広島黄金期を支えた俊足OBが語る盗塁のコツ、スイッチヒッターの意義

今季は37年ぶりのリーグ連覇を狙う広島。開幕戦に敗れた直後から引き分けを挟んで10連勝するなど好調を維持し、セ・リーグ首位に立っている。スタートダッシュの勢いもそのまま、昨シーズンに続きリーグ優勝を果たすのか――。

広島で5度のリーグ優勝、3度の日本一を経験している高橋慶彦氏【写真:篠崎有理枝】

盗塁王を3度獲得した高橋慶彦氏が、連覇を狙う古巣にエール

 今季は37年ぶりのリーグ連覇を狙う広島。開幕戦に敗れた直後から引き分けを挟んで10連勝するなど好調を維持し、セ・リーグ首位に立っている。スタートダッシュの勢いもそのまま、昨シーズンに続きリーグ優勝を果たすのか??。

 かつて広島で5度のリーグ優勝、3度の日本一を経験し、黄金期を牽引した高橋慶彦氏も、古巣の躍進に期待を寄せる1人だ。現在は福島・郡山に本社を置く住宅販売・設計施工会社「ウェルズホーム」で広報部長を務める高橋氏は、俊足を武器に盗塁王を3度獲得。プロ入り後にスイッチヒッターに転向し、1979年には33試合連続安打の日本記録を樹立した。

 昨季、圧倒的な強さでリーグ優勝した広島は、盗塁やエンドランなど機動力を生かした攻撃をチームカラーとした。1979年、80年、85年と3度盗塁王に輝いた高橋氏は、盗塁成功のカギについて「失敗を恐れず、走れる時はどんどん走ればいい」と話す。

「僕は盗塁死の数も多いです。失敗を恐れず、走れる時はどんどん走ればいい。選手はアウトになるのが怖いです。『ここでアウトになったらチームに迷惑をかけてしまう』と考えてしまいますから。自分が走塁コーチを務めていた時には選手にもよく言いましたが、失敗を気にすることはないと思います」

 NPB歴代5位となる通算477盗塁を誇る高橋氏だが、同時に通算盗塁刺も206と多く、通算1065盗塁の日本記録を持つ福本豊氏の299盗塁刺に次ぐ歴代2位となっている。盗塁を決めた数は大事だし、成功率は高い方がいい。だが、何より大切なのは「どれだけホームに戻ってきているか」だと話す。

大切なのは「いくつ盗塁するか」ではなく「どれだけホームに戻ってくるか」

「『いくつ盗塁するか』ではなく『盗塁を決めたランナーがどれだけホームに戻って来ているか』が大事だと思います。盗塁が得点に結びついていなくては意味がありません」

 盗塁を決めてホームに戻るためには、後続のバッターが適時打を打つ必要がある。現役時代、高橋氏は後に続くバッターが打ちやすい環境を作ることも考えていたそうだ。

「『いつ走るか』ではなく『僕が出たら盗塁する』というイメージを相手に持たせたかったですね。なので、早いカウントで堂々と走っていました。早めに走らなければ、次のバッターも打ちに行けません。後ろのバッターを楽にさせてあげることも心掛けていました」

 昨シーズンはオリックスで1軍打撃コーチを務めた高橋氏は、自分の経験を踏まえて導き出した盗塁の“心得”を後輩たちにも伝えた。高橋氏が「どんどん行け」と背中を押した糸井嘉男外野手は、昨季はオリックスで53盗塁を記録し、36歳ながら盗塁王を獲得。今季から移籍した阪神では、2盗塁を決めている。

「走塁コーチではないので何か言える立場ではなかったのですが、『どんどん行け』とは言いました。糸井も怖がりです。『失敗を気にすることはない』と言いました」

 俊足の持ち主でも出塁しなければ、武器は生かせない。どうしたら多く出塁できるか、どうしたら多く打席に立てるか。そう考えた時、1軍定着を目指す若手選手はスイッチヒッターに転向して、出場機会を増やすのも1つの手だろう。高橋氏自身、1975年に入団後、程なくしてスイッチヒッターに転向し、数年後には1番打者として“赤ヘル打線”の起爆剤となった。

かつて俊足野手の代名詞だったスイッチヒッター、現在は減少傾向に

 現在は数が減ったスイッチヒッターだが、球史を振り返ると数々の名スイッチヒッターが活躍している。高橋氏と共に広島黄金期を築いた正田耕三氏、山崎隆造氏もスイッチヒッターだった。両氏共に俊足が持ち味で、正田氏は1989年に34盗塁で盗塁王にも輝いた。セ・リーグ年間盗塁記録保持者でもある“青い稲妻”松本匡史氏(巨人)、大洋時代には“スーパーカートリオ”の1人として鳴らし、1986年から3季連続盗塁王に輝いた屋敷要氏もスイッチヒッターだった。

 機動力を誇る広島でも、現在出場登録された野手のうちスイッチヒッターは上本崇司内野手1人だけ。スイッチヒッターが影を潜めつつある傾向について、高橋氏は「足が速い選手には、最初から左で打たせているからではないか」と分析する。

「今は情報が多いですから『足が速い選手』というデータがあれば、最初から左で打たせています。左バッターをわざわざ右に変える必要はありません。昔は右で打っている選手が、足が速いと分かれば『これならスイッチをやらせてみよう』と考えて転向させることが多かったですね。今はスイッチにする前に、左バッターになっています」

 高橋氏の言う通り、昨シーズン広島で最多28盗塁をした田中広輔内野手は左打者。今シーズンはここまで6盗塁を決めている安部友裕内野手も左打者だ。時代の流れと共に足の生かし方は変わりゆくものなのかもしれないが、機動力が攻撃の大きなカギを握る事実は変わらない。4月21日現在、両リーグトップのチーム盗塁数「19」を誇る広島は、今季も機動力を生かした野球でリーグを制し、悲願の日本一を達成するのか。黄金時代を支えたOBも第2次黄金時代の到来を待ちわびている。

篠崎有理枝●文 text by Yurie Shinozaki

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