【中堅アルミ圧延メーカー「アカオアルミ」が創業70周年】〈赤尾由美社長に聞く〉〝選択と集中〟で収益向上 「100年企業」へ、品質向上と人材育成

アカオアルミ・赤尾社長

 「小さな会社ながら、よくここまで続いたなというのが正直な感想です」――アルミ圧延素材から器物製品を手掛けるアカオアルミ(本社・東京都練馬区、社長・赤尾由美氏)は今月21日、創業から70年を迎える。戦後まもなくアルミ圧延を始めたアカオアルミの70年の軌跡を赤尾由美社長とたどった。(遊佐 鉄平)

 1円玉の素材(円形)を一手に引き受けているという印象が強いアカオアルミだが、化粧品容器などに利用される光輝材やサークルプレート、さらには鍋などのキッチンウェア製造など、大手圧延メーカーとは一線を画し、ニッチな分野で製品を供給している。東京23区内でアルミを圧延する唯一のメーカーで、生産能力は月産600トン。1オーダー300キログラムからでも対応できる小ロット対応と、小回りの効いた顧客対応力が特徴だ。

突然の社長就任

 由美氏の父で創業者の赤尾四郎氏は、満州で負った傷の治療のさなかに東京で終戦を迎えた。しばらく療養生活を送っていたが、縁あって圧延機を手に入れ、アルミを生業とすることを決めた。アルミを選んだ経緯については、四郎氏の父・織之助氏の影響があったようだ。織之助氏は岡谷鋼機で丁稚奉公した後、関東から中部を地盤に金物販売から牧畜、遠洋漁業まで幅広く事業を手掛けた商売人だったという。由美社長は「父にとっては、金物業というのはもともとなじみがあったのかもしれません」と推測している。

 1947年5月に板橋区前野町で創業した赤尾アルミニューム工業は、12年後の59年に現在の本社所在地・練馬区旭町に拠点を移し本格的にアルミ板の生産を開始した。70年代の高度経済成長期には製造設備の増強に取り組み、さらに取引先だった器物メーカーの事業を譲り受けキッチンウェアも強化。素材から製品まで一貫して手掛ける総合メーカーとしての立場を確立した。

 こうして事業を広げた中、96年に四郎氏が生涯現役のまま77歳で急逝。由美氏が社長に就いた。それまで社業にタッチせず、前月に出産したばかりの中での緊急登板に「生前に父が古参役員に〝由美が後を継ぐ〟と含んでいてくれたので、社長就任自体はスムーズでした。ただ大きな不安からのスタートだったと覚えています」と振り返る。

 社長就任から21年の間、事業環境は必ずしも良いものではなかった。90年代後半からのデフレや01年のITバブル崩壊、08年のリーマンショック、11年の東日本大震災――度重なる逆風は、東京の片隅でアルミを造るアカオアルミにも直撃した。「ITバブル崩壊後は黒字でも借り換えができず、連鎖倒産を意識する場面もありました。またリーマンショックの時には急激に収益が悪化し、赤字が続いたことも・・・」と述懐する。

事業の選択と集中

 厳しい事業環境の中で遭遇した危機も多いが、それを乗り越えるための知恵を出した。由美社長が、工場改善と併せて取り組んだのが〝事業のスリム化〟。会社を引き継いだ当時は11法人に分かれていたため、内部取引の不透明性や高コスト体質といった課題を抱えていた。また、各法人の借入合計は約100億。それを少しずつ改善して08年3月にはそれら企業の合併を実現し、現在のシンプルな体制に変革した。

 また足元の数年間は〝収益体質の強化〟に向けて事業の選択と集中を実施した。同社の売り上げの4割を占めるキッチンウェア事業について、中国製品との価格競争激化で赤字事業となっていた家庭用製品からは撤退し、業務用製品に集中。防音材として販売しているアルミ繊維も、事業の拡大が見込めないとして共同開発企業に製造権を譲渡する方針だ。

 いくつかの事業から撤退した一方で、主力のアルミ圧延事業も収益改善も強烈に取り組んだ。特にこの2年間は〝背水の陣〟で値上げとコスト削減の二兎を追い、「お客様にご迷惑をおかけし、従業員にも無理を言いましたが、今後も安定して製品を供給できる体制を整えることができました」と経営基盤の再構築を実現した。とはいえ収益性の改善策はまだある。足元の生産量は月600トンでフル生産状況にある。さらなる増産の余地が限られるため、付加価値製品の比率拡大が目下のテーマだ。

 アカオアルミが掲げる社内方針は『品質のアカオ、人材のアカオ』。「道のりは果てしないですが、いち中小企業に大手メーカーを上回る品質の製品、人間力の高い人材がそろっていたら素晴らしいですよね」と微笑む。

 「毎年新入社員を登用しますが、そういった若い社員が立派な産業人として将来を描けるような会社にしたいと考えています。30年後、100周年を迎えるときにおそらく幹部として育っているはずなので『100周年記念行事のときは招待してね!』と話しています」

© 株式会社鉄鋼新聞社