U-12W杯で世界一を逃した侍 アンダー世代に見る日本球界の抱える問題

台湾・台南市で行われていた「第4回 WBSC U-12ワールドカップ」は8月6日、アメリカが決勝で開催国のチャイニーズ・タイペイを破って3大会連続優勝を飾り、幕を閉じた。悲願の世界一を目指して戦った侍ジャパンU-12代表はスーパーラウンド3位となり、進んだ3位決定戦ではメキシコに敗戦。4位に終わり、メダル獲得を逃した。

侍ジャパンU-12代表の選手たち【写真:Getty Images】

悲願の世界一は逃したものの大会を通じて成長した侍ジャパン18選手

 台湾・台南市で行われていた「第4回 WBSC U-12ワールドカップ」は8月6日、アメリカが決勝で開催国のチャイニーズ・タイペイを破って3大会連続優勝を飾り、幕を閉じた。悲願の世界一を目指して戦った侍ジャパンU-12代表はスーパーラウンド3位となり、進んだ3位決定戦ではメキシコに敗戦。4位に終わり、メダル獲得を逃した。

侍ジャパンU-12代表、銅メダルはならず 仁志監督は選手称える「涙を流すくらいの成長をしてくれた」(侍ジャパン応援特設サイトへ)

 悲願の世界一を目指した侍ジャパンU-12代表。結果だけを見れば、残念なものとなったが、その戦いぶりは賞賛されていいものだった。優勝候補だったチャイニーズ・タイペイにオープニングラウンドで逆転勝ちし、スーパーラウンドの韓国戦では5回に5点のビハインドを背負う展開から、試合をひっくり返してのサヨナラ勝ち。その粘りは驚くべきものだった。ベンチメンバーが氷を持って、守備を終えてベンチに戻る選手を迎え、試合後の表彰式後にはグラウンド内に落ちていた空のペットボトルを拾い集める選手もいた。

 大会で試合を進めるごとに成長を遂げていった選手たち。「チームを作るところから始まったんですけど、始まったときはバラバラだし、自分のことしか考えられないような傾向のある子が多かったんですが、最後に負けて涙を流すくらいに成長をしてくれた。心の成長とチームメートを思いやるとか、そういったところが成長してくれました。最初に集まったときのあの子たちの雰囲気からすると、最後に負けて涙を流すなんていうことは想像出来ないくらいのスタートだった」。チームを率いた仁志敏久監督はこう振り返り、選手たちの変化、成長に目を細めていた。

 世界一への夢は、アメリカ、チャイーズ・タイペイという優勝候補の壁に跳ね返された。今回を含め、4回の大会では第1回がチャイニーズ・タイペイ、第2回からは3大会連続でアメリカが頂点に立った。侍ジャパンU-12代表が世界一になるためには、何が必要なのか。大会が終わった後、世界一への課題、足りない部分を問われた仁志監督は間髪入れずに「それは大人側でしょうね」と答えた。

 大人側の問題――。それは、今大会を率いた仁志監督や江尻慎太郎コーチ、岑和幸コーチ(大阪布施リトル)、孫山昇太郎コーチ(千葉緑リトルシニア)の首脳陣のことを指しているわけではない。侍ジャパンU-12代表を取り囲む環境の問題である。

 今大会の侍ジャパンU-12代表に目を向けてみる。大会途中からエースで4番としてチームに不可欠な存在となった山口滉起(大阪東リトル)や、”U-12世代の大谷翔平”として台湾メディアにも注目された南澤佑音(大東畷ボーイズ)、小学6年生ながらチームの中心として奮闘した山田脩也(荒町タイガース)、キャプテンとしてチームを引っ張り、好守を連発した徳永光希(香芝ボーイズ)と将来性溢れる選手たちが顔を揃えていた。

大人都合のトライアウト、受験前に各地で選考も…

 仁志監督は今大会のメンバーに入った18人のことを賞賛し、認めていた。ただ、その一方で、こうも言う。

「ここに出そうとしない大人がいるんです。子供達をこうやってチームにして『1つになれ』と言っている大人側が1つになっていない。1つにならないといけないですよね」。

 どういうことか。そこには、今の日本の少年野球界に根を張る課題があるのだという。

 現在、硬式球を使用する連盟はリトルリーグ、ボーイズリーグ、ヤングリーグ、ポニーリーグなどが存在する。今大会に向けて、東日本(神奈川県)、西日本(大阪府)で2度のトライアウトを行い、仁志監督ら首脳陣が選手選考を行ったのだが、このトライアウトに参加した計63選手は、リトルリーグやボーイズリーグなどチーム、各団体からの推薦があった選手だった。

 あくまでも、トライアウトに参加するまでの段階は、それぞれのチーム、連盟に一任されていた。その推薦に至るまでの段階で、チームやそれぞれの連盟の試合や大会などの都合を優先して、選手のトライアウト参加に消極的だったり、難色を示されることもあったという。トライアウトの前の段階で相当数の選手が候補から外れていた。この中には、今回の侍ジャパンU-12代表に割って入ってきてもいい選手がいた可能性があるのだ。

 U-12世代とはいえ、日本の総力を結集していたのかと言えば、首を傾げてしまう。仁志監督も「まがりなりにも日本代表なんです。アンダー世代って、プロとかに比べたら、小さいことかもしれない。だけど、この年代の代表チーム、U-15もそうですけど、そのチームを作っている意義というものを、もう1回考えないといけない。作るだけ作っておいて『あとはヨロシク』じゃいけないですよ」と疑問を呈す。

 また、トライアウトが行われたのが神奈川県、大阪府で行われた2回だったということもあり、トライアウト開催地から遠方の、例えば、九州や北海道といった遠方の選手が参加するのが難しい状況もあった。選出された18選手の内訳を見ると、東北地方が2人、関東が4人、東海甲信越が2人、関西が9人、中国が1人。様々な難しさがあるのは分かるが、トライアウト開催地を増やすなど、侍ジャパンサイドの選手選考方法にも、課題は多く残されている。

 今大会を見る限り、侍ジャパンU-12代表の選手たちは、世界と比較をしても、上手さを備えていた。ただ、チャイニーズ・タイペイやアメリカの選手たちは、上手いというよりも、凄かった。開催国のタイペイにはU-12世代にして130キロをマークした郭書?や、飛距離90メートル級の本塁打を放っていた白振安がいたし、アメリカのアトマンチェクは、大会最多タイの5本塁打を放ち、投げては日本戦で好投、捕手としても12歳にして膝を着いたままに二塁送球し、盗塁を刺した。

 スケール感という面では日本は、アメリカ、チャイニーズ・タイペイに劣っていたと言わざるを得ない。確かに、アメリカは体格的にも日本に勝る。チームで18本塁打を放ったが、それほど体格的にも変わらないチャイニーズ・タイペイはアメリカを上回る21本塁打を放った。侍ジャパンU-12代表は4本塁打だった。スイングの鋭さには、相当な違いが見られた。

仁志監督「逆シングルでもいいんですよ」

 これも、課題ではないか。チームの関係者からは、子供たちに対し、三振やミスを咎め、型破りなプレーを叱責する指導者が多いと聞く。チームの勝利を至上し、フルスイングや型にはまらないプレーを認めない空気があるのだという。それが、ボールにバットを当てにいくだけだったり、スイングが弱いといった”こじんまり”としたプレーにつながる要因となっているのではないか。

 さらには、指導者の指導にも異論があるという。例えば、少年野球の世界で良く教わる「ゴロは体の正面で取れ」という教え。体の横に飛んだ打球に対して回り込んで、体の正面で取れと子供時代に教わった野球経験者も多いはずだ。

 これに対して、仁志監督は「逆シングルでもいいんですよ。体の正面というのは、常に捕球するときに、グラブが体の面の前にあるということ。逆シングルの時にも、グラブは体の面の前にあるということ。体の正面にグラブを置くということで、回り込んで体を正面に向けなきゃいけないということじゃない。大切なのは取ることではなく、しっかりと送球するために、どうキャッチするか」と否定する。首を傾げたくなる指導が往々にしてあるのだという。まかり通った、凝り固まった指導ではなく、選択肢を与える幅のある指導も必要だという。

「日本の野球界を引っ張っているのはプロ野球ですけど、日本の野球界を支えているのは少年野球。組織的なものも含めて、子供たちのために最善を尽くしたいですね」と仁志監督。プロの一流選手が集うトップチームと同じ侍ジャパンのユニホームを着て、日の丸を背負って世界と戦う舞台に出たくない子供は、ほとんどいないだろう。それを大人たちの思惑、都合によって、妨げられるのはいかがなものか。

 仁志監督の言う通り、日本の野球界のトップに立つのはプロ野球である。もっとプロ野球界が先頭に立って、子供への野球教室だけでなく、球界として指導者への講習会を行ったり、球界全体として体系的な組織作り、育成方法、そして運営体制を作ることが必要なのではないか。侍ジャパンU-12代表だけの問題ではない。球界全体が発展していくためにやるべきことが、問われているのではないだろうか。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

© 株式会社Creative2