タイに流入する脱北者、増加傾向に

タイに流入する脱北者の数が増加傾向にある。

ロイター通信は2日、タイ移民局のデータを引用し、昨年1年間にタイに到着した脱北者は535人だったが、今年は上半期だけで385人に達したと報じた。匿名を要求したタイ移民局の当局者は、タイの北部だけで毎週平均して2〜30人に脱北者がやって来ると語った。

ちなみに、タイ入国管理局のナタトーン局長は昨年1月、タイの英字紙「バンコク・ポスト」とのインタビューで、1年間に流入する脱北者の数は2000人前後に上ると述べている。タイ政府は2011年以降、流入した脱北者の数を公式発表していないため、2つの数字の乖離がいかにして生じたかは不明だ。

ロイター通信は、タイに入国する脱北者の増加は、核実験、ミサイル発射実験を巡り朝鮮半島情勢が緊張していることと関係していると見ている。

果たして、本当にそうだろうか。

タイに流入する脱北者が、必ずしも北朝鮮から直接やって来たとは限らない。中国には数万人とも数十万人とも言われる脱北者が潜伏しており、彼らがミャンマーやラオスを通じてタイに入るルートが存在するからだ。

北朝鮮当局は、脱北を防ぐために国境の警備を強化しているため、脱北のハードルが非常に上がったと伝えられている。中国当局は同時に、国内にいる脱北者に対する取り締まりを強化している。つまり、数ヶ月から数年前に脱北して中国に潜伏していた脱北者が、タイに逃げているのが自然であると思われる。

ラオスでは強制送還も

難民条約(難民の地位に関する条約)に加盟していないタイは、流入してきた脱北者を難民として認めず、不法越境者、不法滞在者として逮捕している。しかし、北朝鮮に送り返すことはせず、国外追放の形で韓国や米国などに送り出している。

タイはこのように、脱北者に対する明確な態度を示していないが、その一因として考えられるのは、すでに国内に多くの難民を含めむ外国人を抱え込んでいるということだ。人口が約6900万人(2016年)のタイは、1980年代から10万人を超えるミャンマー難民を受け入れており、合法非合法を問わず在住外国人の数は500万人を超えている。

また、東南アジアの交通の要衝であることから、世界各国から難民や不法移民が流入しやすい状況にある。もし、公式な難民認定を行えば、その数がいっそう増加しかねないと恐れているようだ。

だからといって、強制送還すれば国際社会からの批判は避けられない。

それが、脱北者に対する消極的な受け入れ姿勢につながっているようだ。

一方の隣国のラオスは2013年、自国に密入国した脱北青少年9人を逮捕し、北朝鮮に強制送還した。しかし、それ以降は同様の事態は発生しておらず、今に至るまで脱北者全体の7割以上(韓国統一省調べ)がラオスを移動ルートとして利用している。

© デイリーNKジャパン