祖母の手記を7年かけ映画化 向井理「情景見える作品に」

 横浜出身の俳優・向井理(35)が4日、自ら企画、出演した映画「いつまた、君と 〜何日君再来〜」(24日全国公開)のイベントに登壇した。映画は、戦中・戦後の困難な時代を生き抜いた自身の祖母・芦村朋子さんの手記を元に制作。向井は「僕の家族を残したいわけではなくて、あの時代を残したかった。大変な時代を乗り越えて、自分の親を産んで、いまの自分たちがある。たまには先人たちに思いをはせるのもいいんじゃないか」と語った。

 東京・汐留で開催されたイベントは、祖父の芦村吾郎さんが、辞世の句のような一句を朋子さんにのこしていたことから100人の俳句愛好家を招き、映画鑑賞後に、感想を俳句で表現し合うもの。向井自身が考案した。

 高浜虚子のひ孫に当たる俳人の星野高士(64)が品評を行った。号泣しながら見たという星野は「向ひ合ふ 千の谺(こだま)や 大夏野」と、向井の「向」と朋子役を演じた主演の尾野真千子(35)の「野」と、それぞれの名前の1字を入れた句を向井に贈った。

 7年をかけて映画化が実現した作品について向井は「この10年、20年でいろんなものが消えていっている。そういう時代、先人たちの苦労、悔しい思いを形として残していかないと。撮影は主に、愛知の常滑(とこなめ)で行いましたが、ロケ地を探すのも大変だった。場所がなくなるのと同時に、その人たちの思い出もなくなってしまう」と思いを込めた。

 脚本は、向井が出演したNHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」(2010年)でも脚本を手がけた山本むつみに、大学時代に自費出版した祖母の手記を手渡し、自ら依頼。家族の絆や困難があっても、寄り添い支え合う夫婦の深い愛が描かれている。

 向井は「愛しているとか、好きとか直接的な言葉がなくても、その情景が見えるような作品を作りたかった。背中しか映っていなくても、その背中を見てこちらが勝手に表情を想像するような。ちょっと回りくどいかもしれないけれど、それは日本映画の良さだと思うし、そういう映画が好き」と映画にかける熱い思いを吐露した。

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