【田澤純一コラム第3回】“悔しい登板”を自己分析、ロッカー隣人、イチローに学ぶこと

8年を過ごしたレッドソックスからフリーエージェント(FA)となり、今季から新チーム、マーリンズで新たなスタートを切った田澤純一投手。開幕から数試合は一発に泣く登板が続いたが、19日(日本時間20日)マリナーズ戦では1回2/3を無失点に抑えるなど、徐々に調子は上向いてきた。開幕から「悔しい思いが続いている」という右腕だが、自身のパフォーマンスや“レジェンド”イチロー選手、心優しいチームメイトについてリポートしてくれた。第3回連載コラムにも、現地からの生の声がたっぷり詰まっている。

マーリンズ・田澤純一【写真:Getty Images】

開幕から不本意な投球続き「僕の力のなさです」

 8年を過ごしたレッドソックスからフリーエージェント(FA)となり、今季から新チーム、マーリンズで新たなスタートを切った田澤純一投手。開幕から数試合は一発に泣く登板が続いたが、19日(日本時間20日)マリナーズ戦では1回2/3を無失点に抑えるなど、徐々に調子は上向いてきた。

 開幕から「悔しい思いが続いている」という右腕だが、自身のパフォーマンスや“レジェンド”イチロー選手、心優しいチームメイトについてリポートしてくれた。第3回連載コラムにも、現地からの生の声がたっぷり詰まっている。

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 マーリンズの田澤純一です。僕にとって9年目のシーズンが幕を開け、早くも3週間近くが経ちました。

 正直なところ、僕自身は悔しい思いの続く登板になっています。速球などボールの状態が悪いわけではありませんが、1球に泣くことが多い。大事な場面で使っていただきながら一発を打たれてしまうのは、僕の力のなさです。

 自分の考える原因の1つは、時々悪いフォームのクセが出ること。昨年右肩を怪我した時に、肩をかばいながら投げていたフォームです。練習の時からフォーム改善を意識していますが、上手くいかずに球が浮けば、メジャーの打者は見逃してくれません。徐々に感じはよくなっています。19日のマリナーズ戦を無失点に抑えられたことは大きな収穫になりました。

 中継ぎには切り替えも大事だということを、去年までボストンで一緒だった上原(浩治)さんから学びました。斎藤(隆)さん、岡島(秀樹)さんとブルペンで一緒だったことも勉強になっています。打たれた試合から学び、その後のピッチングに生かせるかが大事。チームに迷惑をかける内容が続きましたが、ここからはチームの勝利に貢献できるよう、日々自分で調整を続けながら結果を残していきたいと思います。

田澤を驚かせたボストンとマイアミの違いとは

 ワシントンDC、ニューヨークと続く遠征から始まったので、本拠地マーリンズパークでの初戦は開幕から1週間後のことでした。今年からここが僕にとって“ホーム”になるわけですが、この球場、スゴイです。クラブハウスやトレーニング施設は最新の設備が揃っているし、ホーム裏のフェンスは水槽で熱帯魚が泳いでいるし。これまで過ごしたフェンウェイパークは歴史そのものだったので、まさに対極です。

 マイアミは、ご存じの通り、中南米系の移民が多い街なので、球場のお客さんもラテン系のファンが中心。満員御礼が続いていたボストンと比べると、客席のファンの数は少ないけれど、ヒットを打った時や得点チャンスの時は独特の盛り上がり方をしますね。試合前や試合後は球場の外でラテン系の音楽が鳴り響いているし、時々自分がどこの国にいるのか分からなくなります。

 盛り上がりと言えば、マーリンズに入って一番驚いたのは、試合に勝った後の喜び方です。ボストンでは、みんなでハイタッチして「今日も勝ってよかったね」って言うくらいで、割とあっさりしてたんです。でも、マーリンズは真っ暗なクラブハウスに大音量の音楽が鳴り響き、さらにはスモークマシンまで登場! メチャメチャ勝利を喜ぶんです。クラブハウスの中が真っ暗すぎて誰が誰だか分からず、歩くのもままならない。クラブとお化け屋敷が一体になった感じっていうんですかね。暗闇の中から突然選手ができてビックリみたいな(笑)。一通り終わったところで、記者の皆さんが入ってきて取材をするんですけど、たまにスモークマシンの煙が出過ぎて、白い煙幕がかかった中でみんな受け答えをしています。

新たに加わったマイアミでの日課とは…

 こういったチームの明るさに、僕も助けられています。僕が打たれても抑えても、変わりなく一番声を掛けてくれるのが、先発のボルケスです。ロッカーが隣ということもあり、野球の話や他愛もない話をしたり、いたずらを仕掛けてきたり。メジャーで5度も2桁勝利をした実績のある投手なのに、本当に気さくで明るいドミニカ人。ラテン系の選手に限らず、みんなに慕われています。

 ボルケスのロッカーには、なぜか常にキューバコーヒーが入ったポットとカップが用意されています。しかも、なぜか練習前に必ずご馳走してくれます。エスプレッソくらい濃いコーヒーでメチャメチャ甘いけど美味しいんですよ。他の選手も一緒にコーヒーを飲みながら過ごすキューバコーヒータイムが、マイアミでの日課になりつつあります。

 本拠地では5時間38分という長い試合(13日メッツ戦)もありましたが、遠征地のシアトルでは、チェン(・ウェイン)さんが7回までノーヒットノーランをしたり、イチローさんがホームランを打ったり、盛りだくさんでした。チェンさんの快投、すごかったですね。僕もノーヒットノーラン達成を期待しながらブルペンから見ていました。チェンさんなら、いつかは達成するんじゃないかと思います。

 イチローさんも、さすがです。投手と野手でルーティンや練習は違いますが、イチローさんが毎日黙々と準備なさる姿を邪魔にならないように見ながら、いろいろなことを学ばせてもらっています。イチローさんがマリナーズ入りしたのは、僕が中学生の時。テレビの中でプレーする雲の上の存在だった選手と、まさか同じチームになるとは思ってもみませんでした。同じアメリカでプレーしていても、誰もがチームメイトになれるわけじゃない。そういう意味でも、僕は本当に恵まれた野球人生を送っていると思います。

 しばらく遠征が続きますが、僕もチームに貢献できる投球を続け、いい形でホームに戻りたいと思います。次回はまた来月にリポートしますね。

マイアミ・マーリンズ 田澤純一●文 text by Junichi Tazawa

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