GOODSMILE RACING & Team UKYOのスパ24時間挑戦は無念の結果に。『“痛い刺激”をもらった』

 ブランパンGTシリーズ/インターコンチネンタルGTチャレンジの一戦として7月29〜30日に決勝レースが開催されたトタル・スパ24時間。スーパーGT300クラスに参戦する強豪GOODSMILE RACING & Team UKYOは初めてのスパに挑んだが、残り13時間20分というところで不運なクラッシュを喫し、リタイアに終わっている。

 2008年にスーパーGTに“痛車”として初音ミク号が登場してから10年。その間GOODSMILE RACING & Team UKYOは2011年、14年とチャンピオンを獲得し、今季もランキング首位を争うなど、GT300のトップチームのひとつして数えられるまでに成長した。そして今季、10年目の節目の年にチームはGT3レースのなかでも最高峰であるスパ24時間に挑戦した。

 この挑戦には、メルセデスAMGが協力。イギリスのRAMレーシングがメンテナンスするマシンが用意され、チャンピオン経験コンビの谷口信輝と片岡龍也に、ル・マン24時間予選最速の男である小林可夢偉が加わるという陣容は非常に大きな注目を集めた。また、Tonyさんが描いた初音ミクに、桜と日の丸があしらわれたAMG GT3のカラーリングは現地でも多くの視線を浴びた。

 だがGT300トップチーム、そして元F1ドライバーの搭乗という下馬評の高さに反して、テストデーからチームは苦戦。アンダーステアが強く、クルマが思うように曲がらない。そして7月27日に行われたクオリファイでは、可夢偉がステアリングを握りアタックを行うも、オールージュで左リヤのサスペンションにトラブルが発生。姿勢を乱し激しくクラッシュしてしまい、リヤエンドを破損。決勝に向けて修復は不可能な状況に陥ってしまった。

■“2号機”で追い上げを展開するも……

 チームはAMG、そして大会主催者の協力を得ながら、「左側のドア以外を交換」しての決勝出場を決断する。急遽ドイツから、AMGドライビングアカデミー用の新たなAMG GT3が送られ、マットグレーに明るいグリーンのラインが入ったマシンに、ピンクのラインとチームやスポンサーのロゴを追加。そして唯一左側のドアに残ったレーシングミクとともに、チームはふたたび28日に行われた30分間のウォームアップから走行を重ねた。

 ドライバーたちによる“2号機”の印象は、クラッシュ前の“1号機”よりもポジティブなもの。マシンを確認したGOODSMILE RACING & Team UKYOは、29日16時30分からの決勝レースに挑んだ。

 迎えたレースでは、可夢偉がスタートドライバーを務め、片岡、谷口と2スティントずつこなしながら走行を重ねていった。可夢偉の1スティント中にシャシー/エンジン交換による120秒のペナルティストップを消化し、「プラクティスよりもよく走れて、コースも慣れてきた(片岡)」と快調に周回していく。ただ、「だんだん暗くなるころに乗ったんだけど、ヘッドライトの光軸がまったく合ってなくて。コーナーが近づいてからしかクリッピングが見えない(谷口)」とウォームアップの30分しか走れていない影響も出た。

 しかし、ライバルたちがトラブルに見舞われるなか、31〜32番手付近までポジションを上げていたGOODSMILE RACING & Team UKYOに、突如アクシデントが降りかかる。

 残り13時間20分というところで、片岡がドライブ中、バスストップシケインのブレーキングに差しかかったところ、ジョン・ベンターがドライブしていたWRTの3号車アウディR8 LMSが、バトル中に突如姿勢を乱し、コースのアウト側を走っていた片岡の00号車に激突したのだ。

「ブレーキングで目の前にクルマがバランス崩して飛んでくるなんて、想定もできないんですが……。インパクトも大きかったですね。バリアにぶつからずに済んだのは良かったですが、ほぼ最高速に近いところでぶつかっていて、ピットロードに入った瞬間に修復は厳しいだろうと思いました」と片岡は状況を語った。

 急遽ピットでリペアにかかるが、ダメージはやはり大きく修復は不可能。こうしてGOODSMILE RACING & Team UKYOのスパ24時間挑戦は、完走という目標に達しないまま終わった。

■ドライバーそれぞれが感想を語る

「応援していただいた皆さんにリタイアという結果を報告することになってしまい、申し訳ない気持ちです。予想できないシチュエーションで『これがスパなのかな』と思う部分もありますが、シリーズで参戦していないので、いろいろな流れやライバルの動きなど、見えない部分がありました」と片岡はレースを振り返った。

「明日になったら体も痛そうですが、(翌週のスーパーGT)富士に引きずらないようにしたいですね」

 そしてレーシングドライバーとして世界中で多くの経験を積んできた谷口にとっても、このスパ挑戦は大きな、そして新たな経験となったようだ。

「実際に走ってみて、本当に危険がいっぱいあるレースだなと。サーキットのレイアウトがまず刺激的でガンガンいかなければいけないし、出ているドライバーたちも、スプリントのように走っている。それにメーカーもこのレースに懸けている思いが違う。スパで勝つことへの思いは、僕が今まで見たなかでも感じたことがないレベルだった」と谷口は言う。

「ゴールできなかったのは残念だけど、ものすごくいい経験ができた。日本とヨーロッパでのレースに対する考え方の違いも感じることができたし、レベルの高さも“世界基準”も感じることができた。それはドライビングもそうだし、クルマの煮詰めの部分も」

「僕たちよりも速い人たちがたくさんいて、それはとてもありがたいこと。彼らから吸収することができれば、僕たちはもっと速くなれる。その意味では『痛い刺激』をもらいましたね。今回このチャンスをいただいたこのチーム、安藝代表には感謝したいです」

■代表、監督、それぞれの反省点。そして来季は……!?

 一方、チームを率いていた片山右京監督は、自らル・マン等で多くの経験をもっているが、「仕方がないとは思うんです。前の2台がやり合っていて、その1台が飛んできてしまって」とクラッシュを振り返った。

「でも厳しい言い方をすれば、24時間レースだからこそ、“勇気をもって守る”ことが大事なときもある。『好事魔多し』じゃないけど、いいペースで走っているときにそういうことがあったりするから。ホントは(監督の自分が)もっと口を挟むべきで、ペースが良くなってきていたときに、もっときびしく言うべきことを言うべきだったのが僕の仕事だったのかもしれない」

「何よりいちばん言わなければならないのは、眠い目をこすって応援してくれた人たちに、申し訳ありませんでしたということです。応援ありがとうございました」

 そして、GOODSMILE RACING & Team UKYO代表として、これまでもスーパーGTで数多くの話題を提供してくれた安藝貴範代表に今回のチャレンジを振り返ってもらおう。安藝代表にとって、今回のスパ24時間挑戦はどんなものだったのだろうか。

「ちょっと背伸びしたチャレンジだったとは思いますが、ドライバー、AMGとみんなに頼りながらレースを進めてきました。なんとか完走までもっていけるのではないかと思っていたんですが……」と安藝代表。

「どうレースをマネージメントするかという部分の経験不足というか、世界トップクラスの24時間レースで丁々発止やっている人たちとのコミュニケーションをもっと積み上げないといけないのはありますね。『ヤバいところに来ちゃったな』というのは途中からうすうす感じていましたが、そのとおりでした」

「日本のスーパーGTとは違う、こういう世界があるんだな、というのは感じました。でも、自分たちのレースと変わらない部分もあって、そこは通用する部分も感じたりとか。もう少し上にいけたと思いつつ、入口としてはだいぶ“激辛”な入口でしたね(苦笑)。世界で戦っている人たちのところに手を引っかけたという意味ではいい経験ができたし、有意義なことだったと思う。でも、残念ですね。完走した感動を得られていないから」

 多くの話題を残したとはいえ、GOODSMILE RACING & Team UKYOの挑戦が厳しいものになったのは事実だ。このまま“世界への挑戦”は幕を閉じてしまうのだろうか?

「トップを争えるような体制を作って戦うのが正しい戦い方なのかな。20〜30番手を争うレースをするなら別の戦い方があって、でもそれも今回は整っていなかった。もっとよく研究して挑まないといけないです」

「また体制作れるといいですね。ちょっと考えなければいけないです。応援ありがとうございました」

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