【薄板販売・厚板加工の「山村」・きょうから設立30年目】溶断事業、複合一貫体制を充実 北関東で「存在感」発揮

 薄板販売、厚板溶断加工業の山村(千葉県鎌ケ谷市粟野、社長・山村春美氏)は、きょう5月23日で設立からちょうど30年目に入る。

40歳で「山村」起業

溶断工場と事務所が一体となった「群馬支店GSC事業部」

 創業オーナーの山村社長は、もともとトーメン系列のブリキ専門コイルセンターだったキヨイ鋼業の東京支店に勤務していたが、1988(昭和63)年4月末に退社し、その年の5月23日に「山村」を立ち上げたことでスタートを切る。このとき山村社長は40歳になったばかりだった。

 ちなみにキヨイ鋼業は、のちに新キヨイ鋼業となり、その後JFE商事による株式取得によってJFE商事系列のJFE商事大阪ブリキセンターと経営統合。2015年10月に新生「JFE商事大阪ブリキセンター」となっている。

 設立当初の「山村」は、東京の南葛西にあった山村社長の自宅マンションの一室を仕事場とし、ブリキの輸出を主体としたブローカー商売を開始。そののち薄板全般を扱うようになる。

 バブル崩壊後の長引く不況のさなかで千葉の鎌ヶ谷に拠点を移す。景気低迷で売り上げは大幅に減少するが、ブリキ商売で培った縁と人脈で「缶」の販売にも乗り出す。北関東エリアにある需要家との商いもスタートし、薄板販売に次ぐもう1本の柱となった。

 しかし、その大口顧客が突如、会社を解散してしまう。2010(平成22)年8月のことである。

 ちょうどその直後のタイミングで、当時の日鉄商事(現日鉄住金物産)系列だった群馬鉄鋼販売の厚板溶断部門を引き継ぐことになった。このときも人の縁がきっかけだった。

群馬で厚板溶断開始

プラズマ切断しても「煙が出ない」(新工場)

 「山村」が、旧群馬鉄鋼販売の「厚板溶断事業部」跡地を新たに群馬支店「GSC事業部」(伊勢崎市日乃出町、GSCは『群馬スチール・カッティング』の略)として厚板の溶断加工・販売を開始したのが、この年の10月のこと。

 長く薄板販売に携わってきた山村社長にとって、溶断設備や穴あけ加工機などの設備を持ち、現場オペレータを抱え、建築鉄骨向けを主体とした厚板の溶断・二次加工を手掛けるのは初めてであり「人」に関しては将来にわたって共に歩調を合わせていける人材を再雇用した。結果として「前向きでやる気のある若い世代」が、山村GSC事業部を支える体制となった。

 それでも「GSC事業部」を立ち上げた当初の事業環境は決して恵まれておらず、順風満帆な船出とはいかなかった。

 リーマンショック後の世界同時不況から抜け出せず、域内の建築需要は最悪期の真っ只中。しかも発足から半年足らずの翌年3月には東日本大震災が発生し、情勢は不安定だった。

 ただでさえ群馬を中心とする北関東エリアは、厚板溶断加工業の並み居る強豪がひしめく激戦区。限られたパイをめぐり、域内では各社が競合他社に先んじて品質・技術力や納期対応力で競争優位性を確保し、受注間口を広げようとしのぎを削る。

 この市場のなかでスタートした「山村」だが、当然ながら「最初はコストダウンの連続でした」と振り返る。身をかがめ、風雪に耐えながら、山村社長にとっても勉強、経験の数年間が経過する。

 ただ、その甲斐あって「これならこの地で事業を続けていける」と確信できたとき「山村」は〝守り〟のギアを〝攻め〟へシフトチェンジする。

新「溶断工場」始動

既存工場では各種二次加工を手掛けスプライスプレートなど生産

 昨年夏、待望の新工場が完成する。旧群馬鉄鋼販売厚板溶断事業部から引き継いだ既存工場から徒歩5分圏内。県道2号線に面した好立地で、最新鋭プラズマ切断ラインが稼働を開始した。

 新工場は、山村社長が思い描いてきた「生産性向上と作業環境改善を両立する」という理想の姿を実践する「場」でもあった。

 「生産性の向上」は、全長70メートルの切断定盤に最新鋭の門型プラズマを2台共載し、板厚50ミリまでの長尺広幅厚板を最大11枚(8×20サイズ)まで縦列させ、昼夜を問わず高速・高品質切断することで実現。

 一方「作業環境改善」は、溶断機械メーカーの小池酸素工業ともタイアップし、集塵効果を最大限に引き上げることでプラズマ切断時に発生する金属ヒューム(微細粒子)や燃焼煙をシャットアウト。厚板溶断現場とは思えないクリーンな作業環境づくりを達成している。

 薄板の世界で育った山村社長にとって、厚板溶断現場をひとめ見た瞬間から「劣悪は3K職場」にしか映らず、なにより現場で働く作業オペレータのためを思い、これを「どうにかしてクリーンで快適な職場環境に変えられないか」をトップとしての至上命題とした。

 そのミッションを、新工場でクリアしたわけだ。

 新工場の構内(約8250平方メートル)には新事務所も建設。今年2月下旬からは、ここを新「群馬支店」(伊勢崎市日之出町644-1)として移転し、GSC事業部は最新鋭プラズマ2台を新設した新工場とガス・プラズマ・レーザおよび穴あけ、折り曲げ、バリ取り、ショットを手掛ける既存工場の2拠点体制を構築している。

 なお、新工場および新事務所の設計・施工・建設工事を担当したのは、地場Hグレードファブで「山村」の主要顧客の1社である勅使河原鉄建。また、プラズマだけでなく溶断次工程である穴明け加工機やショット、バリ取りといった二次加工設備も、一次加工能力の強化に合わせて拡充しており、今年に入ってNCドリルマシンやショット&バリ取り一貫ラインも順次、新設している。

積極的に「人」採用

 激戦区の北関東マーケットで「山村」が、付加価値を高めて顧客に〝必要な存在〟と認知されるためには―。

 選んだ答えが「品質・納期対応力ナンバーワン」と「複合一貫加工の拡充」だ。ハード面では、設備導入によってその取り組みを着実に実践。ソフト面では、いま「山村」では、厚板溶断事業部門において積極的に人材の確保と育成を推し進めている。

 直近では2月に中途を募集。新工場をみてもらい、最新設備が稼働する明るくてクリーンなイメージが好感され「ここで働きたい」という意欲的な若者4人を採用した。「若い人に関心を持ってもらい、集まるようになったのも、新工場を建てた大きなメリットのひとつ」と山村社長は手応えを実感。以前なら、募集しても採用率は半分以下だったし、入社しても定着しなかった」。

 豊富な加工設備群と将来のある若手・中堅世代が、山村社長のリーダーシップのもと年齢やキャリアにとらわれずに登用され、自由で柔軟な発想を武器に「強い現場づくり」に向け、布石を打ち始めたところである。

 今はまだ粗削りだが、明確な目標と愚直な日々の努力と研鑽の積み重ねによって成熟度を高めていけば、北関東の競合他社に伍していくだけのポテンシャルが「山村」には潜んでいる。

 「先入観と固定観念を捨てろ!」とは、日頃から山村社長が現場に発する口癖であり、これに発奮興起して営業も現場も「常に新しいことに挑戦しなければ」と試行錯誤する。

 溶断業の経験が浅いからこそ、かえって昔ながらの古い常識観や凝り固まった商習慣に長くどっぷり浸からず、常にチャレンジャーでいられる〝強み〟かもしれない。

切板フル加工目指す

 まだまだ時間はかかるだろうし平坦な道のりではないが「建築鉄骨向け厚板の切板フル加工」(単純な切板ではなく穴あけや開先まで手掛け『ひとつの部品』として完全な形に仕上げて客先であるファブに納入する)に特化する将来像を念頭に、そのレベルに近づくために着々とノウハウを蓄積しつつ、きょうの節目を機に「より内製力を高めた複合一貫加工体制の充実」への新たな一歩を踏み出す。

 もちろん、もうひとつの経営の柱であり、発足時から携わってきた各種薄板類の卸販売・貿易および「缶」の販売にも引き続き力を注ぐことで「創業精神」を守り、バランスのとれた企業経営をめざしていくのは言うまでもない。(太田 一郎)

山村春美社長インタビュー/固定観念捨て常に挑戦/どこにも負けない品質・納期へ

――きょう5月23日は「山村」の30回目の創立記念日になります。

山村・山村春美社長

 「長いようであっという間に29年間が過ぎ、きょうから30年目という新たな門出を迎えますが、これもひとえに、これまでお世話になったお客さま、仕入れ先さまなど取引先の方々やご支援をいただいた諸先輩方そして従業員ら多くの人のおかげです。この場を借りて心から御礼申し上げますとともに、これからもご指導、ご愛顧を賜りたくどうぞよろしくお願いします」

――薄板販売でスタートした「山村」にとって平成22年10月に群馬県伊勢崎市で厚板溶断加工事業を開始したのは大きなエポックだったのでは。

 「いろいろな経緯があり、人の縁や助けもあって今の『群馬支店GSC事業部』(GSCは群馬スチール・カッティングの略)が誕生しました。私自身、厚板溶断加工の経験がなく、始めた当初は取り巻く需要環境も厳しかったので試行錯誤の繰り返しでしたが、お客さまや社員のおかげで何とか形になってきたとの思いです」

――昨年来の新工場建設、大型設備投資、老朽化設備のリプレースやそれに伴う人員増強、そして新事務所完成と群馬支店移転…と動きが矢継ぎ早です。

 「はじめの数年間は、GSC事業部の体制基盤を整えることを優先してきましたが、それにめどがついたので次のステップは古くて精度の悪い設備は入れ替える、将来を見据えて次世代を担う人材を採用・育成する、暗くて見栄えの悪い工場は明るくきれいにする、作業場が危険で労働環境が劣悪であれば安全で快適な働き甲斐ある職場にする。つまり『会社が残っていくために必要な投資を適切かつ確実に行う』段階にきたという判断です。コストもかけず、身を縮めるだけではジリ貧となるし、顧客満足度を高めることも競合他社との競争に打ち勝つこともできない」

 「私が厚板溶断事業を始めてこれまでに学んだのは、納期対応と品質の良さがいかに大切かということ。これを全うするには、いい設備、いい人材、いい工場が不可欠。それをどう実現しつつ他社には無い〝山村GSCならではのオリジナリティ〟を模索するなかで『生産性が高く、クリーンで明るいプラズマ切断工場』を立ち上げました。小池酸素工業さんの集塵システムを採用した24時間稼働の『無煙(ヒュームレス)工場』です。穴あけやバリ取り、ショットについても老朽化設備を新しい加工機に入れ替えました」

――工場も事務所も若手の方が多く、活気があります。

 「GSC事業部を立ち上げる際、将来を見据えてやる気のある若手を雇用しました。経験は未熟でも考え方が柔軟で、旧態依然とした商慣習や前例と先入観に凝り固まったアタマの固い職人気質が無かった分、創意工夫しながら私のイメージを現場で実践してくれた。その彼らがいまGSC事業部の営業、工場の最前線に立って指揮を執り、そのあと採用した若手も、そんな先輩の背中をみているからモチベーションが高い。とにかく若いから元気ですよ。ベテランも負けじと頑張っています」

――節目を迎え、これからの「山村」をどう舵取りしますか。

 「薄板販売、厚板加工を両立しつつ、やはりGSC事業部をどう強化・拡充するかがテーマですね。どこにも負けない品質精度を実現し、クレームを発生させない検査・管理システムの構築やきめこまかい納期対応力、作業者の安全と働き甲斐を優先したクリーン工場の維持・向上、下工程まで内製した複合一貫体制に〝磨き〟をかけた部品供給体制の整備などやるべき課題はたくさんあります」

 「私はいつも現場に『先入観と固定観念を捨てろ』『常に新しいことに挑戦しろ』とハッパをかけています。それに何とか応えようとベテランから中堅、若手を問わず日々励んでいます。必ずや課題をクリアし、お客さまの要望を満たし、会社も成長していきます」

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