建築・土木で振り返る70年~構造物に見る鉄の可能性~

北海道百年記念塔(北海道、竣工・1970年)

 蝦夷地から北海道と改め、開拓使が置かれてから開道100年の節目を迎えた1968年(昭43)年に着工。札幌市郊外に広がる野幌森林公園の一角に立ち、塔の高さは年数にちなんで100㍍だ。

北海道百年記念塔(北海道、竣工・1970年)

 大阪万博と同じ年に完成した塔は、耐候性高張力鋼板による鉄骨造で建設。塗装を必要としない茶色の耐候性高張力鋼板など鋼材約1500㌧を使用した。上から見ると雪の結晶と同じ「六角形」を、横からは未来への発展を象する「相対する二次曲線」を表したデザインだ。

 建設費5億円の半分は道民からの寄付。地元住民の愛着がうかがえる。

JR北海道新函館北斗駅(北海道、竣工・2015年)

 16年3月に開業した北海道新幹線。新幹線が新青森から津軽海峡を渡り、北海道を走ることに感動を覚えた人も多いだろう。現状の停車駅は新青森、奥津軽いまべつ、木古内、新函館北斗の4駅だ。

JR北海道新函館北斗駅(北海道、竣工・2015年)

 このうち新設されたのは新函館北斗駅と木古内駅。新函館北斗駅は濃厚なグレーのパネルにガラスの意匠と外観の美しさが目を引く。内装でも天井には地元産の杉集成材が使用され、温かいぬくもりを感じさせる。

 両駅には屋根・壁材の鋼板や外法一定H形鋼など多くの鋼材が使用された。記念すべき開業に鉄鋼業界が様々な形で貢献している。

JR東日本新幹線総合車両センター(竣工・1982年)

 東北新幹線が大宮~盛岡駅間で暫定開通する3年前、1979年に仙台試験線管理所として発足。主に東北新幹線を走る車両が日常整備を受けるだけでなく、上越・山形・秋田・北陸の各新幹線車両も重整備を受ける。

JR東日本新幹線総合車両センター(竣工・1982年)

 長さ3・5㌔、最大幅260㍍の広大な敷地は約53万平方㍍で、車両基地としては国内最大だ。中央を砂押川が横切る軟弱な地盤なため、車両検修建屋の大半はコンクリートパイルの上に載る人工地盤に建設された。

 構内には現役で活躍する車両など500両以上を収容する鉄路が広がる。

東北新幹線第一北上川橋梁(岩手県、竣工・1975年)

 岩手県から宮城県にかけてのどかな田園風景の中に流れる一級河川の北上川。1982年の東北新幹線開通に際して、岩手県は一関市の一関遊水池上に第一北上川橋梁が架設された。

東北新幹線第一北上川橋梁(岩手県、竣工・1975年)

 全長は3868㍍と鉄道橋としては国内最大延長を誇る。構造は複線単純トラス構造だが、第一北上川橋梁のトラス部分は1キロ㍍未満と非常に短く、大部分は連続PC高架橋となっている。

橋梁下部の左右両側にある2本の支保工桁と中央にある送り桁で支保工を構成する『ストラバーグ可動支保工』が施工に際し適用されている。

羽田空港D滑走路(東京都、竣工・2010年)

 2007年に着工した羽田空港の再拡張工事。15社JVにより建設され受注総額5700億円と国内最大級のビッグプロジェクトだ。

羽田空港D滑走路(東京都、竣工・2010年)

 土台となる鋼製ジャケット198基の総重量は約28万㌧と世界最大の鋼構造プロジェクトでもある。上下部構造の製作は新日鉄エンジ(現・新日鉄住金エンジ)、JFEエンジで行われ、両社の千葉の拠点で一体組立後に出荷された。

 ステンレスライニングやチタンカバーなどの金属被覆も施され100年耐用仕様となっている。まさに日本鉄鋼業の技術の粋を集めた象徴的なプロジェクトとなった。"

東京スカイツリー(東京都、竣工・2012年)

 東京のみならず日本の新たなランドマークとして建設された超高層テレビ電波塔、東京スカイツリー。高さは自立式電波塔としては世界一の634㍍だ。

東京スカイツリー(東京都、竣工・2012年)

 展望台を含む地上本体の鉄骨重量は約4万1千㌧で高炉各社が鋼材を供給。超高層の構造を支えるため地下部から頂上部まで高強度の円形鋼管を使用した。

 タワーの断面形状は下部から上部へ三角形から円形へ変化する独特の形状をしている。

 塔体は立体骨組みの鼎トラス主体の構造。建設中に発生した東日本大震災でも無傷だったことは記憶に新しく、日本の優れた技術力を象徴する建造物だ。

パレスサイドビル(東京都、竣工・1966年)

 東京・千代田区は皇居のお濠を臨む位置に立つパレスサイドビル。地下6階、地上9階、塔屋3階の鉄骨鉄筋コンクリート造で、周囲のビルの再開発が次々と進む中で、今も昔の姿を留める記念碑的な建築物だ。

パレスサイドビル(東京都、竣工・1966年)

 設計は日建設計、施工は大林組と竹中工務店が担当し、当時としては先進的なデザイン。その斬新なデザインは日本建築学会の「近代主義建築20選」など多くの賞を受賞している。かつてははとバスツアーの見学コースとなったほか昭和天皇・皇后両陛下もご来館するなど「パレス」の名にふさわしい歴史と様式美を兼ね備えている。

鍋立山トンネル(新潟県、竣工・1995年)

 新潟県の南部から日本海側を結ぶ北越急行ほくほく線のほぼ中央部、まつだい~ほくほく大島駅間にそびえる鍋立山を貫く(全長9116・5㍍)。一帯は地滑りが多発し、可燃性ガスも高圧で潜在する地域だ。約4年の工事凍結期間を含めて完成まで足掛け22年を要し、青函トンネルをしのぐ屈指の難工事となった。

鍋立山トンネル(新潟県、竣工・1995年)

 工事では掘削部にコンクリートを素早く吹き付けてロックボルトを打ち込む「新オーストリアトンネル工法(NATM)」を採用。それでも特に難所だった中工区では極度の地山の膨張のために工事先端部(切羽)が何度も押し戻された。

沼津港大型展望水門びゅうお(静岡県、竣工・2004年)

 静岡県で2番目の水揚げ量を誇る沼津港を津波被害から守るため、内港と外港を結ぶ航路上に設置された。水門の扉体はシェル構造と呼ばれるボックス断面で、幅は40㍍、重量は406㌧。同じ構造の単段ゲート設備(上部工)としては、全体重量が923㌧と日本一だ。下部工には鉄筋1100㌧を使用している。

沼津港大型展望水門びゅうお(静岡県、竣工・2004年)

 高さ約30㍍の水門最上部には展望回廊を併設し、眼下に太平洋を望める。名称は英語のVIEW(ながめ)と魚(うお)を組み合わせてつくった。市民の安全を守りつつ、観光名所としても存在感を示している。

名港トリトン(愛知県、竣工・1998年)

 愛知県の南西部、伊勢湾岸自動車道のうち名古屋港を横断する3連続の斜張橋(東大橋、中央大橋、西大橋)で構成する。その名称は、荒波をほら貝で鎮めたギリシャ神話に登場する海の王子「トリトン」にちなむ。

名港トリトン(愛知県、竣工・1998年)

 全長は3橋合計で2628㍍、高さは最大165㍍。中央大橋は大型帆船も航行できるよう、桁下から水面まで55㍍を確保している。橋桁をケーブルで吊る鋼製主塔は、景観に配慮するとともに耐風性能を高めるため柱部材の断面を八角形にしたのが大きな特徴だ。

 季節ごとに異なる色でライトアップされる夜間には、観光名所としての顔も垣間見せる。

芦屋浜シーサイドタウン高層住宅地区(兵庫県、竣工・1979年)

 日本で初となる鉄骨造の高層住宅群。大阪湾を望む兵庫県芦屋市の埋立地において、コンペ形式で官公庁が主導した大規模再開発プロジェクトに基づき、新日本製鉄(現新日鉄住金)をはじめ5社の企業連合が建設工事を担った。延床面積は33万6千平方㍍。階段が柱、高層棟を結ぶ共用階が梁の役割を果たす鉄骨架構と、プレキャストコンクリート製の住宅ユニットで構成する。地下32㍍から39㍍にかけて2300本超の杭が支える。

芦屋浜シーサイドタウン高層住宅地区(兵庫県、竣工・1979年)

勧進橋(京都府、竣工・1947年)

 京都市中心部を流れる鴨川に架かり、伏見、南の両区を走る国道24号の一部を担う3径間連続鋼のリベット非合成鈑桁橋。初代は江戸時代の1633年にさかのぼり、現在供用するのは1947年に架け替えられたもの。新選組の活動史に名を残し、1900年代前半から70年にかけては路面電車が行き交った。大文字を望み、染織工場が立地していた周辺部は宅地造成や高速道路の開通で様変わりするなか、勧進橋が往時の面影を残す。

勧進橋(京都府、竣工・1947年)

通天閣(大阪府、竣工・1956年)

 塔高108㍍の展望台。儒学者、藤沢南岳が「天に通じる高い建物」という意味を込めて名付けた。現在は1912年製の初代に続く2代目。2月10日を「ツーテン」の日とし、国の登録有形文化財に指定されるなど大阪・なにわのシンボルとして名を馳せる。鉄骨鉄筋コンクリート造で、地下1階、地上5階建て。直下の市道をまたぎ、低層階の1階部分は鋼製の脚部が四方に据わる。建造翌年から企業広告のネオンが灯り、気象台との専用回路によって簡単な色の組み合わせで翌日の天気を知らせる電飾が上部を照らす。

通天閣(大阪府、竣工・1956年)

瀬戸大橋(岡山県・香川県、竣工・1988年)

多島美の瀬戸内海を挟み、岡山県倉敷市と香川県坂出市を結ぶ10橋を総称する本州四国連絡橋3ルートの一つ。吊り橋・斜張橋・トラス橋の3種で構成、上部に自動車道路、下部には鉄道が走る。道路と鉄道を併用する橋として世界最大級の規模で、海峡部の全長は約13㌔。主な資材は鋼材70万5千㌧、コンクリート364万6千立方㍍。着工から開通まで約9年半をかけ、世界で初めて超音波による海底無線発破を採用した。地面の一カ所で南北2本のケーブル支える吊橋の固定台をはじめ最先端技術を取り入れた。

瀬戸大橋(岡山県・香川県、竣工・1988年)

天神ビル(福岡県、竣工・1960年)

 九州の高度成長を象徴する地下3階・地上11階建ての鉄骨鉄筋コンクリート造。地上で製作した地下部を組み込む「潜函工法」を採用、18カ月の短工期で仕上げた。延床面積は約3万3千平方㍍と当時は神戸以西で最大規模を誇った。定期的な点検と修繕により、ステンレス製の窓枠と茶褐色で有田焼窯変小口タイルの外壁が建設時の面影を残す。維持保全活動が評価され、2007年度にロングライフビル推進協会のBELCA賞を受賞。交通の要衝に立つランドマークとしてそびえる。

天神ビル(福岡県、竣工・1960年)

大型ロケット組立棟(鹿児島県、竣工・1991年)

 鹿児島県南種子町でJAXA(宇宙航空研究開発機構)が運営する種子島宇宙センターにあり、工場から輸送したロケットを組立や整備、点検する施設。

大型ロケット組立棟(鹿児島県、竣工・1991年)

 略称はVAB(Yoshinobu・Vehicle・Assembly・Building)。Yoshinobuは立地する一帯を指す地名「吉信」に由来する。鉄骨造で総重量は5600㌧。高さ81㍍、幅64㍍、奥行き34・5㍍。ロケット2機を同時に点検、整備でき、衛星やフェアリングの取り付けまで対応する。

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