【協栄金属工業 V字回復の軌跡】社員一丸での現場改善奏功 山陰屈指の精密薄物板金拠点に

精密薄物板金加工、パイプ加工の一次~二次加工から溶接、組み立てに至るまで、多様な加工を手掛ける協栄金属工業(本社・島根県雲南市掛合町、社長・小山久紀氏)が立地する島根県雲南市掛合町は県内でも山間部に位置する。倒産危機に見舞われながら、社員一丸で現場改善に取り組み、赤字脱却を果たした。現在は山陰地方最大規模の金属加工工場として存在感を放つ同社の軌跡を紹介する。

広大な敷地に7つの工場を保有

出発は雇用の受け皿

 協栄金属工業が立地する雲南市は山深い地域で農林業以外の産業らしい産業がなく、一昔前なら男性は京阪神地域に出稼ぎに出るしかなかった。過疎化に何とか歯止めをかけようと、自治体が雇用の受け皿となる企業の誘致を働きかけた結果、1970年に大阪の自動車部品メーカー・室金属製作所が進出。当時の社員数は110人で、25~35歳までの町出身者で構成された。しかし、ドルショックが引き金となり、操業わずか8カ月で倒産。会社の再建案の実施も困難な状況下、雇用の灯を守ろうと地元有志が出資し、72年に協栄金属工業が設立。社員数11人で再出発し、以降は順調に発展。地元資本により、誘致企業の倒産という事態を回避したケースは珍しいという。 

再び倒産危機に

 第2の危機は、2007年、オーナー退任をきっかけに大幅な受注減少と円高など外部環境の影響から、経営状況が悪化。小山社長は前職のゴルフ場が倒産して中途採用で製造現場に入っていたが、前職の経理の腕を買われ総務部長を務めていた。再建計画書通りには事が運ばず、3年続きの大赤字となり、社内は責任を擦り付け合う犯人捜しの状態となり、創業から四十数年間積み上げてきた貯えを使い果たし、債務超過状態に陥った。賃金15%カット、社員30人を解雇と出血を伴いながら、3年連続で長期入院を伴う労務災害が発生するなど負のスパイラルが続いた。

素人社長誕生

 そんな折、オーナーから社長就任の要請を受けた小山社長。むしろ社を見切り、離れようとしていた。引き受けるか思案する中、夜遅くに会社に行くと、忘れられない光景に出会う。工場に明かりがつき、社員が自分の責任を果たそうと懸命に働く姿を見た。社員の一人が「明日の朝が納期で、今夜中にやれば間に合う」と話し、小山社長は「この人たちを幸せにするのが私の責任」と痛感し、この社員となら再建可能と直感したという。社長就任後は、借入金9億円の連帯保証人も引き受けて、覚悟を決めた。

社員の自主性引出す

 社内改革はこれまでの会社のしがらみを全否定することからスタート。「社員を犠牲にして会社再生しても意味がない。社員の幸せのために仕事をしよう」と方向性を定め、コンサルタントを導入し現場改善に取り組んだ。当時、加工設備の配置から構内物流が悪く、次工程にモノを運搬するのに、いたずらに時間を要していた。最初に工場の大幅なレイアウト変更を行うことで構内物流を整流化し、工程管理や作業改善を行った。社員と徹底的に話し合って信頼関係を築き、自主性を引き出すことで3S活動や新たな提案も出てきた。

 改善効果は数字に表れた。社長就任1年目で売上高は15・8%増え、山のようにあった完成品在庫はゼロに、生産リードタイムは3日間短縮した。1年で7500万円の経営改善ができたことで赤字脱却のめどが立ち、現在は黒字体質を維持している。

多様な設備と在庫を誇る

加工設備は120基超

 V字回復が出来た背景の一つに、立地と長年蓄積してきた豊富な加工設備がある。約1万4千平方メートルの広大な敷地内に7つの工場があり、0・1~12・0ミリまでの精密薄物板金加工を得意とし、材料調達から金属プレス・切断・穴開け・曲げ・溶接・組み立てと熱処理や表面処理を除くあらゆる鋼材加工に対応し一貫生産を可能としている。鋼材加工量は年間1200トン。大規模な自動鋼板ラック(10段12列)を備え、加工設備は120基以上を保有し「山陰地方では最大、中国地方でも5本の指に入る。大手自動車メーカーの一次下請け以外で、これだけの加工設備を持ち、いろいろな会社の仕事を請負う企業は珍しい」(小山社長)。多様な設備と在庫が一カ所集中することで横持ち時間・費用のロスが少なく、生産効率を上げることが固定費抑制につながる。「100個程度数量がまとまれば、大阪地区で製作するより当社で製作した方がコスト的に有利」(同)という。

県外受注が増加

 現在の取引先は全国80社以上で、農機、厨房機器、建機向けの部材など5千種類を超えるアイテムを製造する。地元の要請で製作したステンレス製ゴミ箱や獣害被害対策用網以外は受託加工のみ。以前は県内受注がほぼ100%だったが、現在は半分が県外から。中国横断自動車道尾道松江線の全線開通以降は交通の便が良好となり、広島県や山口県、関西地区の仕事が増えてきた。兵庫県の取引先は従来、依頼先を3社に分散していたが不安定な納期や品質面のバラつきを解消しようと協栄金属工業へ一括発注に変更した例もあるように、一カ所一貫生産の強みを発揮している。売上高は年間7億円で、5カ年計画で売上10億円、社員数100名を目指している。(小田 琢哉)

© 株式会社鉄鋼新聞社