五輪準備ようやく 運営費負担合意

 2020年東京五輪・パラリンピックの県内会場の大会運営費について、県と横浜市は31日、連絡協議会の場で、東京都や大会組織委員会が負担する方向で合意した。黒岩祐治知事らが繰り返し訴えてきた「立候補ファイルの原理原則」に沿う形で、各自治体に求める警備や輸送なども「無償提供している通常の行政サービス」の範囲内と確認。混乱を来した費用負担問題はほぼ決着し、大会成功に向けた準備が神奈川でも本格化する。

 31日の連絡協議会で都が示した「役割(経費)分担に関する基本的な方向」によると、県内会場の大会運営費は都が負担する。

 セーリング競技が行われる江の島(藤沢市)では、大会期間中の漁業補償やヨットなどの移動費を想定。サッカー会場の横浜国際総合競技場(横浜市)と野球、ソフトボールの横浜スタジアム(同)では、プロ球団の試合休止に伴う営業補償や広告補償といった経費を見込んでいる。

 セーリング出場国の選手村・分村として利用予定の大磯プリンスホテル(大磯町)の賃借料は、組織委が負担する方向で一致。江の島会場での仮設整備費を含む総額は約80億円という。

 一方、都外自治体の負担とされた350億円については今後詳細を詰めるとしたが、黒岩知事は13年に都側が示した「保証書」の存在を指摘。警備や医療について「通常無償提供している行政サービスのみで、それ以外は都と組織委が責任をもって対応するので迷惑は掛けない」といった内容が明記されており、小池百合子都知事も了承した。

 協議会後、黒岩知事は「今回の合意はパーフェクトに近い。遅れていた準備に早急に取り組んでいきたい」と強調。横浜市の林文子市長は「前向きな結論でスタートラインに立てて本当に良かった」と述べた。■原点回帰で着地点 東京都、政府、大会組織委員会と開催自治体が合意し、原点回帰の形で着地点が見えた「五輪のカネ問題」。都の都政改革本部が突然打ち出したルール変更が火種となった騒動は、政局を絡めた駆け引きも見え隠れするなど混乱を極めた。会合直前まで続いた長期にわたる攻防はぎりぎりのタイミングで収束したが、難題は残されたままで、ハッピーエンドは見通せない。

 「なぜ、これほど時間がかかったのか。ミステリーでしかない」。31日のトップ会合終了後、黒岩祐治知事は“満額回答”に満面の笑みを浮かべながらも、回答を引き延ばしてきた小池百合子都知事への苦言を忘れなかった。

 混乱の発端は昨年9月、都政改革本部調査チームが報告書に明記した一文だった。「都外に立地するものは現地自治体と国が負担」。仮設施設整備費に関する立候補ファイルの原理原則を覆す提案に、開催自治体の首長は一斉に反発。同12月から「ルールの厳守」を求めるも明確な返事は得られず、5月に黒岩知事らが首相官邸へ直訴。「都議選を見据えた主導権争い」との臆測が飛び交う中、小池都知事から「都の全額負担」を引き出した。

 ただ、この表明も仮設整備費のみ。問題の大会運営費を巡る攻防が収束する気配はなく、各知事らは「報道先行で数字が独り歩きする」現状にいら立ちながら決着の日を待った。

 県によると、都が具体案を示したのは会合の6日前。しかし、再三訴えてきた「立候補ファイルの原理原則に基づき」という文言のほか、江の島会場で最大の焦点だった漁業補償やヨット移動費などに関する説明はなく、突き返した。

 要望通りの文言が入ったのは前日の30日。「営業補償」や「移動」という説明は、会合の席上で口頭で付け加えられた。350億円とされた都外の自治体負担額は、黒岩知事が4年前の「保証書」という切り札を持ち出して支出範囲の限定を念押しした。

 こじれた末に元の出発点に戻った費用負担問題。小池批判の急先鋒に立った黒岩知事は「大満足。五輪成功に全力を注ぐ」と力を込める。だが、営業補償の範囲や期間など、残された不安材料は少なくない。

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