【新日鉄住金エンジニアリング 建築・鋼構造事業部の戦略(下)・鋼構造事業】〈村上信行執行役員に聞く〉「木鋼ハイブリッド構造」推進 免制震分野で差別化

――鋼構造事業についてお聞きしたい。

 「鋼構造事業は2016年度までの3年間をファーストステージとして成長戦略に『鋼×想=力』の『鋼』の強化を掲げコストダウンに注力してきた。特殊鉄骨などの鉄構分野ではボリュームゾーンであるビル鉄骨など中難易度の案件をターゲットに事業を展開してきたが、東南アジアを中心とした海外ファブリケーターの活用と分割発注によりコストダウンを実現した。海外ファブの活用は鉄骨の製造管理が肝となるが、他事業部の製造管理のできる人材の活用なども視野に中難度の案件への対応を増やしたい」

フィリピンの国立博物館で手掛けた特殊鉄骨

 「また、BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)ソフト『TEKLA』の適用を推進し業務効率化を進めた。15年度は受注全体の約15%だった適用率は16年度には約40%へと拡大している。鉄構分野は最もBIM化が進んでおり、これを建築事業などへと横展開したいこうした施策によって鉄構分野は想定を超える受注を獲得することができた」

 「商品分野では免制震デバイス商品で球面すべり支承『NS―SSB』を14年に市場投入した。免震物流施設やマンション向けなど受注は非常に好調で、3年間で累計1千台の採用実績をあげている。また、組織販売の強化によって準大手設計事務所やゼネコンなどへの販路を拡大している」

 「回転圧入鋼管杭『NSエコパイル』も中小径、大径ともに堅調な販売を続けている。昨年には軟弱地盤向けに耐力を高めた『エコパイルDUO』も開発し販売を開始した。橋梁商品についても点検ニーズが拡大する中で橋梁用高機能外装材『NSカバープレート』への関心が非常に高まっており、設計折り込み量は12年度からほぼ倍増している。こうした施策により、鋼構造分野の16年度受注高は270億円と過去最高水準となり、売上高も200億円と好調だった」

――17年度の戦略は。

 「セカンドステージとして社会のニーズや設計者、施主の想いを的確かつタイムリーに捉え、鋼構造技術や商品、サービスで応える『想』を強化していく。鉄構分野ではBIM化のさらなる推進で設計業務効率化・工期短縮のニーズに応える。『TEKLA』による接合部提案などで競合するファブとの差別化も図りたい」

 「また、時代のニーズでもある木鋼ハイブリッド構造への取り組みを強化していく。当社はこの分野におけるパイオニア的存在と自負しており、直近では東京五輪関連施設や鉄道駅舎の屋根などにも採用されている。林業再生などを背景に日本の国産材を用いる動きは加速していくとみており、20年以降の主力の一つとしていきたい」

――商品分野では。

 「『SSB』は長周期・巨大地震への対応に向け、従来に比べ幅を35センチメートル拡大した大型タイプの製品を開発中で、早期に市場投入する。また、病院や庁舎などの施設は高い免震性能が求められる。そこで低摩擦の新しい『SSB』を昨年開発した。今後市場投入し早期の浸透を図っていきたい。『SSB』は長周期・繰り返し地震への対応にも優れた性能を発揮する製品。ニーズはますます高まっていくと確信しており、積極的な拡販によって差別化を図りたい」

 「さらに、免制震分野ではマンションの耐震補強ニーズに対して眺望や居住を確保しながら補強可能な『NSビルプラスG工法』の技術評価取得を進め、拡販していく。座屈拘束ブレース『アンボンドブレース』は高性能素材を活用した高軸力化を図るなど技術優位性を高めたい」

 「『エコパイル』は施主・設計者のニーズが高い中小径分野の引抜き支持力の適用範囲を拡大していく。設計業務の効率化へ向けて最適な設計ソフトの改良及び導入も併せて進めたい。橋梁商品は点検・更新ニーズの高まりに対応し今年4月1日付で専任の『橋梁商品営業室』を新設した。『カバープレート』の普及拡大を進めるほか、橋梁更新需要のニーズを捉えた橋脚間50メートルの長支間の『パネルブリッジ』を投入するなど注力していく」

――20年以降を見据えた戦略は。

 「『NSトラス』などの空間構造商品に屋根免震・制震を組み合わせパッケージ化するなど『防災拠点商品』の開発も進めたい。国内需要の縮小を見据えて海外で一定規模の事業を行うことが肝要となる。現在、米国、フィリピン、中国で事業を展開しているが、若手社員を送り込み研修も兼ねて海外要員の育成を行うなど着実に将来の布石としていく。『鋼×想=力』を磨き続けることで社会のニーズや想いに先んじて解決案を提案し、安心・安全で快適な社会の実現に貢献し続けたい」(村上 倫)

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