“真のエース”と認められるために―菊池雄星がどうしても投げ勝ちたい投手

菊池雄星にとっては特別な一戦だった。4月28日、千葉ロッテマリーンズ戦。同25日からのビジターでのオリックス戦で3連敗を喫し、ホームに戻ってきたチームの悪い流れを断ち切らなければいけない使命感もあった。だが、それ以上に格別な思いでマウンドに上がったのは、対戦相手投手が、どうしても投げ勝ちたい相手だったからである。

西武・菊池雄星【写真:編集部】

成長の“ものさし”となる存在 西武・菊池が秘める「理想のエース」への思い

 菊池雄星にとっては特別な一戦だった。4月28日、千葉ロッテマリーンズ戦。同25日からのビジターでのオリックス戦で3連敗を喫し、ホームに戻ってきたチームの悪い流れを断ち切らなければいけない使命感もあった。だが、それ以上に格別な思いでマウンドに上がったのは、対戦相手投手が、どうしても投げ勝ちたい相手だったからである。

 2014年からチームが別になっても今なお尊敬してやまない、かつてのライオンズのエース・涌井秀章投手との、2015年9月13日以来の投げ合い。普段は、いかなる球界を代表する各チームのエースとの対戦でも、「僕が打席に立つわけではないので」と、相手投手を意識することはない。日本中が注目する、花巻東高校の後輩であり、日本球界屈指の投手・大谷翔平投手との先発対決ですら、「『大谷だから』という、特別な思いはないですね」と、スタンスを変えることはなかった。

 だが、現千葉ロッテのエースに対しては、自ずと感情移入しないわけにはいかないのである。

 高卒から入団した2010年。プロになって最初に出会った『エース』が、前年度に沢村賞を受賞し、球界の中でも屈指の存在に君臨していた涌井投手だった。その日から、常に「理想のエース像」として目標にしてきた。

「僕にとっては、特別な存在です。ずっとライオンズでエースとして投げていた投手なので、投げ合えることが、僕自身がどれぐらい成長できているかを確かめる“ものさし”にもなると思います」

 前回の対戦では、CS出場を懸けて順位を争う大事な一戦での投げ合いとなり、6回1/3で先にマウンドを降り、敗戦投手となった。

「絶対的なエース」にいつか勝つために――

 それから約1年半が経ち、再び機会が巡ってきた。「あの時とは、立場が違う」との本人の言葉通り、開幕投手を経験し、2桁勝利を果たし、そして、『エース』の称号を受け継ぐまでに成長した。今の自分が、“ライオンズのエース”と呼ばれるのに相応しいのか。自分の現在地を知る上でも、重要な機会だった。

 結果は、7回を投げ3安打2失点。失点は、味方のエラーが絡んでのものだったため、悔しさが残るが、それでも西武の背番号16は「ミスをカバーできるピッチングができてこそ、みんなに認めてもらえるので」と、自ら責任を背負った。とはいえ、直球は155キロを計測し、10奪三振を奪う、まさに圧巻の投球だった。

 一方、ロッテの背番号16も、7回5安打2失点と快投。見事な投手戦は、結局、両者対決もチームもドローに終わった。

「まだまだ足りない部分ばかりですが、ああいう絶対的なエースの背中を見て僕らも練習してきたので、いつか勝てる日が来ることを1つの目標にしていきます」

 2度目の対決を終え、そう語った25歳左腕。尊敬する先輩右腕に投げ勝てば、真のエースとして認めてもらえる――。そんな思いを秘め、次回の対決へ胸を躍らせた。

上岡真里江●文 text by Marie Kamioka

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