【「7月1日鉄スクラップの日」特集 第7回「国際鉄リサイクルフォーラム」】 アジア4カ国代表が講演

 日本鉄リサイクル工業会の国際ネットワーク委員会(委員長・安東元吉青南商事社長)は6月17日、都内のホテルで第7回「国際鉄リサイクルフォーラム」を開催し、全国から約350人が集まる盛況となった。

 今回は「新マーケットへのチャレンジ」をテーマとした。

 第一部の「東アジアから東南、南アジアの鉄スクラップ需給の現実」には、バングラデシュから初のゲストを迎え、中国や韓国の代表も合わせて各国の鉄スクラップ事情についての講演が行われた。

 また、第二部の「東南、南アジア輸出の経験と実際」では、輸出経験の豊富な日本の商社や鉄スクラップ業者の代表をゲストに迎え、遠国向けの輸出の苦労話などが紹介された。

中国廃鋼鉄応用協会/李樹斌常務副会長兼秘書長/中国の鉄スクラップ消費比率、20年までに20%に

 2011~16年の中国での鉄スクラップ平均消費比率は11・4%だった。中国政府は鉄スクラップの消費比率を2020年までに20%に引き上げることを目指している。さらに2025年までには30%にする計画だ。

 中国の粗鋼生産に占める鉄スクラップの消費比率が20%に高まれば、鉄スクラップ消費量は現在に比べ1億5千万トン増える。2020年末の中国の鉄鋼蓄積量は100億トンに達し、鉄スクラップの発生量は2億トンの見通し。政府は20年までに粗鋼生産能力を7億5千万トンまで落とす計画だが、消費比率が20%に引き上がれば市中スクラップの発生量を国内需要で吸収できる。

 中国の鉄スクラップ輸出に関しては個人的な意見だが、中国はスクラップの輸入国であり、今の輸出はあくまで一時的な動きと見ている。いずれ解消されて元に戻るだろう。その理由として、中国では鉄スクラップの利用率が世界平均に比べ低いことが挙げられる。また、品質の悪い地条鋼が淘汰され、品質の良い鋼材が流通する流れになっている。足元の輸出量は少なく、40%の輸出関税も維持されるだろう。

韓国鉄鋼協会/シン・グァン・ソプ氏(鉄スクラップ部門チーム長)/スクラップ自給率79%に上昇、輸入は減少傾向

 2017年の韓国での鉄スクラップ供給量は前年比0・9%増の2770万トンと見込まれる。粗鋼生産は前年比で減少が見込まれるが、鉄スクラップの代替となるビレット輸入も減少する見通し。このため、鉄スクラップ消費が小幅に増える見通しだ。鉄スクラップの調達に関しては輸入よりも国内産が優先される。その理由は、鉄鉱石の価格下落に加え、国内景気の不振によって鉄スクラップ価格が低位で推移することが挙げられる。

 韓国の鉄スクラップ自給率は16年が79%と次第に高まっている。鉄スクラップの輸入量は減少傾向にあるが、輸出は最近、月2万~3万トンと過去に比べて大幅増の水準となっている。自給率が高まるに従って、鉄スクラップ業者が徐々に輸出の販路を広げ、輸出先も増えていると言えるだろう。自給率の高まりはメーカー側にとって供給環境の改善につながる。異物混入などに対する管理は一段と厳しくなり、メーカーが要求するスクラップの品質も高くなるだろう。

 韓国のスクラップ業界の動きとしては、輸送車両へのGPSシステム導入や荷台カバーの設置が行われている。

鉄リサイクリング・リサーチ/林誠一社長/船の大型化とコンテナ輸出、16年が開始元年

 日本の鉄スクラップ輸出量は2016年が870万トンと過去2番目の高水準だった。過去最高だった09年は940万トンだが、当時の向け先は韓国が40%、中国が53%あり、両国向けが合計93%を占めた。16年の向け先はベトナム向けが23%と大きく増えたことが特徴だ。東南アジアより遠くへ輸出するには船の大型化、小口輸出の手段としてはコンテナ積みがある。2つの輸出方法に関して16年はその開始元年になったと思う。

 中国での大きな話題は地条鋼の問題だ。地条鋼は小型の誘導炉で製造される規格外の半製品であり、環境問題もあって中国政府が6月末の全廃を決めた。地条鋼メーカーが消費していた年5千万トン規模のスクラップの行き先が気がかりだが、この問題は短期と中長期で視点を分けて考えるべきだ。地条鋼の廃止で余剰スクラップが輸出されるのは事実だ。ただ短期的な動きであり、いずれ沈静化すると見るべきだろう。

 一方、本当の課題は現状で73億トンとされる中国国内の巨大な鉄鋼蓄積量がいつスクラップ化され、本格的な輸出国に転換するかだ。累計蓄積量の45%を占める2010~15年の新規増分の耐用年数を考えると、本格的な輸出は2030年以降と予測している。

BSRM(バングラデシュ)/イムティアツ・ウディン・チョウドリー購買部長/南アジア、経済成長でスクラップ消費が拡大

 BSRMはバングラデシュの製鋼メーカーで、粗鋼生産能力は年120万トン。

 南アジア各国のGDP成長率はここ数年4~8%と非常に安定している。経済成長を背景に鉄鋼消費も拡大しており、インドは2030年までに粗鋼生産能力を年3億トンに引き上げる計画だ。バングラデシュとパキスタンでも生産能力の増強が必要となり、2030年までに3カ国の生産能力は現状比で合計2億520万トンの追加が見込まれる。この生産能力の少なくとも半分は電気炉や誘導炉で構成される。このため2030年までに南アジアではさらに1億~1億1千万トンの鉄スクラップが必要となる予測だ。これは日本をはじめ東アジアの鉄スクラップ業者にとって非常に大きなポイントだろう。特にバングラデシュでは半製品に比べスクラップの輸入に15%の関税メリットがある点もポイントの一つに挙げられる。

 インドでは国内の鉄スクラップ産業の市場を2千億ドルに拡大させる予定だが、引き続きインドが鉄スクラップ輸入国であることは変わらない。また、バングラデシュとパキスタンは30年までに世界でも最大規模の鉄スクラップ輸入国になるだろう。従って、南アジアは将来、世界最大の輸入地域になると言えよう。

第2部「東南、南アジア輸出の経験と実際」で講演、ディスカッション

 第二部では三井物産金属資源本部製鋼原料部の萩原太郎冷鉄源室長とエコネコルの佐野文勝社長がそれぞれ講演を行った。

 萩原氏はバングラデシュのチッタゴン港に鉄スクラップを輸出した経験を写真とともに紹介。「数年来の悩みが滞船で、平均2週間は船が滞る」と語り、特に雨季の7~9月と冬場の11~2月に滞船が深刻化するとした。

 佐野氏はコンテナ積みによる日本の鉄スクラップ輸出が15年に30万トン超と「前年比で3倍に増えた」と指摘。増加の要因にはフレートの値下がりや新断輸出の減少、インフラの普及などを挙げた。

 マテックの小場泰知専務も加わったパネルディスカッションでは、東京五輪後の内需低迷で日本の輸出量は現状の年800万トンが、いずれ年1200万~1300万トンに増加し、東アジアの自給化も進んで日本からの輸出は遠国向けの重要性が増すと指摘。日本のスクラップに対する品質評価を含めて南アジアなどでの市場開拓や、大型船に対応可能な港湾整備など「今のうちに足場固めを進めておくことが必要」という課題認識を共有した。

© 株式会社鉄鋼新聞社