〈現地レポート〉中国の鉄鋼事情(下)インフラ需要、財政出動で旺盛 車向け需要は本当に弱いのか?

 中国の鉄鋼実需はどうなのか―。

 「4月の中国の自動車販売が前年比マイナスになった」。そのことが象徴的だが、自動車向け需要が弱いと言われる。

 確かに中国汽車工業協会が公表している統計を見ると4月の自動車生産は前月比17・9%減、前年同月比1・9%減の213万8千台。販売は前月比18・1%減、前年同月比2・2%減の208万4千台。生産・販売ともに末端需要の弱まりで前月比が大幅減、前年同月比もそれぞれマイナスに転じている。

 これについて現地の鉄鋼商社幹部は「確かに数字だけを見れば弱いが、前年は自動車販売の軽減税率が年末で終わるとみられ、ディーラーが相当販売をあおった」とした上で「その結果が1年間で13・7%増加して2016年は年2803万台に。14年の増加率は6・9%、15年は4・7%で、16年の『13・7%増』は2年分の数字とも言える。今年がもし仮に16年と横ばい(年間で2800万台レベル)だとしても、低い水準とは言えない」と解説する。

 自動車メーカーごとのばらつきが大きいのも最近の特徴だ。日系のホンダが絶好調。日産やトヨタもまずまず。一方で、政治的な難しさに直面する韓国系(現代自動車・起亜自動車)やプジョーシトロエン(PSA)が振るわない。メーカーによる〝まだら模様〟が当面続く公算が大きい。

車販売は昨年の駆け込み反動で減速(写真は上海市内を走る自動車)

 自動車向け以外に目を転じると、やはりインフラ(建設)向け需要の強さが目に付く。政府が秋の5年に1度の共産党大会を見据えて、財政出動を活発化している。その規模は4兆元(約70兆円)とも言われる。業界筋の推測では、これによって1億トン程度の鋼材需要創出が見込めるという。数千万トン規模の需要が数年にわたって発現するとすれば、需要の下支え要因となる。加えて「一帯一路(ワンベルト・ワンロード)」政策による鉄道や治水・港湾などインフラ整備も進む。

 さらに習近平国家主席が打ち出した新都市計画も鋼材需要を生み出しそうだ。河北省に国家級新区として「雄安新区」をつくり、北京に集中している都市機能の移転を進めるという。

 新都市建設に当たり、2億~3億トンの鉄鋼需要が生まれるとの試算がある。中国ミル関係者に真偽のほどを尋ねると「都市が建設されるのは本当だと思う。鉄鋼需要がどれだけ生まれるかは分からないが、2億~3億トンの試算が正しいとすれば数年後から年2千万~3千万トンの需要が10年間ぐらい続く可能性がある」という。

 実現に首をかしげる向きもなくはないが「今回は習近平氏の肝いり事業であり、国務院だけでなく中国共産党中央委員会も批准している。必ずやるだろう。雄安がうまくいけば、政府は第2・第3の雄安をつくるだろう」(中国ミル幹部)とみている。

中国ミルは実質フル稼働/「輸出余力は限定的」

 一方で供給サイドは本連載の「上」でも書いたが、過剰能力削減が着実に進みつつある。

 昨16年初め時点での中国の鉄鋼生産能力は年11億3千万トンと言われた。昨年、すでに休止していたものを含めて6500万トンの能力削減があった一方で、新規に2千万トンの増加もあった。差し引き4500万トンの減少で、昨年末の能力は10億8500万トン程度とみられる。

 今年の過剰能力削減計画は5千万トンだが、このうち60%に当たる3千万トン削減が5月までに実施された。

 中国鉄鋼業界筋は「中国ミルの稼働は、高炉の定期修理や休風も考慮すると、実質的にはフル稼働に近いのではないか」と話す。輸出が前年比で減っているのは「採算が悪いというよりも、余力がないから。今後も輸出は当面増えないだろう」との見方が有力だ。

 中国ミル関係者は、今年の鉄鋼業界の動きを「特殊な年。1~3月、4~6月の鋼材価格の動きは例年とは逆。過去の経験則では読めなくなっている」と話す。

 「秋の共産党大会までは雇用に手を付けにくいかもしれないが、それまでに準備をして、秋以降は確実に(過剰設備廃棄やメーカーの再編統合が)進む」。宝鋼と武漢が統合した「宝武鋼鉄」をパイロットケースと位置付け、統合による課題や問題を洗い出していると言われる。そこからレッスン&ラーン(学習)し、党大会終了後の年末から来年にかけてさまざまな動きが加速しそうだ。(上海発=一柳朋紀)

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