宿場を版画で体感 「東海道五十三次の旅」展

◆箱根・岡田美術館 4月2日まで 歌川広重(1797〜1858年)の浮世絵「東海道五十三次」を中心に、街道沿いの風物を捉えた絵画や工芸品約75点によって、時空を超えた東海道の旅が楽しめる「美術館で巡る 東海道五十三次の旅」展が、神奈川県箱根町の岡田美術館で開催中だ。宿場を順番に追うことで、江戸時代の情趣豊かな風景を体感できる。

 広重は生涯で20種を超える東海道シリーズを制作したが、版元の保永堂が中心となって出版した「東海道五十三次」は爆発的な人気を集めた。同展では1833年から34年にかけて刊行された保永堂版55枚を一挙公開し、宿場に関連する美術品を紹介している。

 当時、日本橋から京都までの約500キロを、平均で成人男性は13日、女性は16日かかったという。広重は53の宿場をさまざまな時間、自然の中で捉え、構図を工夫して描いている。

 6番目の宿場となる藤沢宿では、江の島へ向かう江の島道(みち)への分岐点を捉えた。江之島神社の一の鳥居と境川に架かる大鋸橋(だいぎりばし)、その背後に遊行寺が見えるように描く。

 遊行寺から橋を渡ってくるのは、納め太刀という大きな木製の刀をかついだ大山詣での一行。招福などの願い事を太刀に記し、これを大山詣でに持参して祈願し、持ち帰って神棚などに飾る風習があった。

 鳥居をくぐろうとしているのは、江の島詣でに行くつえを突いた目の見えない人々で、同宿はこうした多くの参詣人でにぎわっていた。

 箱根宿は10番目の宿場。広重は切り立った山々を画面の右に、左に芦ノ湖と富士山を望む構図で、天下の険と呼ばれた東海道随一の難所を表現した。険しい山肌は緑、茶、黄などパッチワークのように色とりどりに描かれ、大名行列の一行が山あいに小さく見える。

 同宿については、広重の肉筆画「箱根温泉場ノ図・箱根湖上ノ不二」という対幅の掛け軸も紹介。江戸時代に湯治場として人気を集めた箱根の風景を見ることができる。

 右幅の温泉場は、大きくせり出した奇岩の様子から、恐らくは塔ノ沢の勝驪山(しょうりざん)とされ、早川に架かる橋を渡って旅館に向かう旅人が見える。

 これは山形の天童藩・織田家からの依頼による「天童広重」と呼ばれる肉筆画の一つで、版画とは趣が異なり、武家好みのすっきりした品格のある作品だ。

 同館の近森愛花学芸員は「絵画を通して旅気分を味わう楽しさを体感してほしい」と来場を呼び掛けた。

 4月2日まで。一般・大学生2800円、小学・中学・高校生1800円。3月19日午後1時から、小林忠館長の講演会「広重と東海道」がある。申し込み・問い合わせは同館電話0460(87)3931。

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