路のごみによる弊害などの周知とともに維持管理などの重要性の理解促進を図っている。

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