近鉄、阪神でプレーした指揮官も一目置く打撃 名門・天理の小さな強打者

172センチ、77キロと決して体は大きくない。だが、打席に立つと数字以上に大きく見える。名門・天理の4番に座る神野太樹のことだ。

名門・天理の4番に座る神野太樹【写真:沢井史】

夏は絶対に誰にも負けない――天理の4番・神野の強い決意

 172センチ、77キロと決して体は大きくない。だが、打席に立つと数字以上に大きく見える。名門・天理の4番に座る神野(じんの)太樹のことだ。

「左方向、右方向、センター方向と、どの方向にも打てる。バットコントロールも良いですし、あの体の大きさながらパンチ力もあるんです」

 近鉄、阪神でプレーし、15年8月から監督を務める中村良二監督も神野の打撃力の高さには一目置いている。

 7日に行われた春季奈良県大会準々決勝・橿原学院戦。9-0で8回コールドと圧倒したこの日の試合でも、その実力の片りんを見せた。6-0で迎えた8回表。1死満塁の好機に右中間に鋭い打球を飛ばした。走者一掃のタイムリー三塁打となり、コールドゲームを決定づける一打となった。類いまれな脚力も持ち、あっという間に三塁に到達。パンパンに膨らんだ太ももからも未知数なパワーを感じるが、そのセンスの高さは入学時からひと際、精彩を放っていた。

 1年夏の県大会から背番号20をつけてベンチ入りし、夏の甲子園では背番号が9になった。初戦の創成館(長崎)戦では「8番・右翼」でスタメン出場するなど、すでに大舞台も経験済みだ。結果はサヨナラ負けを喫し、初戦敗退。「甲子園は楽しかったけれど、あっという間に終わってしまった記憶しかないです」と振り返る。

 秋からは打線の中心に立ち、2年生になると1番を打つようになった。旧チームから2年生が多く出場していた天理。だが、昨年の奈良県の高校野球をリードしていたのはライバルでもある智弁学園だった。昨春のセンバツで初優勝を飾り、一気に注目度が増したライバルを前に「うらやましいと思ったけれど、自分たちだって負けられない」と対抗心をむき出しにしてきた。

「この夏は自分たちが必ず行かないと。もう負けたくないんです」

 昨夏の県大会ではその智弁学園と決勝戦で激突した。センバツでは抜群の安定感を見せたエース・村上頌樹を前に、9回に1点差まで追い詰めるも4-5で惜敗。だが、さらに悔しかったのは自身が5打数無安打だったことだ。

 新チームからは不動の4番になった。1番とは役目が変わり、今度は走者をいかに還すか。チャンスの場面を想定し、勝負強さを磨いていくつもりだった。だが、秋は初戦で奈良大付に2-5で敗れ、“長い冬”を迎えることになる。旧チームのレギュラーが6人も残り、秋は期待度が高かっただけに、実にダメージのある敗戦となった。

「冬が長くなったぶん、もう夏の甲子園だけを見て、じっくり見直していこうと思いました。自分はもともと相手投手の投球で自分の形を崩されることが多かったので、どんな球でも自分の形でいかに打てるかが課題でした。だから。フォームをしっかり見直していこうと思いました」

 体のバランスを見ながら筋力トレーニングにも時間をかけた。スイング力をつけるために、1日1000スイング前後した日も多かった。その積み重ねで理想のスイングが徐々に確立できるようになった。「今日のあの三塁打は、まさに自分の理想の形です。今日の当たりは右方向でしたけれど、もっと左方向にも打てたら最高ですね」と笑顔をはじけさせた。

 チームとしての目下の目標は、もちろん夏の甲子園出場だ。「自分が主力になってから、ずっと智弁学園が甲子園に行っているので、この夏は自分たちが必ず行かないと。もう負けたくないんです」と語気を強める。3月には多くの選抜出場校と練習試合も行った。でも自分の打撃も決して負けていなかったと自負している。チームには神野と同じくプロも注目する5番・安原健人や2年生ながらパンチ力のある3番の太田椋など打の役者も揃っている。

 この夏は絶対に誰にも負けない――。そのためにこの春も最後まで県大会を戦う覚悟だ。

「春はまず県の頂点に立ちたい。その流れで夏も必ず甲子園に行きたいんです」

 2年ぶりに大舞台に戻り、今夏はあの景色をゆっくりと眺めてみたい。

沢井史●文 text by Fumi Sawai

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