「無人」ホーム85% 東京・神奈川、安全策急務

 東京と神奈川のJR在来線プラットホームの85%に駅員が常駐していないことが、神奈川新聞社の取材で分かった。相次ぐ線路への転落事故を受け、視覚障害者の団体はホームドア整備や手厚い人員配置を要望。1日に発足30周年を迎えたJRは、一層の安全対策が求められている。

 JR東日本と東海の249駅、431本のホームのうち、駅員が常駐するのは65本ほどだった。ホームドアがあるのは山手線など約1割。調査は1〜3月に行い、ラッシュなど混雑時だけの増員は除いた。

 巨大ターミナル駅にも無人のホームがあった。利用者数が最多の新宿駅は8本あるホームのうち湘南新宿ラインなどが発着する2本、観光客も多い東京駅は9本のうち山手線など4本で駅員がいなかった。県内は、横浜駅には全4本に駅員がいる一方、東海道線と南武線が接続する川崎駅は3本中2本、横須賀線など3線が集まる大船駅は5本中3本で不在だった。

 JR東日本は「ホームの形状や混雑度を勘案して駅員を配置している」と説明。「状況に応じて変えることもあり、個別の回答は差し控える」としている。

 私鉄も同様に、小田急の相模大野駅や京急と東急の横浜駅など、ホームの駅員は拠点駅に限られる。

 全日本視覚障害者協議会の山城完治理事は「駅員がホームにいるかどうかで安心感が全く違う」と駅員の存在の重要性を訴える。

 鉄道の安全管理に詳しい関西大学の安部誠治教授(公益事業論)は「コストがかかり難しい問題だが、転落事故のあったホームの構造を分析し、リスクのある箇所に重点的に駅員を配置するようなメリハリある対応が必要だ」と指摘。視覚障害者の意見も踏まえて駅を改良するなど「社会全体が鉄道の安全に関わる必要がある」と話している。◆駅ホームでの事故 国土交通省によるとホームでの接触事故は2014年度に全国で227件。接触に至らなかった転落は3673件に上り、うち80件が視覚障害者だった。昨年8月に東京メトロ銀座線、同10月に近鉄大阪線で視覚障害者の転落死が相次ぎ、同省は駅構内での障害者らへの声掛けを要請。蕨駅の事故を受けたJR東日本は横浜など30駅にホームドアを計画より前倒しして設置する。◆合理化優先、「責任」問う声も 「幅が狭かったり暗かったり、階段の陰になって見通しが悪かったり。危ないと感じるホームはたくさんある」。全長300メートル、15両編成の列車に乗務する50代の男性車掌は明かす。

 車掌がホームを監視するモニターや非常停止ボタンの整備は進んだが、駅員は合理化で削減される傾向にある。発足時に7万3千人いたJR東日本の鉄道部門の社員は20年余りで2万8千人減った。「この事務室には係員がおりません」と掲示した無人のホーム事務室は多く、ホームドア設置と引き換えに駅員の配置をやめた例もある。

 ホームに駅員がいるかどうかは、視覚障害者にとって切実だ。今年1月には埼玉県蕨市のJR蕨駅で、盲導犬を連れた同県川口市の男性(63)が線路に転落、電車に接触し亡くなった。

 全日本視覚障害者協議会の山城完治理事は、2014年に都内の駅で全盲の女性が線路に転落した際、駅員が列車を緊急停止させた事例を挙げ「ホームにプロの鉄道員がいたからこそ救われた命だ」と指摘。「学校や施設の最寄り駅など、視覚障害者の利用実態を踏まえ重点的に配置すべきだ」と訴える。

 「観光立国」にも悪影響を与えかねない。横浜市に住む男性教員は、駅員のいない東京駅の山手・京浜東北線ホームで、乗る電車が分からず困っている外国人観光客に応対した。「不案内な旅客の多いターミナルなのに不親切だ」と日本のイメージ悪化を懸念する。

 「交通権学会」の上岡直見会長は「本来は鉄道会社が担うべき責任を利用者の負担として転嫁してはいないか」と、事業者側の姿勢に疑問を投げ掛けた。

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