【東京製鉄「長期環境ビジョン」策定】〈西本利一社長に聞く〉鉄スクラップ消費、50年に1000万トンへ CO2排出原単位、毎年1%超削減

 東京製鉄は2050年に向けた長期環境ビジョン「Tokyo Steel EcoVision 2050」をこのほど策定し、理想とする「低炭素・循環型」社会を実現するため、電炉鋼材の普及拡大と鉄スクラップの国内循環を図っていく決意を改めて表明した。東鉄の長期目標として、生産量に相当する鉄スクラップ消費量を2030年に600万トン、50年には1千万トンに増やす考えも示した。温室効果ガスを2050年に80%削減するという日本政府の目標を達成するには、鉄鋼業においてCO2排出量が高炉材に比べ4分の1である電炉鋼材のシェア拡大が不可欠と主張する東鉄。なぜ今、長期ビジョンを策定したのか、その背景などを西本利一社長に聞いた。(小堀 智矢)

アジアでの原料価格は適正化へ

――長期ビジョン策定の背景は。

東京製鉄・西本社長

 「まず主張の内容はこれまでと変わっていない。当社はこれまで低CO2である電炉鋼材の優位性を東京都や環境省、取引先など広範囲に主張してきた。ただ、現状の説明だけでなく将来計画が求められることも多く、約半年前から具体的にビジョン策定を始めた。また、環境にやさしい企業をランク付けするCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の対象となるため長期ビジョンが必要だったことも契機となった」

――2015年12月に採択された「パリ協定」との関係は。

 「そこも関係はある。2050年が削減目標の一つのターゲットであり、元東大総長の小宮山宏氏などの著書『新ビジョン2050』で〝鉄鋼業の電炉化〟が提言されていることとも関係する」

 「同書では50年には世界の鉄鋼生産量を大きく上回る鉄スクラップが発生するとし、あらゆる鉄鋼製品を鉄スクラップから造ることでエネルギー消費量を削減。年間2億トンとCO2排出量が日本の産業界で最大の鉄鋼業のあるべき姿として、高炉材から電炉材へのシフトによって電炉の生産量を2倍の5千万トンに拡大することで、日本のCO2排出量の13%にあたる1億6千万トンを削減できるとしている」

――東鉄の粗鋼生産量(=鉄スクラップ消費量)を30年に600万トン、50年には1千万トンに増やす目標だ。16年度の220万トンから比べ大きな目標だが。

 「当社は過去に年産400万トンの実績がある。また、現状で当社の製鋼の生産能力は年600万トンある。30年の目標は稼働率を上げるだけで達成できる。年1千万トンの目標を達成するには、現状の設備では無理だが、能力を増やすには様々な選択肢がある」

 「具体的な生産能力増強のアイデアについては言及できないが、年産600万トンから更に400万トン増やすとすれば品種で言えば鋼板しかないだろう」

――東鉄は需要見合いの生産方針だが。

 「無理にシェア拡大を図るという考えではない。電炉鋼材の需要を拡大していくには、高炉とのコスト競争力や品質への評価を勝ち得ていく必要がある。ここが出来ない限り、無理に数量を増やそうとすれば経済合理性に反することになる」

 「現状の需要見合いの生産方針は、主原料である鉄スクラップ価格の上昇により電炉鋼材の競争力が失われていたことが最大の理由だ。品質面ではなく、コストの問題だ。ただ、地条鋼の全廃を背景に異常な高値だった中国の鉄スクラップ価格は適正化に向かい、アジアでの電炉のコスト競争力は必ず回復していく。ようやく時流があるべき姿に向かっていると感じる」

――製品ライフサイクル全体でのCO2削減目標として30年に40%減、50年に80減を掲げる。具体的には。

 「再生可能エネルギーなど非化石燃料を起源とする電力の拡大によって電炉のCO2排出量も減っていく。これに加え、自社の取り組みとしてCO2排出量原単位で毎年1%以上の削減を目指していく。これは省エネルギー投資を積極的に実施し、調達や輸送のプロセスを見直すことなどによって達成していく」

――電炉鋼のシェア拡大は東鉄1社ではできないのでは。

 「小宮山氏の提言通り電炉鋼の生産を現状プラス2500万トン増やすとすれば、すでに鋼板を生産する当社は1千万トンには増やしたい。残り1700万トンのうち、200万~300万トンは特殊鋼電炉が増やし、後は現在の高炉メーカーが電炉で増やすこともあるだろう。奇しくも高炉系の某電炉メーカートップが〝電炉が活躍すべき時期〟に来ていると言っていたが、これは言外に高炉の戦略を示唆したものだと感じた」

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