鎌倉市鏑木清方記念美術館(同市雪ノ下)では、美人画で知られる日本画家の鏑木清方が、戦時中に開かれた「戦艦献納作品展」に出品した「五十鈴川」を、戦後初めて公開している。
最近になって同作を入手した個人から「どういう作品なのか調べてほしい」と同館が相談を受けた。
題名も分からなくなっていたが、学芸員の調査によって1944年に大政翼賛会が主催した「帝国芸術院会員戦艦献納作品展」への出品作だと判明した。
描かれているのは伊勢神宮に流れる五十鈴川で手を清めている2人の女性。藤の花が着物の模様にあしらわれており、女性ならではの美しさと季節感を醸し出している。
同館の学芸員は「当時、戦艦に乗り込む兵の士気を高める絵柄が求められたが、清方はあえて美人画を出品した。戦争に反抗する清方のすごみや画家としての在り方を感じる」と話した。
清方は既に名声も高く、国の守り神でもある伊勢神宮を画題とすることで、表立って批判されることはなかったようだ。
同作は、開催中の「女性美と自然美」展に並ぶ。清方は少年時代からの憧れの地だった横浜・金沢八景に、1920年から約20年にわたって別荘を構えた。
金沢の風光を愛し、風景と女性の姿を無理なく融合させた美人画にたどりついたという。同展ではその過程をたどる作品や別荘で着想を得た代表作「朝涼(あさすず)」など約50点を展示している。
24日まで。祝日を除く月曜休館。一般300円、小・中学生150円。問い合わせは、同館電話0467(23)6405。