<大ヒット盤> 水森かおり『早鞆ノ瀬戸』 こぼれてしまいそうな恋心を想わせる

水森かおり『早鞆ノ瀬戸』

 実は女性演歌ダントツの14年連続シングル総合TOP10入りを継続中の水森かおり。今回も、お決まりの失恋旅情演歌だが、歌の舞台に合わせた曲調や歌唱が印象的だ。

 表題曲は、既に“紅白”での巨大衣装(?)を意識したかのようなスケール感のある前奏や間奏のマイナー調の演歌。穏やかな前半から一変し、サビの「未練断ち切る」で絶唱する様子は、強い潮流を意識したのだろう。「涙で 涙で 涙で」の繰り返しも、こぼれてしまいそうな恋心を想起させる。

 カップリングの『宇和島 別れ波』は、温暖な気候を彷彿とさせる穏やかな曲調で、水森の歌声も何かが吹っ切れたようだ。随所に、滑らかな裏声や語るような歌声を自然に取り入れているのも見事。

 【タイプ B】のカップリング曲は『花の東京』で、音頭のリズムがゆったりとバス観光の気分になり、彼女の天性の明るさが映える。別れの悲しみに浸るのも、きっぱりと忘れるのも、海が頼りになることを本作が教えてくれるはず。

(徳間ジャパンコミュニケーションズ・タイプ A 1204円+税)=臼井孝

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