キューバ主砲デスパイネ、侍Jが攻略するには 「デスパイネシフト」も有効か

3月7日にWBC初戦を迎える侍ジャパン。その相手となるキューバ代表には、日本で3シーズンにわたってプレーしてきたアルフレド・デスパイネが名を連ねている。なかなかまとまったデータが得にくいキューバ代表だが、デスパイネは別だ。NPBで残した記録から攻略を検討してみたい。

真ん中から高めを得意とするデスパイネ

パ・リーグ屈指の強打者はハイボールヒッター

 3月7日にWBC初戦を迎える侍ジャパン。その相手となるキューバ代表には、日本で3シーズンにわたってプレーしてきたアルフレド・デスパイネが名を連ねている。なかなかまとまったデータが得にくいキューバ代表だが、デスパイネは別だ。NPBで残した記録から攻略を検討してみたい。

 デスパイネがNPBでプレーした3シーズンで放った本塁打は1161打席で54本。パ・リーグ屈指の長打力を備えた打者といってよい。まず、デスパイネの強打がどういったコースに対して見られていたか? そこから確認していく。

 ストライクゾーンを9分割、ボールゾーンを含め25分割した配球図で、本塁打にした投球のコースを表したのが一番左の図だ。低めのストライクゾーン、ボールゾーン、合計10のコースの球を本塁打にしたのは54本塁打中わずか4本。本塁打のほとんどは真ん中から高めの球だった。また同じ高めでも、内角より外の球を多く本塁打にしており、このあたりがデスパイネの得意としているコースのようだ。

 中央の図は、打球がどれだけゴロになったかを表すゴロ率を、コース別に出したものだ。本塁打が多く出ていた真ん中から高めはゴロ率が低く、フライやライナーが多い打者にとって、狙い所のコースであることがうかがえる。逆に本塁打の少ない低めのコースは、バットに当たったとしてもゴロになることが多いようである。

 右の図はいかに長打を多く放つことができたかを表すISO(Isolated Power:長打率-打率)をコース別に出したものだ。ここでも、高低でどれだけ長打が生まれやすいかに差があることが確認できる。デスパイネが多く本塁打を放っているストライクゾーンの真ん中から高めのコースは6つのうち5つのコースでISOが.300を超えている。それに対し、低めにそういったコースはない。また、高めならばボールゾーンでも長打の危険性は高まる。外角低めはいくらパワーのある打者でも長打を放つことは難しいことがわかる。非常にシンプルな結論だが、デスパイネを打ち取るにはとにかくボールを低めに集めることである。

ゴロ打球に大きな偏り 三遊間に「デスパイネシフト」を

 低めのコースであれば、打球が長打になる危険性を下げられそうなことがわかった。だが、うまく低めを攻め、ゴロを打たせることで得られるメリットはそれだけではない。この図はデスパイネのゴロ打球を方向別に表したものだが、三遊間に非常に多くのゴロを放っている一方、一二塁間へのゴロはごくわずかでかなり偏りがある。

 レフト方向、センター方向、ライト方向と三方向に分類すると、レフト方向へのゴロは56.9%、ライト方向へと飛んだゴロはわずか6.5%。一、二塁手の定位置付近に打球が飛ぶことは非常に稀で、デスパイネが打席に立った際、そこを守る意味は小さい。遊撃手を三塁側に寄せ、二塁手を二塁ベース付近に守らせるなど、打球方向の特徴を考えたシフトをとってもよいはずだ。

 低めを攻め、ゴロを打たせ、三塁側に寄せたシフトの網にかける――。デスパイネにできるだけ力を発揮させないための方策として、これを提案しておきたい。

スピードボールへの対応に強み、一線級の投手との対戦でも能力を発揮

 もうひとつ、デスパイネの特徴について述べておきたい。代表戦には、原則として優れた投手が選ばれて出場するものである。特に日本の場合はそれが顕著で、侍ジャパンの投手とNPBの平均的な投手では大きな開きがあるだろう。デスパイネはシーズン中よりも高いレベルの投手を相手にすることになる。

 代表クラス=NPBの一線級との対戦で変わることといえば、最もわかりやすいのは球速である。侍ジャパンでも時速150キロを越えるストレートを投げる投手がずらりと並ぶ。もしデスパイネが速球を苦手としていた場合、これは日本にとっては吉報となる。

 左側のグラフは、球速帯別にストレートへの対応を見たものだ。スイング率から見ると、NPB平均、デスパイネともに球速が速ければ速いほど数字は上がっている。ボールが速いと打者がボールを見極めるための時間が短くなるため、遅い球ならボールであると見切って見逃せるコースであっても、うまく判断できずスイングしてしまう、というケースが増えるのだとみられる。

 右側のグラフは、打席で投じられた全ストレートに占める空振りの割合(空振り率)を球速帯別に見たものだ。デスパイネは多くの長距離打者がそうであるように、全般的には空振りの多い打者なのだが、ストレートに限ると空振り率はリーグ平均レベルになっている。146キロ以上のストレートに対しての空振り割合は横ばいとなり、スピードボールへの対応力の高さが見て取れる。

 つまり、速いストレートに対しては、一般的な打者と同様に“つられ”てスイングにいくケースが多いが、そうした場面のスイングであっても、ボールにバットを当てることはうまくやってのけており、簡単に空振りはしていないようだ。

高め、またストレートを痛打…気になる対戦成績も

 最後に、気になる対戦成績があったので挙げておく。キューバ戦の救援待機が濃厚と伝えられている則本昂大(楽天)は、過去3シーズン、デスパイネと31打席対戦し、11安打3本塁打2四球9奪三振と非常に分が悪い。

 3本の本塁打はいずれも高めに浮いた変化球であった。ハイボールヒッターのデスパイネにとっては絶好のボールだったのかもしれない。また、本塁打を除く8安打はすべてストレートを弾き返されたものだった。44球投げたストレートで空振りを奪ったのはわずか2球。デスパイネは則本との対戦において、先ほど示した特徴どおりの、スピードボールへの対応力も見せていた。

 31打席という限られたケースの統計ではあるが、気にはなる。やはり、最大限の注意を払うべき打者であるのは間違いないようだ。

DELTA●文 text by DELTA

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~5』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(http://1point02.jp/)も運営する。

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