孤立集落 避難か、とどまるか   豪雨禍の大分・日田市 本紙記者ルポ

 停電による暗闇の中、屋根にたたきつける雨音だけが不気味に響く―。土砂崩れで市街地へ続く道が断絶され、身動きの取れない大分県日田市小野地区の住民は、我が家に被害が及ばないことをただ祈るしかなかった。九州北部を襲った豪雨災害の発生から、4日目を迎えた8日。いまだ孤立状態が解消されない地区に入った。

 水量を増して勢いよく流れる小野川沿いの県道には、「通行禁止」の看板。山中の道に入り、約100人が取り残された同地区殿町を目指した。

 小さなダムや人一人通れる程度のけもの道を分け入り上流に向かうと、対岸に茶色く削られた山肌が見えた。高さ数百メートルから崩れ落ちた土砂は、立派な蔵を構える農家も多い住宅地帯に押し寄せ、1階部分をえぐり取られた家屋も。泥土や倒木は川をせき止めて大きな水たまりを造り、さながら天然のダム湖のようになっていた。上流へと続く道路は寸断され、アスファルトの表面すら見えない。

 「ここを通って毎日中学校に行っていた。こんなことになるなんて」。2キロほど上流の殿町地区で暮らし、友人と土砂崩れ現場付近に様子を見に来ていた坂悠楓さん=中学3年=がぽつりと話した。5日は夜から断続的に停電し、6日朝には完全に電気が付かなくなった。「強い雨が5日の昼頃から深夜まで降り続き、雷も鳴ってすごく怖かった。電気は今朝やっと復旧したけれど、食料や生活用品は自衛隊の運搬頼み。いつ学校へ行けるようになるのか」と肩を落とす。

 「また降ってきた」。この日も断続的に雨脚が強まり、そのたび住民らは不安げに空を見上げた。

 住民の案内で、孤立する殿町地区に入った。食料確保や情報交換を目的に住民が集まる集会所の運動場には、自衛隊のヘリ着陸地を示す「H」の文字。母親を連れたパート従業員、田代恵子さんが、ふもとの避難所へ向かうためヘリの到着を待っていた。

 田代さんの自宅は、集会所からさらに上流にある。停電と断水の中3日間を過ごしたが、高血圧症を患う母のために救助を要請。自衛隊員に母親を背負ってもらい、橋が崩落した谷川に丸太を渡すなどして集会所に逃れてきたという。「母の薬も必要なので、避難を決めた。自宅に夫が残っているので、二次災害が起きないか本当に心配」と、うつむいた。

 一方で、あえて集落に残る人たちもいる。浸水した家の片付けや田畑の仕事、ペットの世話―。それぞれやむを得ない理由を抱えるが、生活物資や食料は潤沢にあるわけではない。携帯電話やインターネットももつながらず、不安な状況は続く。「今はこうやって集落内を車で動けているけれど、ガソリンがなくなればさあどうなるか。避難せざるを得なくなるかもしれない」。徒歩の記者を見かねて途中まで送り届けてくれた会社員、和田昭彦さんが、氾濫の影響ででこぼこになった道路を運転しながらつぶやいた。

 無情の雨は9日も、日田市に降る予報だ。

福岡・大分豪雨 本紙記者、現地写真ルポ

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