【神戸製鋼の銅板事業戦略】〈平田誠二執行役員に聞く〉自動車向け新銅合金に注力 モバイル端末用放熱部材、新たな柱へ

 銅板条の需要は主力の自動車向け、半導体向けがともに旺盛で大手メーカーの生産は繁忙となっている。自動車関連の市場では先進運転技術の普及による電装化の加速などで、日本勢が得意とする高品位製品のさらなる需要拡大が期待される状況。その中で神戸製鋼所の銅板事業はどのような成長戦略を描くのか。アルミ・銅事業部門で銅板事業の指揮を執る平田誠二執行役員に聞いた。(古瀬 唯)

――まずは2016年度を振り返って。

神戸製鋼所・平田執行役員

 「自動車向けが中心の端子材については堅調な状況が続いていたが下期からはさらに受注が増え、新しいステージに入ったと感じている。自動運転技術などの関連で自動車への電子機器の搭載が増加し、端子の数が増えたことが貢献していると思う。半導体向けのリードフレーム材については中国での家電などの在庫調整を受けて減っていたが、昨年度は回復局面に入った。後半から長府製造所はフル操業に近い状況で、販売数量は1割ほど増え月間約4600トンとなった。薄物やめっき品が増えていることもあり、設備負荷は非常に高まっている」

――17年度の見通しについては。

 「端子材は昨年度下期の水準を若干上回るとみている。日系自動車会社の海外生産が伸びるので、アジアへの輸出などによる増加を期待している。リードフレーム材については足元の需要は旺盛だが市場の変化が激しい分野なので楽観はしない。ただパワー半導体向けやエッチングで製造するIC向けは一定の伸びを見込んでいる。販売量は月間5千トン弱が目標。この数量は現有能力で生産可能だ。ただ足元の旺盛な受注や今後の需要増への対応に向け、若干の増員による段取り替えの効率化など現有設備を前提とした生産増に取り組んでいる」

――設備投資による増産は行わないのか。

 「端子材は顧客である自動車用ハーネスメーカーが中期的に銅条の使用量を増やす計画なので、要求に応える準備が重要になる。またリードフレーム材では車載のパワー半導体向けやエッチングで製造するIC向けが増加している。その中で溶解鋳造やスリッタなどの増強投資も選択肢としては検討していく必要は感じている。ただリードフレーム材は採算が厳しい物がかなり多い状況。需要増だからといって、そのまま増産投資に踏み切ることは難しい。今は適正水準への値戻しをお願いしている所だ。現在の延長線上の製造能力で製品構成を変えていくか、増産投資をするかは需要動向や値戻しの状況などを含めて中期的に考える」

――リードフレーム材の値戻しの状況について伺いたい。

 「対象はIC用の一部とパワー半導体用の一部で、顧客には3月ごろから徐々にお願いをしている。これからも長期的に取引をさせていただきたいと考えているが、コスト分をカバーしつつ適正利潤を確保できる受注で生産キャパを埋めていかなければ事業継続は難しい。ご理解を得つつ、遅くとも上期末には陥没価格を是正したい」

――注力したい製品や市場については。

 「小型端子がさらにコンパクト化する中で、強度と成形性の両立など顧客ニーズを迅速に捉えた開発を進めていくことが重要。現在小型端子向けにはCAC60が幅広く使われているが、その先の合金を開発し提案していきたい。また自動車の電動化に対応し大電流を流せる合金にも注力する。ここでは耐熱性に優れるCAC18の普及を目指す」

 「リードフレーム材では引き続き我々の技術や品質力を生かせるエッチングで製造するIC向けや車載のパワー半導体向けに注力。また新分野としてはスマートフォンやタブレットなどモバイル端末に使う放熱部材の用途に期待している。端子材とリードフレーム材に次ぐ事業の新たな柱に育てたい。ここではリードフレームなどに使っているKLF170やスーパーKFCなどの合金を拡販する」

――放熱用途を新たな注力分野に位置付けた理由は。

 「放熱部材は高い熱伝導性など銅の素材力を存分に生かせる分野。今後モバイル機器では高機能化・薄型化がさらに進んでいく。高機能化で熱の発生が増える中で、薄型化にも対応できる放熱効率の高い素材が求められるはずだ。すでに放熱用途で実績があり、今後はさらに採用を広げたい。20年度までには月間100トン以上の水準に販売を増やし、その先ではさらに大きな事業にしていく」

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