【ニッケル協会】〈新「東京事務所長」、江崎愼二氏インタビュー〉需要拡大に向け情報発信 ステンレスの社会的蓄積量増加資源リスク低減へ

――協会の概要を。

ニッケル協会・江崎東京事務所長

 「ニッケル需要の促進を目的とするNiDI(ニッケル開発協会)と、ニッケルが健康や環境に及ぼす影響を研究するNiPERA(ニッケル生産者環境研究協会)という二つの組織が2004年に統合して発足した。カナダのトロントが本部で、ベルギー、中国、日本に事務所、米国に研究所がある。会員企業のニッケル生産量を合計すると世界の約85%を占める規模で、業界でも影響力のある協会だと認識している」

――活動内容は。

 「ニッケルに関する正確な情報を発信し、需要促進につなげていくことと、NiPERAにおける研究の二つが活動の中心だ。基本的に情報提供は無償で、協会ホームページ(http://www.nickel―japan.com)には書籍や報告書など非常に豊富な情報を掲載している。世界のニッケル需要はおよそ30年前には50万トン程度だったと思うが、それがいまや200万トンを超えている。その背景にはニッケル協会の地道な需要促進活動が貢献した部分もあると思う」

――需要拡大が期待される分野は。

 「水道用ステンレス配管、構造物用のステンレス鉄筋、電池材料の3分野が期待される。水道用配管については東京都がほぼ100%のステンレス配管を採用し、漏水率が約15%から約2%に減ったという実績がある。さらに東日本大震災でも塩ビ配管に比べて漏水率が非常に少なかったと聞いている。こういった実績や、水道の品質向上、水道・メンテナンス工事の減少に伴う温室効果ガスの抑制などさまざまメリットを啓蒙し、世界的に普及させたい。ステンレス鉄筋についてはビル用鉄筋もあるが、道路橋やトンネル用などでの取り組みを考えている。これはステンレス協会とともに道路橋におけるステンレス鉄筋のJIS化に向けて動いているところだ。普通鉄筋の寿命が30年だとすればステンレス鉄筋は100年もつと言われる。近年、日本は震災に幾度も見舞われたが、今こそ100年寿命の強固な構造物を作ろうという発想になるべきだと考える」

――その普及には行政の後押しも必要になりそうです。

 「日本は資源が無い国と言われるが、ニッケルに資源リスクがあるとするならば水道配管にも建築部材にもどんどんステンレスを使えば良い。なぜならステンレスはリサイクル率100%。循環資源であるステンレスの社会的蓄積量を増やしていけば、50年後、100年後にはニッケルの資源リスクを心配する必要がなくなるかもしれない。その意味では至る所に丈夫で長持ちするステンレスを使ってニッケルの都市鉱山国になりましょうとアピールしたい」

――電池材料分野については。

 「電池に使われるニッケルはこれからの需要拡大に向けて中心的なテーマになると思う。私がメタ研に在籍していた時のデータなどから試算すると、電池分野のニッケル需要は15年の約35万トンから30年には50万~65万トン程度まで増える可能性がある。これは少し上を見すぎている感もあるが、足元の伸びを考えるとありえない話でもない。そうした中で日本は電池の研究開発で世界をリードする国でもある。日本における車載用電池向けのニッケル使用量というのは引き続き注視する必要がある」

――最後に、協会のPRを。

 「当協会は、世界中から収集したさまざまな情報を一般の方にもわかりやすくまとめた機関誌を年に3回発行している。こうした出版物やNiPERAが蓄積してきた膨大な研究データも協会ホームページで閲覧できる。ホームページを見てニッケルに親近感を持ってもらい、ニッケルを積極的に使ってもらいたい」(相楽 孝一)

略歴

 1983年(昭58)熊本大院金属工学専攻修了、住友金属鉱山入社。ニッケル・コバルト関連の生産、営業には約20年間従事。2014年に日本メタル経済研究所に出向し、ニッケル・コバルトを中心としたクリティカルメタルに関する調査研究も手掛けた。17年4月1日付でニッケル協会・東京事務所長。

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