中国産鉄スクラップ輸出開始、「地条鋼」全廃でスポット流入 日本の雑品スクラップが還流

「脅威は2030年以降の輸出本格化」

 中国産鉄スクラップの輸出が日本をはじめアジアの鉄スクラップ需給に変化を及ぼしている。中国政府が6月末までに「地条鋼」の生産を全廃する方針を決め、これまで輸入国だった中国からにわかにスクラップの輸出が始まった。地条鋼の生産量は年間5千万~8千万トンとされる。地条鋼の生産停止で行き場を失った鉄スクラップが一体どのくらい輸出されるのか。実態把握が難しくさまざまな憶測が飛び交うが、鉄リサイクリング・リサーチの林誠一社長は中国のスクラップ輸出は短期と長期の動きに分けて見るべきとする。

 中国産スクラップの輸出オファーは今年3月ごろから活発化したとされる。当初の輸出先はベトナムやインドネシアだったが、韓国や台湾にも広がり、日本では5月に東京製鉄が九州工場(北九州市)で1千トン弱の輸入を行った。韓国では現代製鉄や世亜べスチールが2万トン規模の輸入を成約したとみられ、東京製鉄九州工場には韓国産スクラップが〝玉突き〟的に輸入され、中国産のシュレッダーも今月中に数千トン規模で入着する。

 中国の海関統計(貿易統計)によると4月の鉄スクラップ輸出量はわずか1万5400トン。ただ、4月以降に契約が結ばれた輸出量を積み上げると足元の契約残は20万~30万トン規模との見方が有力。中国の統計の精度には疑問もあるが「5月の輸出は10万トン前後には増えるのでは」とみられている。

 中国政府は自国資源の確保を目的に鉄スクラップ輸出に40%の関税をかけている。消費税に当たる増値税17%を加えると税負担は57%に上る。通常なら採算が合わないはずだが、実際に輸出された鉄スクラップは「日本から輸出された雑品スクラップに含まれていた鉄の部分」という。配電盤や湯沸かし器、廃モーターなどの雑品スクラップから銅などの非鉄金属を取り除いた後に残る鉄の部分は回収コストが安く、重い税負担があっても輸出に回せたとの見立てだ。

 鉄リサイクリング・リサーチ(SRR)によると日本の雑品スクラップの輸出量は年170万トン前後と推定される。重量ベースで雑品の約6割が鉄としても中国の湾岸には相当量の輸出可能なスクラップがあるとみられ、「定常的な輸出が行われるか注視していく必要がある」(林社長)と警戒する。

 ただ、その一方でSRRは足元の中国産スクラップ輸出は地条鋼の生産停止に伴う「スポット的な輸出」とし、短期の動きと位置付ける。中国政府は鉄スクラップの国内使用を促進する方針。高炉メーカーも転炉での鉄スクラップ配合率を引き上げており、実際に宝鋼は配合率を従来の6%から12%に引き上げたもよう。SRRでは「仮に配合率を20%に引き上げれば足元の余剰分は吸収される」とみる。

 また、中国政府は350基あるとされるミニ高炉をCO2対策でアーク電炉へ置き換えており、こうした動きも短期的なスクラップ輸出を吸収する要因に挙げている。

 これに対し、本当の脅威となるのは2030年以降に見込まれる中国の本格的な輸出国への転換とする。中国廃鋼鉄応用協会によると15年末の中国の鉄鋼蓄積量は73億トン。新規増分の推移を見ると10~15年の5年間に33億トンと、73億トンの45%を占めている。鉄が使われる建物や自動車などの耐用年数から考え、こうした巨大な蓄積量の本格的なスクラップ化が始まるのが30年以降とみる。

 足元で輸出された中国産スクラップが日本の雑品から出た鉄である以上、まだ中国の鉄鋼蓄積はスクラップ化していない証拠とも言える。ただ、いずれ中国が本格的な輸出国になることが避けられない以上、短期的な輸出も日本の鉄スクラップ業界にとって警鐘として前向きに受け止めたい。(小堀 智矢)

地条鋼とは

 小型の誘導炉で鉄スクラップを溶解し、簡易な鋳型に流し込んで製造された条鋼形状の鉄筋棒鋼用の半製品。長さは1メートル、単重は8~14キログラムとされる。メーカーは中国国内に300社以上あり、生産能力は年8千万~1億1千万トンあるもよう。環境対策が不十分な設備で製造され、強度やじん性が劣ることが中央政府で問題視された。また、脱税の温床とも指摘される。

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