誰も排除しない社会へ 相模原障害者殺傷事件でシンポ

【時代の正体取材班=成田洋樹】相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で昨夏に起きた大量殺傷事件は、社会に何を問い掛けているのか。今春、京都市で開かれたシンポジウムでは、横浜市の障害当事者や障害者施設長に加え、遺族関係者への聞き取り調査を続ける元やまゆり園職員、当事者研究が専門の大学教員や障害者団体のメンバーらが登壇した。あの事件へのそれぞれの向き合い方を語りながら、誰もが排除されない社会のありようを探った。  横浜市の知的障害当事者団体「ピープルファースト横浜」会長の小西勉さん(52)は「障害当事者の人生は、親や施設職員、行政が決めるものではなく、本人が決めるもの」と強調。横浜出身のやまゆり園入所者らが市内のグループホームなどで生活できるよう、関係者に働き掛けてきた経緯などについて報告した。

 ピープルファースト横浜を応援している横浜市の社会福祉法人「同愛会」が運営する通所施設長の大川貴志さん(38)は入所施設について「支援する、されるという『暴力的な構造』を持っている」と指摘。「その構造を自覚した上で、入所施設は一生暮らす場でなく、地域生活への移行を目指す『通過型施設』という位置付けで運営すべきだ」と訴えた。

 犠牲になった19人の遺族関係者への聞き取り調査を続けている、元やまゆり園職員で専修大講師の西角純志さん(51)は、犠牲者の人柄やエピソードを紹介。「犠牲者たちの声なき声をすくい上げ、言語化、文字化していきたい」と語った。

 脳性まひ当事者で東大先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎さん(40)は障害者への暴力が発生する要因について解説。「被害者も加害者も周囲の人たちから支えられず、地域社会から排除されているのが実態。施設などに責任を帰すのではなく、地域の在り方こそ問われるべきだ」と問題提起した。

 同じく脳性まひ当事者でDPI日本会議副議長の尾上浩二さん(57)は、地域生活への移行について神奈川県行政のビジョンが見えないと指摘。事件を二度と起こさせないためには「障害のある子とない子を分ける『分離教育』ではなく、共に学ぶインクルーシブ教育を進める必要がある」と結んだ。

 シンポジウムは、京都市の日本自立生活センターなどでつくる実行委員会が主催し、約230人が参加した。

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