59歳教育費で貯蓄ゼロ。住宅ローン残債が2000万円

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回は、定年間近で家計赤字に頭を抱える59歳の男性。ファイナンシャル・プランナー、平野泰嗣さんが担当します

59歳、携帯料金とカード払いの滞納通知が。貯蓄もなくなりました

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回は、定年間近で家計赤字に頭を抱える59歳の男性。ファイナンシャル・プランナー、平野泰嗣さんが担当します。

相談者

「きみりん」さん(仮名)

男性/59歳/会社員

東京都/持ち家・マンション

家族構成

妻(55歳/主婦)、長女(18歳/高校生)

相談内容

毎月3万円ほど赤字です。これまで貯金でまかなっていたのですが、長女の大学資金でそれもなくなります。先日、携帯料金とクレジットの支払い分が残高不足で引き落とされず、滞納通知が届きました。マンションのローンは2000万円も残っています。最近は、残業がなくなりました。私は今年10月に定年です。再雇用で5年間働きたいと考えていますが、それでも今後、どうやって暮らしていけばよいか、途方にくれています。また、退職金と企業年金の一括取得で、住宅ローンの繰上返済も考えていますが、どの程度すればいでしょうか。

家計収支データ

「きみりん」さんの家計収支データ

家計収支データ補足

(1)給与、ボーナスについて

残業代がつく場合は平均、月7万円ほど手取りがアップした。ボーナスは半分が住宅ローン、残りは生活費赤字部分の補てん。

(2)定年と定年後の収入

退職金/1570万円(今年11月支給)、企業年金/978万円(一括支給の場合)再雇用後の給与・ボーナス/現在の60%程度

(3)住宅ローンの内容と返済計画

当初借入額:3960万円 借入開始年:1995年 返済期間:35年

今の金利:0.975% ローンの種類:変動 過去の繰上返済:無し

ローン残高:1930万円

定年後、少なくとも退職金でボーナス払い部分の残高、約1000万円を一括返

済、あるいは企業年金を一括取得して全額返済を考えている。

(4)長女の大学費用

初年度128万3500円、2年目以降は年100万円ほど、他に教科書等で30万円トータルで約460万円。学費には今もっている貯蓄と学資保険200万円(今年3月満期)を充てる予定。

(5)保険について

・夫/終身(60歳払い済み、死亡1300万円)=保険料1万442円

・夫/がん(終身、入院5000円)=保険料1400円

・妻/個人年金(60歳から10年確定、年間48万円) =保険料9000円

・長女/学資保険(18歳満期、満期金200万円)=保険料1万円

(6)妻が働くことについて

これまで何度となくパートはしている。目的は家計の足し、赤字補てん。しかし、結婚当初、働かなくても食わせてやるという発言をしたため、自分からは働くよう頼みづらい。また、妻もできれば働きたくないと「きみりん」さんに言っている。

FP平野泰嗣の3つのアドバイス

アドバイス1 本当の支出を洗い出し、老後対策につなげる

アドバイス2 カード利用の内容把握と、自分たちなりの限度額を決める

アドバイス3 繰上返済は月払い分とボーナス払い分を按分すると効率的

アドバイス1 本当の支出を洗い出し、老後対策につなげる

今後および老後の生活資金について心配されているということですので、まずはキャッシュフロー表を作成してみました(表参照)。

「きみりん」さんの今後10年ほどのキャッシュフロー

それによると、基本的な生活費が現在と変わらないと想定した場合、住宅ローンが完済するまで(相談者74歳)は、年間収支は毎年赤字に。その後、貯蓄は600万円程度を維持したまま推移していくということになります。

これはあくまでいただいた支出データをもとに作成したものです。しかし、残業代があった頃の収入(現状より7万円増)や現時点の貯蓄額、ボーナスの支給額の半分が生活費の補てんになくなることなどを考え合わせると、実際はもっと支出がある可能性が高いのではないでしょうか。

実はここが重要なポイントで、もし、実際にもっと支出が多く、そのことに本人が気づいていないとすると、先に示した資産結果は当然違ってきます。つまりは、生活費を抑えることを十分に意識しないと、いずれ老後資金は底をつくこともあり得るということです。

したがって、「きみりん」さんがまず着手すべきことは、本当の家計支出の把握です。それができてはじめて、将来を見据えた家計管理が可能になります。

アドバイス2 カード利用の内容把握と、限度額を決める

家計支出を把握する上で欠かせないのが、クレジットカードの利用状況です。

そもそもご相談のキッカケのひとつとなったのが、残高不足でカード決済ができなかったということ。それは、引き落とし額や銀行口座の残高の確認がそれ以前からできていなかったということを意味します。

内容把握の手順ですが、クレジットカードは、利用明細書が送られてきますから、そのデータを数カ月程度蓄積していく。すると、どういう支出に月どの程度使っていたかがわかります。あとは、家計支出の予算を決め、その枠内でカードを利用する意識付けすることです。

いくら使っていいか、その線引きがないため、結果的に引き落とせないほど使ってしまう。それでは、なかなか貯まる家計にはなりません。

また、こういった家計管理は1人で頑張っても効果は出ません。奥様にも家計の現状を話した上で、協力してもらうことがとても重要です。

アドバイス3 繰上返済は月払い分とボーナス払い分を按分すると効率的

あと、住宅ローンの繰上返済ですが、それについてはいくつかポイントがあります。その原資となるのが、退職金(1570万円)と一括取得による企業年金(978万円)とのことですが、企業年金は年金式(分割)で受け取れば、運用利回りが付いてくるのが一般的。その予定利率も、以前は5%超という時代がありましたが、どの企業も途中で引き下げてしまいました。それでも、3%台を保っている企業が少なくありません。

対して、利用している住宅ローンは変動金利とは言え、1%未満です。その金利差を考えれば、一括取得をしない方が結果的には得ということになります。まずは予定利率を確認してみてください。

それと「ボーナス払い分(約1000万円)だけ返済」については、確かに一見、その方が得策とも思えます。しかし、住宅ローンは元利均等の場合、返済が終わりに近づくほど返済額に占める利息分はより小さくなります。

したがって、毎月の支払い分とボーナス払い分をともに繰上返済する方が、効率的に支払利息を軽減できることになります(※)。つまりは、月払い分とボーナス払い分を概ね按分して繰上返済した方がいいというわけです。

また、どの程度の額を繰上返済に充てるかについては、手元にいくらあれば安心できるかということで判断すればいいと思います。ひとつの案としては、65歳まで再雇用で働けるということですので、そこが完済時期になるように考えてもいいのではないでしょうか。

(※)繰上返済はより利息分が多い、直近の支払い分から返済していくため。今回の事例では、過去に繰上げ返済を一度もされていないということでしたが、実際の効果的な繰上げ返済については、過去の繰上げ返済実績によって変わりますので、一律に按分が良いというわけではないので、注意が必要です。

「きみりん」さんから寄せられた感想

ありがとうございます。いただいた記事をさっそく3回読みました!感想は、「さすが、オールアバウト!平野先生!」。詳しく解説していただいて、とても参考になります。平野先生からアドバイスされた収支の把握やクレジットカードの注意点などをキモに銘じて今日からさっそく実行してみます。今回はありがとうございました。

教えてくれたのは……

平野 泰嗣(ひらの やすし)さん

ファイナンシャル・プランナー、キャリアコンサルタントとして活躍。FPの妻と2人でFPオフィス Life & Financial Clinicを創立し、「自分らしく生きること」をモットーにライフ・ファイナンス・キャリアの3つの視点でのアドバイスをする。中小企業診断士として経営者・従業員のライフプラン支援も行っている。著書に『30代夫婦が働きながら4000万円の資産をつくる 考え方・投資の仕方』(明日香出版社)。All Aboutマネーの連載『ふたりで学ぶマネー術』も人気

取材・文/清水京武

(文:あるじゃん 編集部)

© 株式会社オールアバウト