子も親も学べる場に 川崎・柿の実幼稚園が障害児積極受け入れ

 障害児や支援を必要とする子どもを積極的に受け入れている幼稚園として、川崎市麻生区上麻生の「柿の実幼稚園」が、全国の幼児教育関係者などから注目を集めている。重度の障害児を優先的に入園させ、車いすや難病の子どもも多く通う同園。今春には、人を大切にし、人の幸せを実現する行動を続けている会社などを表彰する「『日本でいちばん大切にしたい会社』大賞」(人を大切にする経営学会主催)の厚生労働大臣賞に選ばれた。

 「おはよう」。小島澄人園長(62)は毎朝、園の前に立ち、次々と登園してくる子どもたちに声を掛け、握手する。長年続く日課だが、笑顔で応える園児の中にはチューブを体に付けてバギーや車いすに乗る子どもの姿も。筋力が低下し呼吸障害のある難病の子どもや、心臓病、ダウン症、発達障害などさまざまな子どもが、市内だけではなく、横浜市、伊勢原市、都内からも通う。

 園児約千人のうち約200人は障害児や支援を必要とする子どもたち。通常の幼稚園の倍はいるという。特別クラスを設けず、健常児と同じクラス。クラスは非常勤も含め職員2、3人で担当し、看護師や介護福祉士も常駐させている。約200人いる職員の多くは卒園児の保護者で、感謝の気持ちが礎にある。

 小島園長が高校教諭を辞め、副園長として同園に入った37年前から障害児らの受け入れをスタート。口コミなどで徐々に増えた。「その頃は400人の定員で園児は350人しかいなかった。クラスの担当が複数いてきめ細かく面倒を見てくれると健常児を含めて希望者が増えた」と同園長。その後、園児が千数百人に上り、全国一の規模といわれた時期もあった。

 とりわけ重度の障害児の受け入れは、設備や人材、医療的ケアなどの面から断る幼稚園は多い。

 「子どもに24時間付きっきりでいるお母さんが4時間だけでもリフレッシュできたら」。そんな思いもあり、どこも引き取ってくれない子どもを優先的に入園させる。入園先を探して30カ所目に訪れ、その場で泣き崩れた母親もいた。

 小島園長は「子ども同士、親同士が学んでいる。集合写真を撮る際、病気で椅子に座れない子がいた。園児の一人が『僕たちも寝て撮ろう』と言い出し、みんなで寝転んで写真を撮った。皆、やんちゃだけど優しい」と目を細める。

 今春、同園を卒園した脳性まひの女児(7)の母親(37)は「他の園では『これができないと』と言われ、諦めざるを得なかった。ここでは『来てください。他の子たちも学ぶチャンスです』と言われ、気が楽になった」と振り返る。「バギーに乗せて通園していたけれど、園では自分の足で歩かせてくれ、他の子たちと一緒に遊具遊びや泥遊びもさせてくれた。大人では引き出せない成長を実感できた」と喜ぶ。

 全国の教育関係者や保護者から見学の申し込みや問い合わせが相次いでいる。賞の受賞もあってさらに注目を浴びる現状にも小島園長は冷静だ。「一つの園だけでは限界がある。受け入れる幼稚園や学校がもっと増えてくれれば」

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