「何でもかんでも死刑」に深い懸念…金正恩体制の人権侵害

韓国の政府系シンクタンク・統一研究院は8日、「北朝鮮人権白書2017」を発表した。同白書には、最近になって韓国入りした脱北者の中から、人口学的特性及び社会的背景を考慮して選ばれた196人のインタビュー内容が反映されている。また、調査は2016年に行われ、2012年~16年に起きた出来事を調査及び分析の主な対象としているという。

つまり、金正恩体制が誕生してから5年間に、北朝鮮で何が起きたかが記されているわけだ。

公開処刑も続く

白書の詳細な内容については今後、数回に分けて見ていくが、今回はまず概要を伝えることにしたい。

白書はまず、北朝鮮で依然として住民たちの生命権が十分に保証されていないとしながら、金正恩体制発足以後、高官に対する処刑が続いていることを指摘した。高官の処刑といえば、2015年4月に玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力部長(国防相)が正恩氏の怒りを買い、高射銃によって文字通り「ミンチ」にされ処刑されたことが記憶に新しい。

白書はまた、北朝鮮当局が覚せい剤の密造・密売などの薬物犯罪について死刑を含む重罰で臨んでいることにも懸念を表明している。国際人権規約(自由権規約)に沿って解釈すれば、こうした犯罪は、例外的に死刑が認められる「最も重い犯罪」には当たらないためだ。

実際、北朝鮮における薬物蔓延は、相当程度、国家の行いにその原因がある。また、小学生までが薬物に手を出す現状は、国家が十分な啓もう努力を行っていないことに由来していると見ることもできる。犯罪当事者にのみ重罰を科したところで、現状の根本的な改善は望めないだろう。

白書はさらに、北朝鮮当局が薬物犯罪以外でも、一般的な国ではとうてい重罪にならない行為までが重罪にされ、処刑が行われている現状について指摘。そうした事例、薬物犯罪を含む一部の犯罪において、公開処刑が行われたケースが複数、把握されたという。例えばある脱北者は「2014年8月に、公開裁判や公開処刑を見学せよという指示があった。約300人の住民が運動場に集まって処刑現場を見た」と証言している。こうした情報はデイリーNKにもたらされている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋によると、保衛相は昨年まで、韓流ドラマ・映画の視聴、脱北やそのほう助、不穏な言動をした者を公開裁判にかけて、一部を銃殺にしていた。

しかし、こうした「見せしめ」が逆効果を生み、金正恩氏に対する世論が悪化したことから、正恩氏は、公開処刑や人権侵害を禁じる命令を出したという内部情報もある。もちろん、公開していた処刑を、非公開にしたからといって、北朝鮮の人権状況が改善されたことにはならない。

果たして、北朝鮮の人権状況は具体的にどうなっているのか。次回から、白書で言及された事例を交えて見ていきたい。

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