日韓関係望む対話 新大統領へ在日や県民ら期待

 韓国大統領選で文(ムン)在寅(ジェイン)氏(64)が当選を果たし、約9年ぶりに政権交代した。前政権下では日韓関係の冷え込みも指摘され、県内の在日コリアンらは関係の再構築を願う。県民も隣国の新たなリーダー誕生に「対話を大事に」と期待を寄せている。

 駐横浜大韓民国総領事館(横浜市中区)によると、在外投票は4月25〜30日に行われ、同領事館管内の神奈川、山梨、静岡の3県で2401人が事前登録し、1185人が投票。投票率は49%で前回(2012年)の大統領選の57%を下回った。

 日本で生まれ育った在日コリアンの中には、投票権を持ちながらも「感覚は日本人と変わらない」と、韓国の選挙自体に関心が薄い人も少なくない。

 「投票はしていない。文さんという名前も、今朝のニュースで初めて知った」。大統領選から一夜明け、在日コリアンが集住する川崎市川崎区桜本の商店街で働く在日3世の30代女性はそう話す。在日のコミュニティーでも韓国への留学経験者を除き、ほとんど話題に上らなかったという。「何を主張しているかもよく知らないが、誰が選ばれても同じでは」としつつ、「日韓両国の関係が悪くなるよりは平和でいてほしい」と願う。

 一方、投票権を行使した在日コリアン2世で、友好都市協定を結ぶ川崎市と韓国・富川(プチョン)市の市民交流会共同代表を務める〓(ペ)重度(ジュンド)さん(72)は結果を冷静に受け止める。

 「主要3候補とも、慰安婦問題の合意の再交渉など対日関係で強めの姿勢を出していたが、実際はもっと柔軟性を持って考えているのでは」。川崎に限らず、多くの自治体で市民レベルの交流が進む現状を踏まえ、「市民同士の関係が一気に険悪になるということはないと思う」と語った。

 「在日同胞も一緒に選んだ、極めて民主的に選ばれた大統領。我々は政府の方針を支援する立場」と話すのは在日本大韓民国民団(民団)県地方本部(横浜市神奈川区)の呉(オ)吉明(キルミョン)事務局長(55)だ。

 文氏の慰安婦合意再交渉の主張については「私たちは国籍が韓国でも日本で暮らす地域住民。日韓関係がぎくしゃくすると、ヘイトスピーチなどの危険に脅かされる」と懸念。「国レベルで合意した以上、引き継いでほしい。地域貢献の活動に水を差さないでもらいたい」と注文した。

 「横浜韓国語スクール」(同市中区)に通う同市都筑区の主婦(55)は、男性デュオ「東方神起」のファン。彼らの言葉に理解を深めたいと語学に励む。韓国まで足を運び、ライブも楽しんでいる。

 現地で出会った人はみんな親切だった。日韓関係の冷え込みを感じていたが、「国同士が争っているだけ。身近な温かさを忘れなければ関係は改善できる」 同市戸塚区の会社役員榎本和則さん(45)は2カ月に1度の韓国出張を続け、10年以上になる。

 現地では取引先とお酒を酌み交わしながら、たわいもない話を楽しむ。領土問題など意見が合わないこともあるが、「違いは当たり前。リスペクトし合うことが大事」と強調する。

 だからこそ、顔を見て対話を重ねることが大切だと考えている。「安倍首相は文大統領と早く会ってほしい。お互いを知り、一緒に歩んでいくことを一番大事にしてもらいたい」と期待を込めた。★県内自治体「変わらぬ交流を」 韓国と友好提携する県内自治体からは「友好関係は変わらない」「今後も市民交流を続けていく」などと変わらぬ交流を求める声が上がった。

 県は1990年に韓国・京畿道と友好提携を結んだ。黒岩祐治知事は「地域間交流はこれからも活発化させていく」と話す。

 2015年には提携25年を記念し、現地を訪問。青少年のスポーツ交流や職員相互派遣にも取り組んできた。「県内にも2万7千人ほどの韓国籍の人が住んでいる。ともに生きる社会をしっかりと続け、日韓の協力関係や交流を活発化させていくのがわれわれの使命」と話した。

 軍事境界線と面する坡州市と友好都市提携する秦野市。7月に中学生約20人を英語研修施設に派遣し、8月には小学生サッカーチームを遠征させるための準備を進めてきた。

 同市は「北朝鮮情勢の緊迫化や大統領選後の社会情勢を見極め、実施するかを今週中に決めたい」としている。

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