年2日しか営業しない駅 鉄姫のとほほ…旅

優しさが通じない大人もいる…

8月5日の香川県・多度津駅。照りつける朝日がジリジリと痛い。「今日行くんは、年に2日しか営業せん駅ぞ」。セミの声にウキウキした先輩の声が重なる。乗り換えの列車を待つ間も、不快指数うなぎ上りだ。

車内はベビーカーであふれていた。暑さと窮屈さにぐずる子どもを、パパやママが懸命にあやしている。突然、車窓の視界が開けて海が見えた。「津島ノ宮~」。停車のアナウンスに、どどっと席を立つパパやママ。目的の駅は同じらしい。

ドアが開くと、駅員が両手を広げて抱き上げようとする。え? ぽ・か・ん・・・。手を引っ込めた駅員が「大人は早く降りて!」。殺気立っている! 駅員は、子どもを抱きかかえ、次から次へと降ろしていたのだ。安全のために、ダイヤを乱さないために・・・。

すだれが立てかけられた平屋の駅舎は、砂浜のような場所に建ち、まるで海の家。駅舎横のあぜ道が駅前のメーンストリート? 通り抜けると縁日が広がっていた。「アイスクリンが食べたい」と姫。「後で」と先輩。さらに進むと、海上の小さな島へつながる、朱色の欄干の桟橋が見えた。

島には鳥居と社があるようだ。「駅名のもとになった津嶋神社の祭りじゃ」と先輩。神社は子どもの守り神で、8月4、5日は例大祭だという。渡橋料を払い、桟橋を歩く。潮の香りに不快指数がちょっと和らぐ。

鳥居の下には”空車“のベビーカーの列。社殿までの急な石段には、子どもの手を引いたり、抱きかかえたりして上るパパやママの波。社殿には、お守りを買い求める人、祈祷(きとう)する人、海を眺める人・・・。周囲わずか132メートルの小さな島は、あまりの人口密度で、人とすれ違うのも一苦労。早々に参拝して後にした。

さて、念願のアイスクリン!今回は笑顔の子どもたちに出会えて楽しかったし、先輩の分も買ってやろう。「2つ!」。屋台のお兄さんが用意してくれている間に、遮断機の警報音が聞こえてきた。「貨物列車が通過する!」。声を弾ませた先輩は、カメラを手に走っていってしまった。

ギラつく太陽に照らされて、解けたアイスが手を伝う。戻ってきた先輩、ベトベトの手を見て「さっさと食べたらよかったのに」。おいっ! 子どもの守り神を参拝して学んだ。「優しさが通じない大人もいる」。結局いつもの通り、帰りの列車に乗り込む姫のみけんにはシワ。あ~、不快指数が・・・!(姫)                 (2010年8月5日取材)

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