【全日本ロープ加工組合連合会 設立40周年】産業の命綱「ワイヤロープ」、企業の垣根超え需要創出へ

精緻な加工技術に磨き

 産業の命綱と言われるワイヤロープ。高品質な国内ワイヤロープおよびワイヤロープ加工はさまざまな分野での活用が期待される一方、市場ではバブル経済が崩壊後、国内向けの出荷量が漸減する厳しい状況に直面する。

 線材製品協会鋼索部会が公表する統計によると、現在と比較可能な1989年以降では、91年の13万6793トンをピークに前年を割り込む傾向で推移する。昨年には6万1345トンと、過去最低を更新するなど歯止めがかからない。

 今年も各地で厳しい状況が続く。関東は秋口以降に東京五輪・パラリンピックの開催を控え、直接および間接の建設工事が動きだすとみられるが、現時点では具体的な波及効果は出現していない。

ワイヤロープ加工に関するDVD

 中部では、名古屋市内を中心に駅前のビル建設が完了したことで建築向けは一段落し、トヨタ関連も横ばいにとどまる。関西は造船・建機・クレーン向けなど総じて荷動きが低調。中国地方は水産業向けが好調だが、造船やクレーン関連の引き合いが芳しくない。九州地区では造船関連の受注が堅調で福岡県の天神の再開発などが相次ぐなど、需要環境はまだら模様の様相を呈する。

 対照的に輸入量は増加の一途をたどる。97年に1万トンを超えたのを機に、加速度的に増加。2013年から15年にかけてからは3万トン台の高い水準を付ける。内需全体に占める輸入量の比率も30%を超える水準に上昇し、市場構造が転換する現状を浮き彫りにしている。

 耐久性のあるチェーンスリングや軽量なナイロンスリングなどの代替品の台頭も存在感が増す。近年では後継者問題や輸送費など諸コストの高騰が市場関係者にのしかかる。

 先行きの内需の行方が気掛かりなのに対し、ワイヤロープはすそ野の広さが特徴かつ強みの一つだ。鋼索部会が10の需要部門別にまとめた受注統計によると、2016年は機械向けの31・1%を最高に、土木建設(17・8%)と漁業(8・2%)、鉄鋼(問屋他を除く)(8・1%)が続いた。いずれも直近で大きな変動はなく、上位4分野が需要のけん引役を担う構図が鮮明になっている。

 会員各社にとって「量」と「収益」の確保は至上命題だ。多彩かつ精緻な加工技術によって代替品が踏み込めない領域も多く、企業の垣根を超えた取り組みにどう新たな活路を見いだすのか。生き残りに向けて、国土強靭化の方針に基づく土木建設の工事発注をはじめ、既存需要の掘り下げと新規需要の早期創出が待たれる。

赤澤孟会長(アベノ工業社長)に聞く/「安心・安全」の製品提供/高付加価値追求、技術伝承も

 全日本ロープ加工組合連合会(全加連)は6月、設立40周年の節目を迎えた。主にワイヤロープ加工の安全と技能の向上を目的に技能試験の実施などを取り行っている。全国で約200社(賛助会員含む)が加入する全加連の赤澤孟会長(アベノ工業社長)に、取り組みやワイヤロープ加工の展望などについて話を聞いた。

赤澤孟会長(アベノ工業社長)

――40周年の節目を迎え、全加連の会長としての心境は。

 「やっとここまで来たか、という思い。全加連の会員や支えていただいた方々に感謝したい。全加連はロープ加工の安全性推進と技能向上を目的に、1977年6月に設立した。設立当初、ワイヤロープ加工業者の認知度・地位は低く、まさに1番下からの出発だった。そのため、認知度・地位向上に向けて多くの取り組みを行った。会長になって10年目だが、さまざまな現場で10年前よりもロープ加工の認知度と社会的地位が高まっていると感じる」

――主要な取り組みは。

 「毎年2月に全国9カ所で国家検定のロープ加工技能士試験を実施している。試験受験者数は毎年100人ほどで、合格率は65~70%。その取り組みの一環として、ロープ技能士が手掛ける加工製品には、技能士登録番号などを記載した黄色のラベルの『技能士エフ』を付けて出荷することができる。これは海外製品との差別化にもつながり、ユーザーには安心してワイヤロープの加工品を使ってもらえる。これにより、ロープ加工技能士の社会的地位が向上する」

――そのほかの取り組みについては。

 「ワイヤロープ業界全体が盛り上がればよいと考え、全国鋼索商業連合会(全鋼連)主催で、6月2日をロープの日と定めた。そのほか、全鋼連や線材製品協会鋼索部会などと協業し、ポスター・バッチ・クリアファイル・ワイヤロープの加工DVD・荷重表の改定などさまざまな媒体でワイヤロープ加工をPRしている」

 「また、経費削減のため事務局を東京から会員社数の多い大阪に移し、部会費などの削減にも取り組んだ。今後も必要なものに投資し、全加連の認知度向上に寄与する。そのほかにも、安心・安全に向けた啓蒙活動を兼ねてワイヤロープ加工の技術伝承のための講習会などを実施している」

――ワイヤロープは産業の命綱と言われています。

 「ワイヤロープは造船・エレベーター・工場内クレーンなど多くの産業で活用されている。そこで重要となるのが、安心・安全だ。今年の4月にメーカーが実施した値上げもしっかり浸透させていかなければならないが、まずは安心・安全を前提とした加工製品をユーザーに提供することが大事。そのためにも加工精度を上げる必要がある」

――輸入材の動向も気になるところですが。

 「年々中国を筆頭に交差よりロープの輸入品の品質は向上している。中国・台湾・韓国からのワイヤロープの輸入品は日本国内需要の約3割を占める。しかし、平行よりロープなど高級ワイヤロープは日本製の方が品質はまだまだ上だ。加工業者として、高品質なワイヤロープで高品質な加工を施すことが今後も重要となる。また、ワイヤロープの需要が右肩上がりに増えることは難しいが、足元におけるワイヤロープの加工量は落ちていない」

――今後の全加連としての役割は。

 「設立の目的である、加工の安全性と技能の向上および習得を今後も追求する。技術だけではただの下請け。技能に裏付けされたワイヤロープ加工を広めていく。加工職人は年々減少傾向にあり、人材確保が課題の一つだ。人材を確保し、技能を身に付け、ロープ加工技能士試験の受験者数を増やしていきたい。今後は東京五輪関連の需要も出てくると考えている。付加価値の高い高品質なワイヤロープ加工を今後も目指しながら、全加連としての役割を遂行する」(綾部 翔悟)

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