【共英製鋼、拡大するベトナム鉄鋼事業(上)】〈製鋼・圧延一貫「VKS社」〉鉄筋需要急伸、フル生産 販売先の多角化も

 1994年1月、共英製鋼はベトナム・ホーチミン市近郊に鉄筋・線材圧延ミル「ビナ・キョウエイ・スチール(VKS)」を立ち上げた。当時、ベトナム国内の条鋼類の年間需要は約50万トンだったという。しかし近年、ベトナム鉄鋼需要は急伸。昨年は条鋼需要が当時から20倍の1千万トンに増え、共英はベトナムでの鋼材出荷量が100万トンに達した。共英がベトナムで進める事業は、製鋼・圧延一貫工場となった「VKS」(社長・岩佐博之氏)のほか、その近隣で港湾事業を手掛ける「チーバイ・インターナショナル・ポート」(TVP、社長・木下勝之氏)、北部・ハノイ近郊の鉄筋・線材圧延ミル「キョウエイ・スチール・ベトナム」(KSVC、社長・星野洋一氏)、子会社の共英産業が北部で展開する鋳物事業会社の「ビナ・ジャパン・エンジニアリング」の4社。このうち、VKS、KSVC、TVPの3事業会社の現状と展望をルポする。(ホーチミン、ハノイ=宇尾野宏之)

人材育成強化で稼働率向上を図る電炉

条鋼需要1500万トンも

 「将来、ベトナムの条鋼需要は1500万トンにまで達するのではないか」―成長するベトナム鉄鋼需要に対して、共英製鋼の現地関係者は期待感を示す。

 ベトナムの人口は約9千万人。日本の小形棒鋼需要のピークは90年の1375万トンで、1500万トンはそれを上回る数字だが、ベトナムには鉄骨造がほとんどないため「日本のピークを超えるのでは」との期待につながっている。

 急激な需要増という追い風が吹く中、VKSは2015年6月、年産50万トン規模の製鋼および第2圧延工場を竣工した。既存の第1圧延工場を含めると、鋼材生産量は年80万トンに拡大。足元はフル稼働状態にあり、急増する需要に対応するため、「OEMなどで供給を増やせないか」(岩佐社長)と方法を模索している。

 需要を着実に捉えたいVKSにとって、フル稼働を続けていくことは喫緊の課題だ。特に製鋼工程は圧延と異なり、チャージごとに異なる鉄スクラップを投入するため、作業員の経験値が稼働の安定性を左右する。しかしVKSは稼働を開始したばかりで製鋼作業員の経験が浅い。そのため「トラブル時の対応力などでまだ日本とは差がある」という。これを解消するため、共英本体からスーパーバイザーを招くなど人材育成に注力している。

 設備の稼働率は、作業員の熟練度が増すほど向上が見込める。例えば、共英の国内最大工場の山口事業所は、VKSよりも容量の小さい電気炉ながら、年間粗鋼生産量は同社を上回る約60万トン。VKSも「将来的にはスペック以上の生産量を達成したい」(同)考えだ。

直送圧延比率を日本並み9割に

 需要が急増する一方、既存ミルの設備増強や新規参入など、ベトナム国内における鉄筋の販売競争も激しさを増す。

 これを受けてVKSも競争力強化の取り組みを進めている。その一つが、3月中旬に稼働を始めた電磁攪拌装置の設置だ。同設備はビレットの品質を向上させるもので、これにより加熱工程を省略する直送圧延比率を高めることができる。現在の比率は約6割だが、これを日本並みの8~9割とするのが目標だ。

 VKSの圧延能力は年間およそ80万トン。一方、製鋼能力は50万トンで、ビレットの購入は今後も欠かせない。ただ、セーフガード措置により国内ビレット価格は高水準にあり、「電炉一貫メーカーとのコスト差が拡大している」という。

 「ベトナム南部で大量にビレットを購入するのは当社だけであり、購買力が生かせる」環境だが、「ビレット購入がコスト高につながるのは確か。なるべく製鋼量を増やしたい」とし、コスト競争力に関しても製鋼工程がフル稼働を続けられるかどうかがカギになっている。

カンボジアへ輸出拡大

 ベトナムは日本と違い、施主が使用する鉄筋を決める。そのため、VKSはPR活動等によって培った日本ブランド力を生かして、個人住宅向けの受注を増やしてきた。

 今後はこれに加え、販売先の多角化を進めるため、「公共・大型投資のローカルプロジェクトへの参画も目指す」方針だ。また、南部における商圏拡大のため、ホーチミン市から南に車で約4時間半の距離にあるカントー市に、在庫倉庫と事務所を昨年開設した。今後経済発展が期待できる都市で、ここでも拡販を進めている。

 輸出にも積極的に取り組んでいる。ターゲットとする国の一つはカンボジア。人口約1500万人のマーケットであり、昨年は同国に2万6千トン輸出した。今期はカンボジアを含め4万~5万トンの輸出を目指す方針で、ミャンマーや豪州などでも拡販を進めるため、豪州規格を取得する予定。

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