【台湾・大手電炉メーカー豊興鋼鉄の現状と展望】〈林明儒董事長に聞く〉大型投資で競争力向上 省エネなど環境対策に重点

――台湾における日本産鉄スクラップの輸入量について。

 「15~16年は80万~90万トンだったが、今年は1~3月で10万トンほどしかない」

豊興鋼鉄・林明儒董事長

――その理由は?

 「価格の影響が大きい。米国産はあまり変わらないが、日本産は大幅に上昇した。そのため、購買量が減っている」

――5月には中国(香港を除く)から1万6178トンの輸入があった。

 「3月は約1200トン、4月は約2600トンで急激に増えた。6月に中国大陸が輸出を規制するとの情報があり、輸入が増えたのは、その前に買っておこうということだ」

――今後、輸出は常態化しますか。

 「その可能性もあると考えていたが、大陸政府は鉄スクラップを資源のひとつとし、40%の輸出関税を課している。また、最近、中国の鉄スクラップ関係者に確認したが、やはり資源のひとつと考えており、今後は電炉の生産シェアが高まるという。ここ数年間は、40%の関税は変わらないだろう」

――関税が40%の間は購入するメリットはないですか。

 「2~3カ月前までは中国産が他に比べ10~20ドル安かったので、購入した。安価であれば、購入する。そうでなければ、日本や米国産を買うことになる。あくまでも価格次第だ」

――中国産ビレットの動向は?

 「15年は75万トンで、16年は87万トン。台湾における鉄鋼輸入量の約60%占めていた。しかし、今年1~3月は7万トンで、年換算で約28万トンにまで減少する見込みだ。その理由のひとつは、いわゆる『地条鋼』の規制で、ビレットの需給タイト感が強まった」

――これまで中国産の安価な合金ビレットが市場を乱していた。

 「台湾も単圧メーカーが大陸産ビレットを購入したため市場はひどく混乱した。減少したのは良い傾向だ。ただ、国内鉄筋市場は公共投資の減少に加え、高騰するマンションなどの不動産価格を政府が抑制しようとしているため、民間投資も減っている。こうした理由で鉄筋需要は昨年に比べ3割ほど減少している」

――16年12月期営業益は約23億台湾ドル(約87億円)。前年比で約4%増となった。

 「15年からの3カ年で、現在進行中の新鉄筋工場建設を含め約50億台湾ドルの設備投資を実施している。品質・コスト競争力の向上などが狙いだ。昨年販売量は約146万トンで、前年比で約4%減だが、こうした設備投資の効果により、顧客評価が高まり、高付加価値品の販売も増え、増益となった」

――今年1~5月は約13億台湾ドル(約50億円)で、前年同期比で3割以上増えている。

 「販売量が約62万トンとなり、前年同期比で約6%増えた。さらに販売単価も1万6630台湾ドル(約6万2千円)となり、2割近く上昇した。これらが主な要因になる」

――鉄鋼景気は良くなかったが…。

 「中国鋼鉄(CSC)を除く、国内電炉・単圧メーカーの稼働率は70%程度に止まる。こうした中、当社は設備増強に伴い、品質向上などのほか、高付加価値品の販売が増えた。不景気のときこそ、他社の差別化を積極的に進めたい」

――下期は?

 「中国における供給過剰が解消されつつあり、市場も安定している。景気は良くないが、中国からのビレット輸入がない分、少しずつ上向くとみている」

――輸出比率は?

 「10~15%で推移している」

――これから輸出比率は上昇しますか?

 「内需が増えれば、輸出は減る。その逆もある。そのパターンは、これからも変わらないだろう」

――新鉄筋工場のほか、棒鋼・線材工場のライン更新、新本社ビル建設など大型設備投資の進ちょく状況は。

 「順調に推移している。新本社ビルの建設は少し遅れているが、工場設備に関してはおおむね予定通りだ」

――海外投資は?

 「情報を集め、評価している最中。するかどうかはまだ決まっていない」

――このほかの投資案件はありますか。

 「還元スラグや工業用汚泥の処理および焼却炉に関する投資がある。さらに風力発電事業もこれから始める」

――鋼材生産量の上限が180万トンに制約されている。この規制は変わらないのか。

 「台湾政府は、環境対策から『鋼材生産量はこれ以上増やさない』と考えだ。もう変わらないだろう」

――キャパを広げるには海外に出るしかない?

 「海外に投資するしかないですね」

――今後の展望は?

 「今回の投資における狙いに、省エネ化やCO2削減などの環境対策も含まれている。これからも環境対策の投資は続ける。台湾政府は環境政策を進めているが、当社も風力発電事業を始める予定であり、その結果が良ければ、太陽光発電をするかどうかも考えたい」(台中=宇尾野宏之)

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