【MLB】稀代の強打者プホルスの活躍の裏に日本人の存在「彼との出会い大きかった」

同じ2001年に鮮烈なメジャーデビューを飾り、両リーグの新人王に輝きながら、今も第一線で存在感を放つ2人の偉大なプレーヤー。年の差はあるものの、エンゼルスのアルバート・プホルス内野手(37)とマーリンズのイチロー外野手(43)が長いキャリアを送れているのは、共に身体のケアに対する意識が高い点にありそうだ。

エンゼルスのアルバート・プホルス【写真:Getty Images】

イチローと同じ2001年にデビュー、600発打者プホルスの長いキャリアを支えるもの

 同じ2001年に鮮烈なメジャーデビューを飾り、両リーグの新人王に輝きながら、今も第一線で存在感を放つ2人の偉大なプレーヤー。年の差はあるものの、エンゼルスのアルバート・プホルス内野手(37)とマーリンズのイチロー外野手(43)が長いキャリアを送れているのは、共に身体のケアに対する意識が高い点にありそうだ。

 イチローが練習前のストレッチを含め、試合に向けての準備に長い時間を費やすことは、ご存じの通り。一方のプホルスも、誰よりも早く球場入りし、マッサージやストレッチ、入浴をしながら、試合に向けて身体を整えていく。プホルスは言う。

「レギュラーシーズンだけでも162試合。これだけ遠征が多いスケジュールの中、毎日身体を使っているんだから、怪我は付きもの。だけど、今ある身体の状態で最高のパフォーマンスを引き出す努力はできる。疲れて張った筋肉をほぐして、できるだけリラックスした身体を作るためにマッサージを受けるのも、その一環。セントルイスにいた頃から、身体のケアや準備は変わらないが、エンゼルスに来てヨウイチに出会えたことは大きかった」

 ヨウイチとは、エンゼルスでマッサージ・セラピストとして務める寺田庸一氏のことだ。2010年にメッツ入りした高橋尚成の通訳兼マッサージ師として渡米。2011年に高橋と共にエンゼルス入りし、その腕と人柄を買われて、現在もスタッフとしてチームに在籍する。

 プホルスが寺田氏に出会ったのは2012年。スプリングトレーニング中のある日、10年2億4000万ドル(約269億6400万円)という超大型契約を結んで移籍してきたスラッガーは、マッサージを受けてみることにした。

「ヨウイチは今まで出会ったことのないタイプだった」

「セントルイスにもマッサージ・セラピストはいたけど、ヨウイチは今まで出会ったことのないタイプだった。彼のスキルは素晴らしい。ほぐしてほしい場所に的確に働き掛けてくれるし、表面だけではなく深いところにも働き掛けてくれている。球場であれ、遠征先のホテルであれ、自宅であれ、必要とあらば、いつでも駆けつけてくれるのが、本当に助かっているんだ」

 稀代のスラッガーが絶大なる信頼を置く寺田氏は、「自分だけじゃなくて、スタッフ全員でサポートしているんですよ」と謙遜する。そんな寺田氏にとっても、プホルスと知り合えたことは財産の1つだ。

「怪我をしていても、彼には『試合に出ない』っていう選択肢はないんです。これだけ長いキャリアを送ってきて、さらにシーズン最中で、健康体であるわけないですから。疲れがある中で、どうやったら試合に出られるか。痛みを抱える中で、どうやったら最高のパフォーマンスを出せるか。プホルスが考えているのは、常にそこですね。だから、トレーナー陣としても、試合の前後に行うケアで、その手伝いをしているんです。

 プホルスの場合、身体のことをよく分かっているんですよ。身体に対する意識も高い。どの部分が張っているからほぐしてほしいとか、ここに痛みがあるんだけど和らげられないかとか。だから、こちらとしても、すごくやりやすいですね」

 今ではすっかり指名打者(DH)のイメージが強いが、一塁手としてもゴールドグラブ賞を2度受賞した名手でもある。寺田氏は「本当は一塁を守りたいみたいですよ」とこっそり教えてくれたが、不平も漏らさずDHを続けるには訳がある。ありきたりかもしれないが「チームの勝利のため」だ。

寺田氏が明かすプホルスの“凄さ”「ビックリするくらいチーム最優先」

「ビックリするくらいチーム最優先で考える選手ですね。DHに専念するのも、チームとして見た場合、その方が戦力アップにつながるから。600号を打っても、どれだけいい個人成績を残しても、それがチームの勝利につながるからうれしいだけであって、数字そのものには深いこだわりはないみたいです。そういうベテランがチームにいるのは、若い選手にとって幸せなことですよね」

 現地7月4日時点で、プホルスはメジャー通算2899安打で、3000安打まで101本に迫る。これまで600本塁打&3000安打を達成したのは、ハンク・アーロン(755本塁打、3771安打)、ウィリー・メイズ(660本塁打、3283安打)、アレックス・ロドリゲス(696本塁打、3115安打)の3人だけ。史上4人目の金字塔を射程内に捉えたプホルスは、笑みを浮かべながら「そうだね。近づいているね」と話したが、それすらもチームの勝利に付随する「おまけ」なのだろう。

 現在37歳。契約最終年となる2021年には41歳を迎える。その年が終わる頃には、史上4人目の700本塁打や、安打数は3500本を優に超えているはずだが、チームの勝利を最優先に戦う姿勢は変わらないのだろう。カージナルス時代には2度経験したワールドシリーズ優勝にエンゼルスを導けるのか。身体に万全のケアを施しながら、プホルスは今日もバットを振り続ける。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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