北朝鮮は、世界で唯一の税金制度のない国であると謳っている。
故金日成主席は1974年2月、朝鮮労働党中央委員会第5期第8次全員会議において、古い社会の遺物である税金制度を完全になくすことについて討議、決定することを指示した。それを受けて最高人民会議は同年3月、「税金制度を完全になくすことについて」との法令を発表し、4月1日に世界初の税金のない国になったことを宣言した。この日は「税金制度廃止の日」に定められている。
北朝鮮のプロパガンダサイト「ウリミンジョクキリ(わが民族同士)」は、「税金という言葉すら知らないわが国の人民の暮らしが楽園だとすれば、税金に抑えつけられ、一生を税金で苦しみ死んでいく南朝鮮(韓国)人民の生活は地獄だ」と主張している。
しかし、現実は全く違う。
北朝鮮においては使用料、募金などの名目で、法的根拠のないカネが税金と同様に、頻繁に徴収されるのだ。その中で、法的根拠に基づく数少ない「税金」が、土地使用料だ。
これは、「国の土地をもって生産した農業生産物の一部を使用料形式で国に義務納付するようにすることについて」という故金正日総書記の指示に基づき、内閣が2002年7月に採択した「土地使用料納付の規定」を根拠としている。
一般的な額は1坪(北朝鮮では1.8平米)あたり40北朝鮮ウォンだったが、これが昨年末から70北朝鮮ウォンに引き上げられ、農民の間から不満の声が上がっている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によれば、状況は次のようなものだ。
70北朝鮮ウォンは日本円で1円にも満たない額だが、土地を使用している人にとっては負担となる。例えば、1000坪の土地を使用している人は、7万北朝鮮ウォン(約910円)の土地使用料を払わされる。これはコメ14キロ分に相当する額だ。
土地使用料の引き上げの背景には、国際社会の対北朝鮮制裁の強化で発生した資金不足を解消する狙いがあるものと見られている。
現在、土地使用料の未納者宅に担当者が出向き、取り立てているが、抵抗は強いもようだ。
「畑に蒔く種もないのに、なぜ土地の使用料などを払わせるのか」と強く抗議して、支払いを拒否する人もいるという。
不満を抱く農民の間からは「これでは、地主が小作農から小作料を搾り取っていた時代と同じだ」「税金のない国というプロパガンダの意味がない」との批判が上がっている。
また、海外情報に明るい人らは「経済制裁をしているのは外国なのに、一般人民を痛めつけて乗り切ろうとしている」と当局を批判しているという。