【阪和興業、創立70周年】古川弘成社長「3つのS」を規範に グループ会社の収益拡大

阪和興業は4月1日に創立70周年を迎えた。独立系の鉄鋼商社として鋼材市場での地位を確立するだけでなく、非鉄・金属原料や水産食品、石油・化成品などでも存在感を高め、事業の多角化を推進している。直近の16年4~12月期連結業績のうち、企業の収益性を示す経常利益は前年同期比32・6%増の150億5100万円。19年3月期を最終年度とする中期経営計画で目標に据えた200億円も射程圏に入ってきた。すでに次の10年後、さらには老舗企業といわれる100周年に向けて突き進む阪和興業。将来を見据えた同社の展望を古川弘成社長に迫った。(新谷 晃成)

阪和興業・古川社長

――阪和興業もこの4月で〝古希〟。古川社長以外の代表取締役も芹澤浩副社長に移り、経営陣も世代交代が進んでいる。

 「私は個人としては節目を特別視していない。代表権の変更は代表取締役が会社の業務執行を代表し、取締役会長が大局かつ高所から経営を俯瞰するよう、それぞれの役割を明確にした。いよいよ将来の在り方を探るべくハーフ・ステップ(半歩)を踏み始める」

――昨年5月に策定した第8次中期経営計画(16~18年度)ではSTEADY(着実)、SPEEDY(迅速)、STRATEGIC(戦略的)という〝三つのS〟へのこだわりを提示した。

 「これはこの3年だけのものでなく、これからの当社の生き方を凝縮したSUSTAINABLE(持続可能)なエッセンスだ。阪和興業のDNAを盛り込んでおり、進む規範であり今後の憲法ともいえる」

 「国内の鉄鋼市場をマクロで見れば成熟期に入っている。だが当社は独自の『そこか』(即納・小口・加工)戦略により取引対象を中小企業群に広げたことで、土木、建築とも扱い量を着実に伸ばしている。迅速さの面でも『M&A+A(アライアンス)』(合併&買収+提携)をスピード感を持って進めてきた。仮に50社のグループ会社がそれぞれ2億円稼ぐと仮定すれば、連結利益は単体利益プラス100億円になる。今後はグループ会社からの収益を増やし連単比率を意識していく。直近では亀井鐵鋼、山陽鋼材の子会社化、近江産業の持ち分法適用会社化を決定した」

――STARATEGICの面で注力する点は。

 「中計で300億円を見込んでいたM&Aや出資での投資額は増えそうだ。要因としてはクロムやニッケル、マンガンなど特徴的な金属資源への投資が順調なため。業界再編を経て低迷していた国際市況も底を打ち、利益を生み出し始めたこの商流に大いに期待している」

 「また戦略的M&Aも検討中だ。主力の鉄鋼や非鉄以外では、食品や木材だけでよいのかと考えている。機会があれば事業の柱を広げることを目指したい」

――海外事業では「東南アジアにもう一つの阪和を」に代表される特異な戦略を展開している。

 「シンガポール(コスモスチール・ホールディングス)やベトナム(SMCトレーディング・インベストメント)の大手鋼材流通や、マレーシア(OMホールディングスの合金鉄工場)、インドネシア(青山鋼鉄集団主導のニッケル銑鉄メーカー)など、経済成長が見込めるASEAN諸国で出資を進めてきた。一方で米国にはまだ根を張れていない。4月からは執行役員を現地へ派遣し、メキシコで稼働したコイルセンター事業とともに北米での戦略を練っていきたい」

――商社としては珍しく、品質管理を徹底するQC活動にも力を入れている。

 「流通としても仕入れや販売、在庫管理、経理、労務などの向上や無駄の排除を目的に〝HKQC〟(Hanwa Knowledge Quality Control)と銘打って取り組んでいる。管理職だけでなく若手や契約社員も含めた全員参加型で臨んでいるのが特長だ。メーカーが製造ラインのリスク分析をするように、当社も各部署の業務フローを見直すことで作業効率化、ミスの回避、品質向上につなげている」

――人事政策で重視している点は。

 「当社はトップ人事を含めてガバナンスを利かせた合議制を敷いている。部課長は執行役員以上が参加する人材会議で決定し、担当役員人事は専務以上で決め、統轄役員人事は副社長以上および社外取締役で構成する選任会議で判断する。また、会長、社長人事も選任会議で決めている。委員会設置会社ではないが、それの良いところを取り入れている。『企業は人なり』と創業者北二郎が常に語っていたが、人を活かすためにも人事の公平性、透明性を目指していきたい」

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