【東邦亜鉛が創業80周年】手島社長「豪州子会社軸に次なる資源模索」「若い世代、飽くなきチャレンジを」

東邦亜鉛が今年で80周年を迎えた。安中製錬所での電気亜鉛の製錬事業でスタートした同社は、歴史の長い企業が多く集う非鉄製錬業界の中でも常に挑戦者として技術革新などに取り組み、現在では鉛が国内首位、亜鉛が国内シェア2割を占める企業に成長した。近年では豪州CBH社を完全子会社化するなど資源ビジネスでも積極的な事業展開を進めている。手島達也社長に80年の歩みと今後の戦略などを聞いた。(相楽孝一)

東邦亜鉛・手島社長

――1937年2月に創業した。当時の経緯を。

「もともとは碓氷川の水力で安い電力を供給するという条件で企業誘致の話があり、そこに安中製錬所を建設したのが当社の始まり。その後、昭和25年に契島製錬所を買収し、鉛製錬も本格的に手掛けるようになった。昭和30年代に安中の設備大型化に対応するために小名浜に亜鉛の焙焼設備を作るとともに、銅製錬に進出したという歴史もある」

――80周年を迎えての感想を。

「さまざまな困難を乗り越え、何とか80周年を迎えられたというのが正直な感想だ。非鉄製錬は銅、鉛、亜鉛で一つのパッケージと言われるが、当社は昭和50年代に銅製錬から撤退し、亜鉛と鉛しか残らなかった。これが弱みでもあったが、亜鉛と鉛で必死に頑張るしかなかったからこそ80年という歴史の中で亜鉛と鉛に関する技術が着実に培われたとも言える。この技術の蓄積こそが当社の強みだと思う」

――80年の中で、どこがターニングポイントだったと考えますか。

「昭和30年代に約40万坪の用地を小名浜に取得して亜鉛の焙焼炉と小規模ながら銅製錬設備を導入した。ここで考えていたのは亜鉛の大型設備をもう一基増設することと銅製錬を大型化して飛躍しようということ。だが、昭和40年代に安中の問題があって、当時50億円を投じて完成させた増産設備が動かせなくなり、その計画が潰えた。これが最大のターニングポイントだったのではないか」

「当時としては非常に大きい投資だったのでその負担も大きかった。その後も円の変動相場制への移行や2回のオイルショックによる電力代の上昇など苦労の連続だった。最近ではリーマンショックや欧州債務危機、中国の経済危機などが非鉄相場を押し下げる要因となり、東日本大震災では小名浜製錬所の操業停止もあった。さらに現在も影響を受けているのは震災後の電力料金の高止まり。これは当面続くのだろうが、現実から目を背けても仕方ない。それに立ち向かい、操業コストや技術の改善などを粛々と進めていくしかない」

――今後も技術革新が重要課題であると。

「私自身も長年製錬に携わっていると、これ以上の改善はなかなか難しいだろうという思い込みがあった。だが、長年改善したいと考えていたことがここ数年で実現できてしまって、その思い込みは私の思い上がりだったと自戒している。こうした技術的な改善の効果は一過性ではなく、ずっと享受できる。今後も挑戦すればまだまだ改善できることがあると考えている」

――最近では豪州への資源投資もあった。

「当社は80年代に鉱山ビジネスから撤退していた。これは海外鉱山に割く人員や資金を維持する余力がなかったことと、当時は容易に鉱石が確保できる見通しにあったためだ。だが、02年ごろから中国で製錬設備の増設が相次ぎ、鉱石の安定調達に懸念が生じたため、CBHへの出資を決めた。当初は狙い通りの効果を得られたが、10年にベルギーの亜鉛会社がCBHに敵対的買収を仕掛けてきて当社の権益(約23%)を渡すか、100%を持つか二者択一を迫られた。どちらも厳しい選択だったが、資源確保を重視し、完全子会社化に踏み出した。これで資源確保という目的は叶えられたが、欧州債務危機などで相場が想定よりも低い水準で推移し、鉱山の収益悪化や減損が会社の収益や財務状況をだいぶ毀損した。だが、昨年後半から鉱石のタイト化による亜鉛減産を見越した先行期待で価格が上昇基調となっている。鉱石がタイト化すれば国内製錬所のTCは下がるが、鉱山でヘッジできる。そうした中でCBHでもエンデバー鉱山で実施していた減産を4~5月ごろからフル操業に戻す計画で、収益力も上がるとみている。数年遅れではあるが、出資当初に狙った効果が出つつある」

――90周年、100周年に向けた今後の方向性を。

「CBHというけん引車を生かすために、CBH自身の収益体制を整えることと、鉱山を少しでも延命させるための探鉱をしていく。特にラスプ鉱山の探鉱は促進したい。その中で製錬と資源のほど良いバランスを取りながら資源事業の収益力を拡充する。また、CBHを有効に活用しながら豪州を中心とした地域で次なる資源を模索していく。これは早く見つかればうれしい話だが、資源は中長期的な視点で腰を落ち着けて手掛けていこうと考えている」

「製錬は環境がアゲインストだが、それにしっかりと向き合って競争力を着実に上げていくこと。また、製錬技術者も鉱山の大変さを理解しておいた方が良いと思うし、鉱山技術と製錬技術は重なる部分もある。CBHは人材育成の場としても活用したい」

――次世代を担う社員へのメッセージを。

「実は先ほど言ったさまざまな改善でも若い世代が大活躍したというケースがある。そういう意味では技術系、事務系問わず、若い世代には非常に期待している。会社は人でしか回らない。ぜひ飽くなきチャレンジをしていってもらいたい」

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