ダイアナ・クラール『ターン・アップ・ザ・クワイエット』 静寂から生まれるスタンダードの新たな命

ダイアナ・クラール『ターン・アップ・ザ・クワイエット』

 前作ではデイヴィッド・フォスターをプロデューサーに迎えポップスのカバーを、前々作ではT・ボーン・バーネットを迎えブルースやカントリーなどジャズに限らない20年代からのポピュラー・ソングを歌った彼女が11年ぶりにスタンダード・ジャズに戻ってきました。

 彼女の育て親でもあるジャズ、AOR界の大御所トミー・リピューマをプロデューサーに迎えての新作はアルバム・タイトルどおり音を必要最小限に抑えたセンシティヴな作品。その静寂感がゆえに彼女のヴォーカルがより情熱的に引き立てられています。

 選曲に「幸せな歌」を数多く選んだのは人の平等を信条とする彼女の、現代の閉鎖的な政治や社会の断絶に対するアンチテーゼとか。ボブ・ディランがスタンダードを歌った理由とも重なります。確かに「ロマンティックじゃない?」「ブルー・スカイズ」と言った曲は世界恐慌の30年代に人々に愛と希望を与えました。トミー・リピューマは本アルバム完成直後に逝去、彼の遺作となりました。

(ユニバーサル・ミュージック・2600円+税)=北澤孝

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