過去20年受賞者と徹底比較 豊作イヤーの新人王は源田&京田? それとも…

オールスターブレイクを経てシーズンは後半戦に突入した。ペナントレースの行方とともに予断を許さないのが個人成績とタイトル争いで、アウォード受賞の候補者も徐々に絞られてきている。今季のこれまでの戦いを振り返ると、ルーキーの活躍が目立つ。多くのトピックを提供する彼らの誰が新人王に輝くのかも、終盤戦で見逃すことはできないポイントだ。(※成績は全て8月9日終了時のもの)

西武・源田壮亮【写真:(C)PLM】

両リーグ揃ってルーキーの活躍が目立つ2017シーズン、早くも気になる新人王の行方

 オールスターブレイクを経てシーズンは後半戦に突入した。ペナントレースの行方とともに予断を許さないのが個人成績とタイトル争いで、アウォード受賞の候補者も徐々に絞られてきている。今季のこれまでの戦いを振り返ると、ルーキーの活躍が目立つ。多くのトピックを提供する彼らの誰が新人王に輝くのかも、終盤戦で見逃すことはできないポイントだ。(※成績は全て8月9日終了時のもの)

 パ・リーグ新人王レース最大のインパクトにしてサプライズは源田(埼玉西武)の台頭だろう。開幕前から評価を集めたショートの守備での貢献度は群を抜き、課題とされていた打撃でも打率.274と及第点で、長打率.359、出塁率.328でもリーグ平均とほぼ変わらない数値を維持している。球団新人記録を更新するリーグトップの28盗塁を含めた総合的な攻撃力は水準以上と言えるし、2番打者に定着して17犠打も決めるなど、強力打線の中でしっかりと与えられた役割を果たしてきた。

 1年目にしてオールスター初選出を果たした、オリックスの2016年ドラフト1&2位コンビの献身も見逃せない。山岡は4勝7敗と援護に恵まれず黒星が先行しているが、前半戦の防御率2.54はリーグ5位と堂々の成績だった。セットアッパーに定着した黒木はリーグ3位タイの28HPをマークするなどタイトルも狙える位置にいて、後半戦の頭には抑えを任されるほどの信頼をつかみ取っている。

 そして、5月末から先発に定着し、縦に大きく曲がるカーブを武器に奪三振と白星を順調に積み重ねる石川(福岡ソフトバンク)も名乗りを挙げている状況だ。

 他方、セ・リーグに目を向けると、京田(中日)もルーキーながら内野の要であるショートのポジションを勝ち取った。打率.284は両リーグの150打席以上の遊撃手12人中4位で、長打率.367と出塁率.314はリーグ平均をやや下回るが、6月からはリードオフに定着してリーグ2位の19盗塁も決めている。1998年の川上氏の受賞以来、12球団では最も遠ざかっているチームだけに、新人王の誉れを持ち帰りたいところだ。

 その投球フォームと同様、勢いを見せていたのが濱口(横浜DeNA)だ。前半戦はチーム最多の6勝を挙げ、規定投球回にはわずかに届かずも、防御率3.16の安定感を見せた。奪三振率は10.29とハイレベル。先発投手で9イニングスあたりの三振数が10を超えていたのは、両リーグでも他に則本(楽天)しかいなかった。

 柳(中日)と星(東京ヤクルト)はブルペンからのシーズンスタートだったが、現在は先発ローテーションの一角を担い、後半戦の成績次第ではダークホースにもなれそうだ。

 シーズンを通じての成績が考慮される新人王を受賞するには、もちろん前半戦である程度の数字を残しておく必要がある。それでは、前半戦終了時点でどの程度の成績が求められるのだろうか。1997年以降の過去20年で、最優秀新人に選ばれた39人が残した数字を振り返る。

過去20年の受賞者の前半戦成績、シーズン成績は…

※所属は当時で、成績の後の()はシーズン通算成績

【1997年以降のパ・リーグ新人王前半戦成績】

1997年 小坂誠内野手(ロッテ)
打率.276、0本塁打、15打点、30盗塁
(打率.261、1本塁打、30打点、56盗塁)

1998年 小関竜也外野手(西武)
打率.291、1本塁打、12打点、6盗塁
(打率.283、3本塁打、24打点、15盗塁)

1999年 松坂大輔投手(西武)
9勝4敗、116回、防御率2.48
(16勝5敗、180回、防御率2.60)

2000年 該当者なし

2001年 大久保勝信投手(オリックス)
28試合、3S、防御率1.96
(53試合、14S、防御率2.68)

2002年 正田樹投手(日本ハム)
2勝4敗、62回1/3、防御率2.89
(9勝11敗 156.2回 防御率3.45)

2003年 和田毅投手(福岡ダイエー)
9勝3敗、112回1/3、防御率2.72
(14勝5敗、189回、防御率3.38)

2004年 三瀬幸司投手(福岡ダイエー)
33試合、15S 、防御率2.66
(55試合、28S、防御率3.06)

2005年 久保康友投手(千葉ロッテ)
8勝1敗、80回1/3、防御率2.35
(10勝3敗、121回2/3、防御率3.40)

2006年 八木智哉投手(北海道日本ハム)
8勝4敗、107回2/3、防御率2.52
(12勝8敗、170回2/3、防御率2.48)

2007年 田中将大投手(楽天)
7勝4敗、106回1/3、防御率3.81
(11勝7敗、186回1/3、防御率3.82)

2008年 小松聖投手(オリックス)
7勝3敗、107回、防御率2.69
(15勝3敗、172回1/3、防御率2.51)

2009年 摂津正投手(福岡ソフトバンク)
42試合、0S、26HP、防御率1.97
(70試合、0S、39HP、防御率1.47)

2010年 榊原諒投手(北海道日本ハム)
17試合、0S、6HP、防御率2.27
(39試合、0S、16HP、防御率2.63)

2011年 牧田和久投手(埼玉西武)
17試合、3S、0HP、防御率2.62
(55試合、22S、4HP、防御率2.61)

2012年 益田直也投手(千葉ロッテ)
42試合、0S、25HP、防御率2.36
(72試合、1S、43HP、防御率1.67)

2013年 則本昂大投手(楽天)
8勝6敗、107回2/3、防御率3.26
(15勝8敗、170回、防御率3.34)

2014年 石川歩投手(千葉ロッテ)
6勝4敗、100回、防御率2.88
(10勝8敗、160回、防御率3.43)

2015年 有原航平投手(北海道日本ハム)
4勝3敗、41回、防御率5.93
(8勝6敗、103回1/3、防御率4.79)

2016年 高梨裕稔投手(北海道日本ハム)
5勝2敗、49回2/3、防御率1.63
(10勝2敗、109回2/3、防御率2.38)

【1997年以降のセ・リーグ新人王】

1997年 澤崎俊和投手(広島)
7勝3敗、84回2/3、防御率3.83
(12勝8敗、156回1/3、防御率3.74)

1998年 川上憲伸氏投手(中日)
8勝3敗、87回2/3、防御率2.46
(14勝6敗、161回1/3、防御率2.57)

1999年 上原浩治投手(巨人)
12勝3敗、119回2/3、防御率1.81
(20勝4敗、197回2/3、防御率2.09)

2000年 金城龍彦外野手(横浜)
打率.392、2本塁打、17打点、1盗塁
(打率.346、3本塁打、36打点、8盗塁)

2001年 赤星憲広外野手(阪神)
打率.355、0本塁打、17打点、1盗塁
(打率.292、1本塁打、23打点、39盗塁)

2002年 石川雅規投手(ヤクルト)
5勝5敗、77回1/3、防御率3.72
(12勝9敗、178回1/3、防御率3.33)

2003年 木佐貫洋投手(巨人)
5勝3敗、100回、防御率2.79
(10勝7敗、175回、防御率3.34)

2004年 川島亮投手(ヤクルト)
5勝3敗、91回1/3、防御率3.55
(10勝4敗、139回1/3、防御率3.17)

2005年 青木宣親外野手(ヤクルト)
打率.328、1本塁打、15打点、21盗塁
(打率.344、3本塁打、28打点、29盗塁)

2006年 梵英心内野手(広島)
打率.283、5本塁打、23打点、6盗塁
(打率.289、8本塁打、36打点、13盗塁)

2007年 上園啓史投手(阪神)
2勝2敗、30回、防御率3.00
(8勝5敗、85回2/3、防御率2.42)

2008年 山口鉄也投手(巨人)
43試合、1S、19HP、防御率2.31
(67試合、2S、34HP、防御率2.32)

2009年 松本哲也外野手(巨人)
打率.328、1本塁打、15打点、21盗塁
(打率.293、0本塁打、15打点、16盗塁)

2010年 長野久義外野手(巨人)
打率.292、15本塁打、40打点、11盗塁
(打率.288、19本塁打、52打点、12盗塁)

2011年 澤村拓一投手(巨人)
5勝7敗、105回1/3、防御率2.22
(11勝11敗、200回、防御率2.03)

2012年 野村祐輔投手(広島)
7勝3敗、102回、防御率1.41
(9勝11敗、172回2/3、防御率1.98)

2013年 小川泰弘投手(東京ヤクルト)
10勝2敗、99回2/3、防御率2.62
(16勝4敗、178回、防御率2.93)

2014年 大瀬良大地投手(広島)
6勝4敗、88回、防御率4.19
(10勝8敗、151回、防御率4.05)

2015年 山崎康晃投手(横浜DeNA)
39試合、24S、8HP、防御率1.67
(58試合、37S、9HP、防御率1.92)

2016年、高山俊外野手(阪神)
打率.270、2本塁打、31打点、4盗塁
(打率.275、8本塁打、65打点、5盗塁)

 ポジション別で見ると39人中30人が投手で、1999年以降は毎年ピッチャーが受賞している。さらに役割で区分けすると、投手30人のうち先発は22人、救援が8人だった(2011年に10先発、45救援した埼玉西武の牧田投手は救援でカウント)。

 野手9人は内野手が3人、外野手が6人だが、今季は両リーグで内野手――それも、最も重要なショートのポジションで――の新人王が生まれる可能性もある。今季の新人王本命2人は名前の響きが似ているだけでなく、入るバッターボックスも同じ。その数6人と過半数を上回っている左打ちの受賞者は、さらに増えることになりそうだ(両打ちの打者は1人で、希少なサウスポーは6人のみ)。

過去の受賞者から浮かび上がってくる「基準」は…

 投票で決まる新人王は他の候補者の成績が引き合いとなるため、よほど図抜けた成績を残さなければ前半戦終了時点の成績で「当確」は灯らないが、過去の受賞者を見るとある程度の「基準」は浮かび上がってくる。

 先発投手であれば「2桁勝利」をマークし「規定投球回」に到達して「防御率4点未満」に収めるのが新人王獲得への近道だ。先発での受賞者22人のうち15人が3つの要素を満たしていて、正田投手と野村投手は9勝にとどまったが、防御率で10傑入りしている点で光っていた。3要素を1つ以下しかクリアせず、新人王に輝いた先発投手は2人しかいない。

 特筆すべきは前半戦終了の時点で「2桁勝利」に到達していた上原投手と小川投手で、野村投手は15先発して自責点わずか16の快投を披露していた。後半戦に大車輪の活躍を見せたのが石川投手で、上記の投手では唯一、100イニングス以上に達して7勝を上積んでいる。

 表以外では川越英隆投手(1999年・オリックス)、吉見祐治投手(2002年・横浜)、岸孝之投手(2007年・西武)、岩田稔投手(2008年・阪神)、菅野智之投手(2013年・巨人)、高木勇人投手(2015年・巨人)が3つの要素を満たしていたが、他選手との兼ね合いで最多得票を得ることはできなかった。

 先発投手の受賞者22人の前半戦終了時点でのアベレージをとると「6.6勝、89.8回、防御率3.29」で、これに最も近い成績を残していたのが濱口投手だ。先述のように、濱口投手は奪三振率が図抜けて高いが、こうした投球の「内容」よりも、分かりやすい「結果」が投票で優位に働く傾向にある。ただ、前半戦終了前に肩の違和感により登録を抹消され、後半戦のマウンドにはまだ立っていないだけに、早めの復帰が望まれるところだ。

 救援投手は8人中7人がシーズン「50登板」を果たしており、6人が「20セーブもしくは30HP」をマークしている。14セーブを挙げた大久保投手の新人年はホールドが制定されていなかったが、前半戦は最長4イニングをこなしたタフネスで、現行のルールであればセーブ+HPは優に30を上回っていた。チームの勝ちを演出する起用法を勝ち取ることが、リリーフ投手にとっての前提条件だ。

 勝敗と隣り合わせのポジションでは、要求されるレベルも高くなるのは受賞者8人の防御率を見れば一目瞭然だ。8人のうち7人が「防御率3点未満」で、唯一3点を超えた三瀬投手もリーグ全体の防御率4.68を考慮すれば、かなり低い数値を残していた(当時は20登板以上で防御率1点台以内の投手が両リーグに1人しかいない、打高投低が顕著な年だった)。

 岩瀬仁紀投手(1999年・中日)や高橋朋己投手(2014年・埼玉西武)のように出色の成績を残しても、他に優れた先発投手がいれば印象が薄れるのは新人救援投手の宿命だ。しかし、摂津投手のように、1年目からタイトルを獲得できれば箔も付く。この点では、今後の黒木投手の起用法とともに、どれだけHPを稼ぐことができるかに注目したい。

 野手の受賞者9人に目を向けると、走攻守で貢献できるタイプの選手が多い。打撃では、打率がリーグ平均を上回っていたのは8人いたが、長打率と出塁率の両方で平均値をクリアしたのは4人だった。この傾向から鑑みて「総合的な打力」よりも「ヒットを打った確率」の高さが、アピールにつながると言えそうだ。

 小坂選手は打率、長打率、出塁率のいずれもリーグ平均に及ばなかったが、三振と同じ数の四球を選んだ。何より新人史上最多となる56盗塁を記録し、出色の遊撃守備が受賞の決め手だったと思われる。見劣りする打力を余りある走力と守備力でカバーする点で、源田選手は当時の小坂選手に近い存在だ。より攻撃的なショートである京田選手は、梵選手の残した打撃成績に近付ければ新人王が見えてくるのではないか。

 京田選手は現在、セ・リーグ最多の8三塁打を記録しており、梵選手も新人年にリーグで最も多い三塁打を放っていた。部門別のリーダーであったり、ゴールデングラブやベストナイン級の活躍を見せることも新人王受賞を後押しする。実際、野手での受賞者9人のうち6人がその該当者だ。

 前半戦終了時点で打率3割を超えていた選手はほとんどが後半戦で大きく数字を落としているが、3割未到達の選手は後半戦も大きな誤差なく終えているのが野手受賞者の特徴だ。源田選手と京田選手の走守での貢献は申し分ない。それだけに、両者とも打撃で波を作らないことがポイントとなりそうだ。

 本命視されている選手が新人王に輝くのか、意外な選手の急追はあるのか。ルーキー豊作年の秋の収穫を楽しみに待ちたい。(「パ・リーグ インサイト」藤原彬)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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