約56万人分の反対署名を文化庁に提出 音楽教室の著作権料徴収に「音楽教育を守る会」

 ヤマハ音楽振興会、河合楽器製作所などが結成した「音楽教育を守る会」は4日、日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室から著作権料の徴収方針を決めたことに対し、徴収に反対する55万7357人分の署名と、「要望および質問書」を文化庁に提出した。

 都内で会見した同会の三木渡会長は、「著作権等管理事業」を所管する文化庁に「JASRACの方針に反対している人が多いことを重く受け止めてほしい」と訴えた。対応した永山裕二長官官房審議官は「重く受け止め、審議していきたい」と答えたという。

 JASRACは2003年、音楽教室から楽器演奏に伴う著作権の使用料を徴収したい意向を示していたが、ヤマハなど事業者は「音楽教室における著作物の利用は、著作権法第22条に規定する演奏権はおよばない」と反論、話し合いは平行線が続いていた。しかし、社交ダンス以外のダンス教授所(15年4月)や、カラオケ教室などの歌謡教室(16年4月)から徴収を始めたことを理由に、ことし2月、音楽教室からも徴収する方針を決定。6月に使用料の規定について文化庁に届け出、来年1月から実施すると公表した。こうした動きを受け、音楽教育を守る会は249社で原告団を結成、6月20日にJASRACが著作権の請求権を持たないことを確認する訴訟を東京地裁に起こした。

 要望書では、規定変更について合意が成立していないことが明らかなのにJASRACからの届け出を受理した理由の開示を求めた。さらに、訴訟による司法判断が確定するまでは長官の裁定手続きを保留し、「変更使用料規定を実施できない旨の方針を広く発表してほしい」と要請している。■行政裁判も視野に 音楽教育を守る会は今後、6月20日に提訴した「請求権不存在確認訴訟の提起」を進めていく。

 一方、JASRACはこれまで事業者側に求めてきた協議について申し入れを行うことを公表している。しかし、JASRACが協議の場で求めているのは、著作権使用料の「徴収額」(現在は年間受講料収入の2・5%相当)についてで、徴収方針そのものは変わらないため、話し合いにはならず不調に終わるとみられる。

 守る会は文化庁に対し、司法判断が確定するまでは裁定の手続きを保留することを求めていくが、最終的な裁定を行う文化庁長官がJASRACの届け出を認め、2018年1月1日から使用料徴収が始まった場合、これを不服とする行政裁判を行うことも想定しているという。■「未来の音楽家減少」を懸念 現行の著作権法は1970年に制定された。立法の際には、「学校における音楽教育」と「社会における音楽教育」について議論があったと、守る会の弁護士で著作権問題に詳しい青木一男氏は言う。幼少期の音楽教育経験が演奏家や教師としての将来につながるとみた当時の議論では、学校だけでなく社会教育も含めて「演奏権」から外すことを決めたという。

 青木弁護士は「絵画や小説などは、触れたときに感動があり芸術的な価値があるが、音楽は『演奏者がいて初めて出現することができるもの』。教室で先生が生徒にお手本として聴かせたり、また生徒が先生に確認をするために演奏するのは、『聴かせること』が目的ではない」と指摘。

 「演奏をすることができる人を増やすことが目的の音楽教室から、著作権使用料を徴収することは、未来の音楽家を減少させることにつながる」と危惧した。

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