なぜ表現者は共謀罪に「NO」と言うのか

【時代の正体取材班=田崎 基】国会で本格的に審議入りしたいわゆる「共謀罪法案」。言論人の団体「日本ペンクラブ」(浅田次郎会長)は2月、反対声明を発表した。4月7日には都内で、一線の作家や映画監督、漫画家、学者らが「共謀罪は私たちの表現を奪う」と題してマイクを握った。なぜ表現者たちは共謀罪に明確に「NO」を突き付けるのか−。  冒頭、浅田会長は言った。「ペンクラブの使命とは何か。今から80年前、第1次世界大戦が終わった後、どうして戦争が始まってしまったのかとみんなで考えた。言論・表現の自由が制限されたところから戦争が始まったのではないかと文筆家たちは考えた。平和のために言論・表現の自由を守っていこうと世界中でペンクラブができあがった。その日本の支部が私たちです。80年前に島崎藤村が会長になり発足した」 その上で、政府が推し進める共謀罪法案について「日本ペンクラブにとって、全く看過できない大問題。世の中の人が考えている以上に大変なことが起きようとしている」と指摘。「私たちはいずれ死ぬが、作った法律は死なない。法律を作った人がそのとき『きちんとやっていく』と言ったところで、その後、子や孫の時代にどのように使われるのか全く分からない。だから今がとても大切。今日を大きな輪にしていくスタートラインにしてもらいたい」と呼び掛けた。

 漫画家のちばてつやさんも「いま、とてつもない大きな渦がゆっくり、ゆっくり巻いているのではないか。日本はいま、巨大な渦の淵にいるのではないか。中に入ってしまうか、抜け出せるか。渦の中には戦争のようなどす黒いものがある。その渦に巻き込まれるかどうかの境目にあると思う」と危機感を口にした。

 「『共謀罪』は長い記者生活の中でも特段に危ない法律だということを肌身で感じる」と語ったのはニュースキャスターの金平茂紀さん。「こんなジョージ・オーエルの小説の世界が現実になるなど信じられない。捜査機関に際限の無いフリーハンドを与えることになるだろう。一人一人を監視する社会ができあがってしまう。本当に怖い法律だと思う。言論の自由や表現の自由、報道の自由が侵される恐れが十分ある」と指摘した。

 作家で映画監督の森達也さんは「人は弱く、誘惑にも駆られる。一方で、人は反省もできる。だが、この共謀罪は思い立った後に犯罪を実行しなかったとしても、許さない」と問題点を挙げた。

 そして強調した。「とんでもない法案に対してみんなで反対の意思を示していかなければいけない」 集会に登壇した顔ぶれは以下の通り。浅田次郎(日本ペンクラブ会長・作家) 雨宮処凛(作家) 内田麟太郎(絵本作家・日本児童文学者協会理事長) 江成常夫(写真家) 金平茂紀(テレビキャスター) 香山リカ(精神科医・作家) ちばてつや(漫画家) 長谷部恭男(早稲田大学、立憲デモクラシーの会) 森絵都(日本ペンクラブ常務理事・作家) ビッグ錠(漫画家) 森達也(作家・映画監督) 田近正樹(日本雑誌協会人権・言論特別委員会、日本書籍出版協会出版の自由と責任に関する委員会) 山口勝廣(写真家・日本写真家協会専務理事) 中島京子(作家) 各氏の発言詳細はカナロコ「時代の正体」で

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