【新社長インタビュー 住友電工・井上治氏】非自動車分野も収益拡大 環境関連新事業など注力

――まずは就任の抱負から。

 「ワイヤハーネスを中心とする自動車関連事業は需要が伸びる中で順調に拡大し、現在全体の営業利益のうち6割以上を占めている。自動車関連事業への依存度が高い事業構成が一つの課題なので、2018年度からの次期5カ年中期計画で、他の事業も伸ばして経営基盤をさらに確固たるものにしたい。自動車関連以外の事業部門で稼ぐ営業利益を全体の5割以上にできればと考えている。全国の事業拠点を回る中で元気な工場も多いと感じており、他の事業本部もさらに成長できると思っている。売上高については個人的には年間5%程度は伸ばしたい」

――今後伸びが期待できる事業については。

住友電工・井上治氏

 「これからの5年間ではレドックスフロー蓄電池や集光型太陽電池、水処理製品など環境に貢献できる新事業に期待している。当社のレドックスフロー蓄電池は安全で大容量。発電した電力を一度貯めて使えば需給を適切に調整できるほか、太陽光や風力など再生可能エネルギーの安定供給にも貢献できる。今後はさまざまなプロジェクトで使ってもらえるようコストダウンに力を入れたい。またハイブリッド自動車や電気自動車が増える中で、駆動用モーターに使う平角巻線にもチャンスがあるだろう。ここでは将来的な顧客の海外展開に合わせて中国や北米などでの生産も考える。自動車の需要地でしっかり供給できる体制を作らなければならない」

――電力ケーブル事業も拡大を目指していますが。

 「現在海底電力ケーブルの設備投資を実施しており、17年内には完了する。世界的に製造可能なメーカーが少ない直流の高圧海底ケーブルをキー製品として、原子力からの切り替えなどで風力発電のプロジェクトが多い欧州市場で事業を伸ばしていきたい。また島の多い東南アジア地域も期待できる市場。ここでは韓国勢が台頭しているが、我々への見積もり依頼が増えてきた。東南アジアでも増強した新設備を武器に競争力を発揮できればと思っている。国内市場については更新需要が出てくればしっかり対応していく」

――エレクトロニクス関連事業での損益改善や情報通信関連事業での成長戦略については。

 「エレクトロニクス関連では技術的な問題から、FPC事業で生産立ち上げが遅れ16年度は大幅な赤字を計上した。今年度は赤字の解消が目標となる。生産性向上やコスト削減が進み、損益は着実に改善してきた。来年度からは、微細な回路を形成した新製品をさまざまな顧客に提案しながら収益をさらに高めていきたい。情報通信関連では中国や米国で光ファイバのニーズが旺盛。現在は世界的に光母材の設備能力がネックで需給がひっ迫しており、当社もフル生産だ。今後についは需要を見極めながら対応を考えなければならない」

――ボリュームゾーンの建設用電線についてはいかがですか。

 「建設用電線は内需が中心で競争が激しい。その中で電線業界が厳しい立場に置かれている商慣習を是正していくことが非常に重要になるだろう。ここは経産省にもバックアップしていただいている。銅ベースに関する契約の順守や特殊配送の有償化などについて我々サプライヤーも意識を持って取り組み、事業を継続できるだけの収益を確保することが大切だ」

――自動車関連事業では、どのような方策を。

 「他事業との関係で比率は小さくなるが、あくまで自動車関連事業も成長させる。これからは自動車の電動化を受け、高圧ハーネスに期待ができる。また、自動運転技術が進歩することで、車が情報通信ネットワークとつながることも大きな変化だ。その中で交通状況をモニタリングするシステムや車内で情報を高速伝送する技術、ハーネスや電子部品などの幅広い製品群を武器に、総合的な提案を進めて事業を拡大させる。また、ハーネスについてはアルミ化が進むので、接点を高い信頼性で防食できるノウハウを生かして、需要を着実に取り込んでいきたい」(古瀬 唯)

プロフィール

 自動車関連の事業が長く、海外経験も豊富。米国やインドネシアなどで子会社の立て直しに尽力。さらに06年にフォルクスワーゲンから買収したドイツのハーネスメーカー、スミトモエレクトリック・ボードネッツェ社の再建にも取り組み顧客との交渉や構造改革を進め収益を改善させた。

略歴

 井上 治氏(いのうえ・おさむ)1975年(昭50)九州大経済学部卒、住友電工入社。2001年自動車部長、04年執行役員、08年常務取締役自動車事業本部長、12年自動車事業本部副本部長、住友電装社長などを経て、17年6月から住友電工社長。福岡県出身、64歳。

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