橋上駅へGO! 鉄姫のとほほ…旅

橋上駅にたたずむ姫

のどかな春の日の昼下がり、一人で列車に乗り込んだ。徳島と高知の県境を走る土讃線のワンマン列車内では、車窓を通り過ぎる満開の桜を眺めながら老夫婦が弁当を広げている。「行けば分かる」。先輩記者から聞いたのは下車する駅名だけ。その駅名がアナウンスされ、トンネルを抜けたところで停止した。橋の上!?

土佐北川駅。吉野川支流の穴内川に架かる鉄橋の上に、ホームはある。足元には、川底が見えるほどの澄んだ水が、日差しを浴びて光っている。「すごいだろ?」。待ち構えていた先輩が自慢げに近寄ってきた。そりゃ珍しいだろうけど、別にわざわざ来なくても・・・。

「もともと山際を走っとった土讃線は、土砂崩れで不通になることが多かったけん、コースを変えたんじゃ」

ホラ始まった。講釈。確かに、両岸の山が迫る場所に駅を確保するには、トンネルを出てすぐの鉄橋に造るしかないだろう。ハイハイ、分かりました。と、遠くから列車が近づく音。通過の瞬間、ごう音と不気味な揺れに襲われた。「橋上駅の醍醐味(だいごみ)じゃ」と先輩。無性に疲れる・・・。

何はともあれ、この駅に行くとの今回の任務、食べ物はなかったけれど楽勝♪ ニンマリしたとき、「よし、行くぞ!」。どこへ!?

連れて行かれたのは原っぱだった。「旧線跡じゃ」。先輩の声がウキウキしている。歩きにくい足元をよく見ると、生い茂る草の下に、線路の敷石のようなものが転がっている。どんどん歩く先輩。渋々ついていく私。「姫! そこに立て!」と突然の指令。トンネルだ。「トンネル跡を歩く機会はめったにない。写真を撮ってやる」

いや、別に歩きたいと思わんし、撮らんでも後悔せんし・・・。姫のつぶやきは、興奮した先輩の耳に届かない。ひとしきり写真を撮って満足した先輩は、さらに進む。もう帰りたい・・・。

「渡ってみるか?」と指さしたのは、旧線の鉄橋。薄いコンクリート板が張られたなんとも心もとない橋に、思わず「嫌です!」ときっぱり。ただならぬ気配に、先輩は「怒ったんか?」とオロオロし始めた。「もう帰る!」。一人で戻り始めると「分かった! 今日はこれで終わり!」。思いのほかあっさりと引き下がった。

旅の褒美は、山あいの喫茶店のカレー。でも最大の収穫は、本気で怒ると、先輩が弱気になると分かったこと。次からはイヤなものはイヤと声を大にして言おう! 姫は怒らせるとコワイのだ。(姫)                            (2010年春取材)

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