【営業トップに聞く】〈新日鉄住金・佐伯康光副社長〉「今期5000円値上げ、マージン改善」 「再生産可能な価格実現」

――世界全体の鉄鋼需要動向から。

 「世界経済は緩やかな成長を続けており、総じて堅調に推移している。世界鉄鋼協会によれば世界鋼材消費は2016年、17年、18年と緩やかな増加が続く見通し。今17年は中国がほぼ横ばいながらアセアンやインドが増加して、前年より2千万トン増の15億3500万トンの見通しだ」

新日鉄住金・佐伯副社長

――中国の動向に注目が集まります。

 「6月の粗鋼生産は7323万トンと月間過去最高。統計の枠外だった違法な地条鋼の取り締まりが強化され、統計内の生産に切り替わっている面があるものの、好調な内需を反映している。地条鋼の取り締まり強化により特にロング系(条鋼)品種がタイト化している。流通在庫についても、ロング系に引き続きフラット(薄板)品種でも在庫調整が進展し適正化が進んでいる」

――国内需要は。

 「国内経済は全体として底堅い。自動車をはじめとして製造業の活動は堅調に推移している。これを受けて国内鋼材需要も堅調で、特に薄板・特殊鋼棒線はタイト感が強い」

――在庫動向について。

 「5月末の薄板3品在庫は408万トンと前の月より約20万トン増えた。これは例年の季節パターンの変動に加えて、工事関連での先づくりなど一過性要因で増加したものとみている」

――鋼材市況の動きや先の見通しをどうみていますか?

 「東アジア市場で影響の大きい中国の鋼材市況を見ると、4~5月にかけて一部品種での在庫増加や鉄鉱石価格下落の影響を受けて市況は軟化した。足元では好調な内需を背景に在庫調整が進展し、適正化が進みタイト化しており、市況も大きく上昇してきている」

 「アセアン市況も、中国ミルの値上げオファー等によって市況の底上げが図られつつあり、今後のさらなる市況上昇に期待したい」

――日本ミルの輸出環境はどうですか?

 「米国の動向を懸念を持って注視している。トランプ政権以前のものから含めて50件近いAD(アンチダンピング)措置を発動中だ。足元では通商拡大法232条に基づき、鉄鋼輸入が米国の国家安全保障に及ぼす影響について調査が進められている。当社としては、日本鉄鋼連盟を通じ、当該鋼材輸入が国家安全保障上の脅威には該当しない旨を訴えている」

 「日本から米国への輸出品は年200万トン。その製品は高級鋼等特殊なものも多く、米国内では調達できない、もしくは米国ミルからは十分な数量が確保できない製品と認識している。万が一措置が発動された場合、当社にも影響はあるが、そうした製品輸入の制限が需要家に多大な困難を強いることにもなりかねない」

――輸入材の動向は。

 「5月の鋼材輸入が49万トンと、韓国を中心に前の月より6万トン増えた。引き続き警戒が必要だ。特に入着価格に注目しており、価格の絶対値が依然低水準だ。一部税関への入着やHSコード別に精査した個別品種では、いまだに安値材の入着が散見され、モニタリングの強化が必要だ」

――そうした環境下で、今17年度の営業方針、課題について。

 「昨年度当社は営業赤字に陥っている中、再生産可能な適正マージンの実現に向け、価格改善が最大かつ喫緊の課題だ。今期は主原料価格要因とは別に、マージン改善のためのトン5千円程度の値上げを何としても実現したい」

 「国内需要は建築・土木分野では7~9月から下期にかけてオリンピック関連や首都圏再開発案件が動きだす見通し。また製造業分野も好調で、足元で薄板・特殊鋼棒線にタイト感があり、受注が増加している。こうした堅調な需要環境の下、品質・技術開発・グローバル供給体制、ソリューション提案力など、当社がお客様に提供し得る鋼材の価値を認めていただき、これを再生産可能とすべく、各品種・分野ごとのマージン改善に向けた追加値上げに理解いただけるよう真摯に取り組んでいきたい」

――原料炭価格がインデックス方式に変わることの影響については?

 「決着した原料コストやその他の要素も含めて交渉を行ってきたこれまでの手法に大きな変化はない。確かに原料コストが決着するタイミングが変わる可能性はあるが、交渉の手法・タイミングの微調整により対応し、基本的に影響はないと考えている」

「日新製鋼とのシナジー発揮」/国内外でプレゼンス拡大

――今年度は現行中期計画の最終年度。計画の進捗状況について。

 「顧客ニーズに対する材料・工法面からの総合提案や海外拠点活用などにより、総合力を駆使して国内外市場でのプレゼンスの維持拡大を図りたい。自動車、資源エネルギー、インフラ関連(鉄道・建築土木等)などの、需要増が期待される分野に注力していきたい」

 「海外では当社として第2のホームマーケットとして位置付けているアセアンで、高級鋼輸出と現地生産により伸びゆく需要を捕捉していきたい。加えて、需要の拡大が見込まれる中南米・中東・アフリカなど新興国では、熱延コイルの輸出などによって当社ポジションの確保を図っていきたい」

――国内外グループ会社の現況と課題を。

 「国内外の子会社の製品価格も、親会社(新日鉄住金)と一緒になって値上げしていく必要がある。大きな課題だ。海外の下工程生産能力は、子会社化した日新製鋼を合わせると2100万トンまで拡大した。収益面でも全社収益に貢献できる体制が整いつつある」

 「今年度は新たに、インドネシアでのクラカタウ社との合弁であるKNSS社と米国の冷間圧造用鋼線の事業会社(NSCI社)が立ち上がる予定。KNSS社は試運転を行っている。また18年にはタイのNSブルースコープ社で第3めっきラインの増設稼働を予定しており、建材用薄板のさらなる販売拡大に取り組んでいく」

――子会社化した日新製鋼とのシナジーは。

 「戦略を共有し、連携しながら両社の強み、独自性を生かしていくことで早期のシナジー最大化を図りたい。現時点では年200億円以上のシナジー効果を発揮していきたい」

 「個々のブランドをどうしていくかや、製造・販売面の具体的な連携については現時点で検討中だ。それぞれの会社の強みを生かし、お客様への価値向上の観点も踏まえて最適な方法を考えていく。営業・生産・物流面で最適な方向性を考えながら検討を進める」(一柳 朋紀)

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